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Ⅲ.大好きな卵編

7.俺は、白い竜に気づかせたい③

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 2週間の調査期間を経て、今回の事件に関しては、首謀者はデュランである、という結論が下された。 
  
 あの日以降、行方不明のデュラン不在のまま、罪は確定し、身分の剝奪と、発見し次第、神殿へ連行されることになっている。生死は、問わない。 
  
 これは、これ以上の醜聞を公に暴かれてはならない、ということであり、速やかに刑を執行せよ、ということで。 
 死人は何も話せない。つまり、そういうことだ。 
  
 それに伴い、デュランを引き取っていた神官の一族は共に没落することとなった。 
  
 俺に着せられるはずだったらしい罪が、そのままデュランに押し付けられた形だ。
  
「デュランが、こんな……嘘だっ! 
 ヴァレリウス……お前が、……お前が、デュランを……っ」 
  
 ユーリは、デュランの沙汰に、俺をなじった。 
 デュランの昔馴染みとして、自警団の者として、あいつの蛮行を止められなかったことを責めているように、周囲には映るだろうか。 
  
 お前にだけは言われたくねぇよ。

「俺なんかより、ユーリの方がずっとデュランと一緒にいただろう?
 俺がデュランといたのは旅の道中くらいだ。それもここ数年、まともに口を聞いてもねぇ。
 自警団に派遣されてからは、顔も見てなかった。
 そういうユーリは、本当に気づかなかったのか?あれだけデュランといて、まったく?」

 正面切って言い返す俺に、ユーリは言葉を詰めた。

 カインとメイナードが「そんな言い方は」だとか、「ユーリもショックを受けていて」なんて言えば、

「お前らも同じだよ。ホントは知ってたんじゃないのか?いつも、4人で一緒だったじゃねぇか」

 これまた二人も口を閉じた。
 肯定はできないだろうし、否定すれば仲間であったデュランを切り捨てることになる。

 俺を切り捨てたのと同じように。

 俺が罪を被らなかったのが、よほど腹に据えかねたらしいな。思い通りにならないからって癇癪を起こすな。ガキかよ。 

 目の色変えて睨まれたって、ちっとも怖くねぇよ。こちとら場数がお前とは違う。俺はいつも命張ってんだ。

 そっちがお前の本性なんだろう?鬼の形相の方が、ずっとお似合いだぜ。 
  
 なんたって、大神官とデュランを唆し、俺に人身売買の一切の罪を着せようとした主犯は、お前だもんな、ユーリ。 

 ルルドが言っていた。大神官くさいひとが「竜の神子が(ルルドを)保護するように進言した」ってな。 

 お前はここまできても、教唆しただけ、なんて思ってんだろうな。
 もしくは臭わせ忖度させただけで、自分は安全な場で、皆が狼狽し傷つくのを見ていたんだろう?
  
 さぞかし、滑稽で愉快だったろうよ。 
  
 ルルドがいなければ、ケビンも院長も、孤児たちもみんなが犠牲になった。 
 黄金竜の長が現れなければ、俺はルルドの竜騎士にはなれなかった。

 以前の俺とデュランの実力は肉薄していた。 

 あの状況で、ケビンや院長、孤児院もある街を盾にされたら……俺は、間違いなく一か八かあの禍々しい黒い石を飲んだだろうな。

 で、俺自身が、俺の大切なものを全部この手でぶっ壊しただろうよ。

 だから、ユーリ。お前の企みはやっぱり秀逸だよ。 

 けれど今回の一件は、堪えてるだろうな。

 ユーリに注がれる視線は、以前と明らかに異なり、周囲は冷めた目で見ていた。  
 
 あれほどの大きな悪しき謀が、一神官の為したことでないことは誰の目にも明らかであって。
 全ての謀略は、表向きにはデュランの罪状となったものの、大神官も組織の長としての責任を問われ、事実上、すべての権限を凍結された。 
  
 残念ながら神殿の最高位である大神官の役職は、死ぬまで返還することは無い地位だ。つまり、これは実質的には身分剝奪と同等の処分といえる。 

 ユーリを竜の神子と認め、尊んだ大神官と、ユーリが竜騎士の候補と選んだデュランの醜行と失墜は、竜の神子として不動の地位を確立していたユーリにも同等かそれ以上の打撃を与えた。 

 熱狂的に竜の神子を崇め奉っていた神官たちも、今や疑心と悪念を隠そうともしない。 



 俺は査問に対し、あの屋敷でデュランに会ったこと、孤児院の院長をそこで保護したこと、デュランの逃亡を許してしまったことを、事実としてそのまま説明した。 
  
 もちろん、ルルドが院長の怪我を回復したことや、俺が直接的にデュランの逃亡にかかわっていることを隠したけど。 
  
 普段から俺とデュランが対立していたことは、周知の事実であったから、俺がデュランを庇うなんて、誰も疑いもしなかった。 
  
 疑われなくて良かったはずなのに、疑われなかったことに俺の心がヒリヒリと痛んだ気がして、我ながら性懲りも無くアホ過ぎると自分に嫌気がさしたとき。 
  
『大切な気持ちは、大切なままで。何がダメなの?
 だって、それはヴァルのものなのに』 
  
 そうだよな。ま、どう足掻いたって、これが俺だもんな。 
 だから、今度は自分の気持ちをすんなりと受け入れた。 



 異界の者、そして「竜に愛された子」である竜の神子、ユーリ。好き勝手出来る時間は、もうお終いだ。

 ユーリは大神殿と大神官、そして地方の神殿と神官たちの関係を何もわかっちゃいねぇ。
 これは、きっと俺にとっては幸いだった。

 組織の長は、組織全体に大きな影響を及ぼす。
 まともな奴は、異常な状況に抗っても困難で、さらに自分が悪事に加担するぐらいなら、侵食される前により価値のある場所に移っていくもんだ。

 それでも、大神官が今の地位にあり続けたのは、奴が大神官になって以来、予言を持ち出しては自身のいいように法典を改変してきたからだ。
 あいつはムカつくほどに狡猾で、そして貪欲に、証拠を残さず尻尾をつかませず、仮にその先端を握っても握った者ごと証拠を消すことに執心してきた。

 一度腐った組織は、そう簡単には生まれ変われない。
 腐ったとこには、腐ったやつとその取り巻きしか集まらなくなるからだ。

 ユーリはずっと大神殿に居て、知らねぇだろうが。
 大神官はもう随分と前から、純然と正しく竜に仕える神官たろうとする高位神官や、地方の神殿には睨まれてたんだよ。

 今回、大神官の不祥事に集結したのは、虎視眈々と地方で機会をうかがっていた神官たちだ。

 ここにきて、公然と大神殿、大神官という最高権力に踏み込む機会を得たんだ。こんな好機、逃すはず理由がねぇ。

 間違いなく、大きな粛清が行われる。

 この機会に、叩いて出る埃はすべて掃ってもらおうぜ。ユーリ、お前の分も含めてな。
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