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Ⅲ.大好きな卵編

17.異界の者⑥

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 大神官は、醜態を公衆にさらした。デュランは、行方知れずとなった。
 二人は、多くの証人と証言、物的証拠を残していた。

 大神官は、事実上の人身売買の主犯として、権限を凍結された。
 デュランは自身の昔馴染みと、自身の恩人でもある孤児院の院長を口封じのため拉致し、ヴァレリウスに現場を目撃され逃亡したとして、指名手配された。

 俺があれだけお膳立てしてやったのに、あいつら……。

 結局、自分で勝手に破滅しやがって!
 なんて使えない奴らなんだよ!!

 なんだよ、どいつもこいつも!
 俺を「竜に愛された子」だって、竜の神子だって言ったのは、お前らだろう!
 それを、何をいまさら、蔑むみたいな顔で見てんだよ!

 さらに降誕の地に贖罪の巡礼に行けだと?
 なんであんな、危ない生物がはびこる、辺鄙な場所に俺が行かなきゃいけないんだよ!

 贖罪の巡礼って、あれじゃないか。

 小説の冒頭に出てくる、200年前の予言。
 あの予言を直接見聞きした連中がやってたやつじゃないのか。

 『竜に直接まみえ予言を賜ったのは、降誕の地を贖罪の巡礼で訪れていた神官たちだった』

 さらりと一言だけ書かれてるだけの、本編では全く出てこない内容じゃないか!
 竜の神子の俺がやるようなことじゃないだろう!?

 ああ、もう、どうでもいい。馬鹿馬鹿しい。

 正直、俺は別にこの小説好きでも何でもないし。
 小説の通りになるとか、本当はどうでもいいんだよな。

 ただ、流依のバッドエンドのバカみたいに死ぬ原因になった小説の主人公として、救世主として、ハッピーエンドを迎えるのが最高に面白いと思っただけ。

 俺が楽しくやれれば、何がどうなろうとどうでもいいんだよ。
  
 降誕の地に行って帰ってくればいいんだろ?

 行ってやるよ。ヴァレリウスも一緒に。
 降誕の地は、竜気が濃い。つまり黒い竜気も濃いってことで、ヴァレリウスの体質で無事にいられるはずがない。

 小説通りなんてどうでもいいけど、ヴァレリウスはこのままで済ますなんて、俺の気が済まない。
 ちょうどいいじゃないか。一緒に連れて行けば、あいつは勝手に自滅する。しなくても、どさくさに紛れて殺してしまえばいい。

 俺がこうなったのだって、全部あいつが悪いんだから。

 どうやって誘い出すか考えていて、俺は小説には出てこなかったヴァレリウスが一緒に住んでいるという青年を思い出した。

 妙に気になる、あの青年。

 ルルドという名前らしい。聞いたこともない。小説には出てこなかった名前だ。姓はないようだが、記憶喪失というから名前も本当かわからない。

 街中で会った青年がつけていた首飾り。あれは小説に出てくる「隷属の首輪」と同じデザインのものだ。間違いない。

 小説ではヴァレリウスが作成し、黒き竜を隷属させたという呪いのアイテムだ。

 つまり、あの青年が黒き竜ってことじゃないか!

 カマをかければ、ヴァレリウスはわかりやすく反応してくれた。あの首飾りには特殊な力は感じないけれど、ヴァレリウスが作って彼に贈ったことで間違いないらしい。

 小説での黒き竜は、その名前の通り、真っ黒な毛におおわれた巨大なおどろおどろしい生き物だった。
 黒い神官に縛られ操られ、まるで苦痛にもがくように姿は朽ち果てている。それでも死ねずに生かされている哀れな生き物なのだ。

 黒き竜は人の姿では登場しないから、気づかなかった。
 他の竜の長も、この世の者とは思えない神々しい姿だと描写されていたから、あの浮世離れした容姿もうなずける。

 黒き竜は黒い神官にとって、あくまで黒い竜気をためる器か道具みたいに扱われてるはずだけど。

 ヴァレリウスはどう見てもあのルルドという竜を大切にしてる。
 小説では描かれてないけど、黒い神官と黒き竜の間には互いに情でもあったのか?

 俺が黒き竜に対抗できることについて言及すれば、案の定簡単にヴァレリウスは巡礼の旅への同行に同意した。

 名前を出しただけで、あんなに殺気立つとか。お前が名前呼ぶんじゃねぇよ、って声が聞こえてきた。
 マジでウケるな。狙ってくださいって言ってるようなもんだよ、あれじゃ。

 自分の命を懸けてでも、あの竜を守りたいとでも考えてんのかな。ヴァレリウスなら有り得る。本当にバカな奴だな。
 はぁ………うっとうしい。つまんない生きてる価値もない奴は、さっさと死ねばいいのに。

 でも、あの黒き竜には……俺、とっても興味があるんだよな。
 どういうわけかわからないけど、妙に気になる。なんで、竜であるあの人が、俺の世界のことを知ってるんだ?



 ヴァレリウスがいなくなる時のことを考えるとわくわくする。
 ヴァレリウスがいなくなった後を考えると……ああ、すごく愉しみだな。 



 こんなに楽しみなのは、流依が死んだ時以来だよ。
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