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Ⅲ.大好きな卵編

18.僕、もう迷子になりません!①

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 実は僕、とっても悩んでたんだ。 
 僕の将来と、ヴァルの幸せを考えて、ね。 
  
 こんなに悩んだのは、この200年で初めてだ。

 皆様、ご存じでしょうか。 
 今、この世は危機に瀕しているみたいです。 
  
『200年後に、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』 
  
 はい、注目! 
『黒き竜が迷い』←はい、ここっ!ここが、僕的に重要なとこ! 
  
 僕、気づいたんだけど。
 もしかしなくても、これって僕のことでは? 
  
 はじめは、僕以外にも迷子になる竜がいるんだなぁ、お互い大変だね。なんて考えてたんだけど……。 
  
 僕も成長して、知っちゃったわけだよ。
 僕の竜気ごはんは黒い竜気で、“澱み”だとか呼ばれてて、生き物には悪くて、さらに溜まりに溜まったら、世界も滅びちゃうってこと。 
  
『澱み溢れ混沌に落ちる世を』←ほら、予言でもこう言ってるしね! 

 黒い竜気を食べる竜。黒き竜。これ、僕でしょ。

 つまり、僕ってこの予言のものすごい関係者ってことだ。この世の危機の関係者ってことだ。

 知らなかったけど。知ってしまったら、悩んじゃうでしょ。

 だって、この世が滅んだら困るもんね!

 だから僕、ずっと悩んで悩んで悩んで……でも、結局はヴァルが答えをくれたから。

 だから、僕は、もう悩まない。

 次、ヴァルに食べさせてあげる美味しいものは卵に決定します!

 今、え?て思った人は、良く考えてほしい。

 もし、「明日この世が滅びるらしいよ」て言われたら、どうする?

 僕は迷わずヴァルと美味しいご飯を食べます。

 これ、絶対。断言できる。

 この世が滅んだら何が一番困るって………。

 ヴァルと美味しいものが食べられなくなるってことでしょ!

 僕はまだまだ、ヴァルの作った美味しい料理食べたい。
 まだまだいっぱい、ヴァルと一緒に美味しいもの食べたい。

 それしかない。

 以上より、今がこの世の危機と知った僕が、まず初めにやるべきことは、つまり………。

 ヴァルに最高に美味しい卵を用意すること!
 そして、ヴァルに最高に美味しい卵料理を作ってもらって、一緒に食べること!

 これ以外ないでしょ!最優先でしょ!

 僕がたとえ、普通じゃ無い竜でも。
 この世の危機と関係ある黒き竜でも。

 誰に何と言われようと。

 僕は、ヴァルのために美味しい卵をゲットします!

 ほら、黄金竜の長グノだって、『ルルドはルルドでいればいい。それだけ』って言ってたしね!

 はぁ……でもね。
 これを決意するには、ホントに長い長い苦悩があったんだよ。

 だって、僕、失敗してるから。

 ヴァルがお野菜好きだと思ったから、まず手掛けたお野菜作り。 
 残念ながら、一番の好物じゃなかった。何たる不覚。完全に僕の、リサーチ不足だった。完全に出鼻くじかれた。がっかりだよ、まったく。 
  
 次こそは、何としてでも一番好きな食べ物をヴァルにあげたいと思うじゃない?

 僕、もっとヴァルの喜ぶ顔が見たい。僕が喜ばせたい。そして、もっと役に立ちたい。 
  
 で、ヴァルの作った美味しいご飯を頂きたい!
 もちろん、これも超重要! 

 僕はずっと、卵か、チーズか、蜂蜜か……ずっとずっと悩んでたんだよね。
 どれも捨て難くて、決定打にかけて。

 第一候補は、チーズだった。
 理由は単純。ヴァルがあまりにもチーズが好きそうだから。

 ヴァルの好みをリサーチするべく、一番好きなチーズは何かって尋ねたら。 
  
「は?チーズ? 
 それって、フレッシュで?白カビで?青カビで?セミハードかハードでか?」 
「うん?」 
「……それ以外は、お前に食べさせたことないよな。どっかで昔、食ったのか?」 
「んー……?」 
「どの種類での何が一番だって話か?それぞれ、3種類ずつくらいあるけど」 
「えーっと……」 
「それか、あれか。シェーブルとか……原料を聞いてんのか?羊かヤギでも飼うつもりか?やめとけよ。場所がねぇ」 
「いや、あのね、」 
「熟成期間の話じゃねーよな?」 
  
 うん。ヴァルのチーズ愛が深いことはわかった。むしろ、それしかわからなかった。 
 チーズって、牛のお乳からつくるんじゃないの?そんなにたくさん種類があるの? 
  
 どうやら僕に、チーズはまだ早かったらしい。
 なので、チーズ作るのは、とりあえず諦めた。ムリ。あの愛に答える自信、今の僕にはない。 
  
 だから、おいおい勉強してからにすることにする。ヴァル、待っててね! 
  


 で、蜂蜜はというと……。
 僕、知ってるんだよね。それはもう、蜂蜜よりもっと甘くて、とろりとした極上の甘露を。

 ヴァルがくれる……ヴァルしか出せない、美味しいやつ。
 何って……アレだよ、アレ。白くてとろりとした、あの美味しいやつ。
 下のお口でいただきますするようになってからは、口にしてなかったんだけど。

 で、この前僕のお腹にかかったときに、ちょびっとペロリしてみたら、やっぱり信じられないくらい美味しかった!

 はぁ……思い出しただけで、うっとりしちゃう。
 やっぱりこの世のものとは思えない美味しさだった。
 お口でぺろりしたときは、ほわわわぁ~~…てなった。こんなに美味しいもの絶対に他にない!て思ったよね。

 僕、あきらめないから。ヴァルのおっきなキャンディをまたぺろぺろするの、ずっと狙ってるから!
 ………でもねぇ、すっごくガードが硬いんだよね。
 うーん、大事なところだしね。防御は大切だと思うよ。

 僕以外からは、しっかり守ってください。僕への防御以外は、硬いままでいいんで。

 あれを知っちゃってる以上、いくらヴァルがパンケーキだとしても、蜂蜜程度じゃ僕が絶対に満足できない。

 つまり、ヴァルは自分でパンケーキとして完成された存在だったってこと!
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