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Ⅲ.大好きな卵編

11.俺は、前向きに決意する④

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 竜の長たちの総意は、間違いなく黒き竜が存続し続けることだ。

 じゃなきゃ、この世の根源ともいえる存在である竜のその長が、こぞって黒き竜ルルドを「大切」だと言い、人である俺なんかにご丁寧によろしく頼む理由がねーよ。 


『君たちが共にあること、この世にきっと救済をもたらす』
  
 しかも、俺付きで。

 黄金竜の長は、俺のことを『すべての“澱み”を留める魂』と言った。

 そして、
『異界の者、ルルド、君に、引かれ合う魂。この世の異物。この世の理を乱す者。かの者に、この世の理を体現する竜の力、及ばない。
 人は脆い。けれど、人の子に委ねる他ない』と。

 この言葉がきっと、俺と、ルルドと、そしてユーリの因縁を表してる。

 引かれ合ううんぬんは、どうでもいい。言われなくとも実感をもってうんざりしてる。

 それよりもこれ………異界の者には、竜の力が通用しない、て意味だろ?

 単純な能力を見れば、ルルドがユーリに負けるとは思えない。けれど、そもそも竜の力が『異界の者』に、及ばぬとなれば、話は違う。

 ユーリが吹いている、『竜の神子が黒き竜を討つ』という話が無視できないのはこの言葉のせいだ。

 でもって……俺にはユーリをどうにかできるという意味だ。

 実際、ユーリの信用が地に落ち、俺がルルドの竜騎士になった今、遅れを取る要素は何もねぇよ。

 ユーリは『物語』を知ってる分、自分が優位だと思ってんだろうけど。もうとっくに、お前がいいようにはなってねぇのに。おめでたい奴だな。

 実は神殿側からも、今回の巡礼に際して、3人に対抗しうる神官だからという理由で、審問官の依頼があってた。

 当然俺はユーリの贖罪に協力するつもりは微塵もないが、だからと言って、竜や神殿の意向に従うつもりもない。

 俺はもう、誰かに何かを言われて、命じられた通りにすんのはご免だ。
 それが竜の神子だろうが、竜だろうが、神殿だろうが、俺からすれば皆一緒だ。

 でも同時に、俺は待ちの姿勢で何かが起こんのを待ってるほど、気は長くねぇ。

 俺は、俺がやりたいように前に行く。

 ユーリの知っているらしい、黒き竜が滅せられるという『物語』。

 そんなくだらない『物語』は、早く終わらせようぜ。 

 俺が、きっちり終わらせてやるよ。

 だから、ユーリの提案はむしろ都合がいい。
 俺がもはや、ユーリを脅威とも思っていないこと。
 それでいて奴の「竜に愛された子」だとか、竜の神子だとかの看板を地に落としてやろうと考えてること。
 ましてや、ルルドを、俺をどうこうさせる気はさらさらないこと。

 そういった俺の真意を、隠してくれるから。

 だからこそ、俺はユーリの提案を、飲むふりをした。

 俺の返答にユーリはしたり顔で微笑んで、俺は内心ほくそ笑んだ。

 まぁ。せいぜい、俺が脅しに屈して、まんまとユーリの策に乗ったとでも思って浮かれてろよ。巡礼の間に、もう二度とつまんねぇこと考えられないようにしてやるから。



 降誕の地への巡礼は、往復で3から4週間を要す。

 俺はしばらく家を空けることになる。

 比較的長い間、不在にする理由をルルドにはただ「しばらく家を空ける」とだけ説明した。 

 すると俺の予想に反して、ルルドはただ「わかったよ!」とだけ返事をした。 
  
 いつもなら「どこ行くの?」だとか、「僕も行く!」だとか煩いくらい、しつこく追いすがってくるくせに。 
 なんと言いくるめて、留守番させるか悩んでた俺が馬鹿みたいじゃねーか。 
  
 気に入らないが、都合はいい。
 俺の中の黒い竜気を凝縮した竜石をまとめて袋に詰めて渡しておいたから、腹の具合も大丈夫だろう。

「ルルド」
「なに?ヴァル」
「帰ったら、話がある」
「ふーん……?」
「大事な話だ。待っててくれ」
「うん!わかった」

 今回の巡礼が終わったら、これから先のことを話そうな。

 ルルドをユーリから遠ざけておく方がいい。一人にするのは不安だが、これで正解なんだ。 

 降誕の地で……ユーリが黒き竜を討つのだという地で、竜の神子と、俺とルルドが揃うなんて、できれば避けたい事態に決まってる。

 それこそユーリの望む展開を再現してるみたいじゃねぇか。

 自分に言い聞かせるように、俺は出発の日を迎えた。 
  
  
  
 * 
  
  
  
 じめじめとした森の中。鬱蒼とした草木生い茂る、湿地帯。 
  
「あれぇ……?なんで?なんで、ヴァルがこんなとこにいるの?」 
  
 怪鳥に抱き着き、黒い大きな瞳をきょろきょろと彷徨させる白い竜が一人。 
  
「それは、こっちの台詞だ」 
「ええー……っと……これは、なんというか……もはや、運命かな?」 
  
 運命。ああ、運命か。もう、そうかもしれねーな。 
  
 黒々と輝く瞳が、俺を見上げうるうると、不安そうに揺らめいている。 
  
 ルルド……なんでお前が、降誕の地ここにいるんだ。

 ルルド。お前はつくづく………ルルドなんだな。
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