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Ⅲ.大好きな卵編

6.俺は、白い竜に気づかせたい②

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 そもそも俺はな、お前の竜騎士になって、黒い竜気を操れるようになったって言ってんだろうが。

 自分の中の黒い竜気を結晶化することだってできるって説明しても、ただ「すごい。器用」っつーだけで。
 ルルドの非常食になる、なんて言えば、「すごい。美味しい」と言うだけで。

 馬鹿か。
 馬鹿だろ。
 知ってたけど、ここまでとは。

 ちったぁ考えろよ。
 これってつまり、俺とお前が一切接触しなくてもお前は腹いっぱいになれるし、俺も黒い竜気を溜める必要がねぇってことだよ。

 俺が作った黒い竜気の竜石を、お前に食わせればいいってことなんだから。なんで、それに気づかねぇんだ。

 しかも、おそらくルルドは自分が触れているところから俺の中の黒い竜気を食えるのに気づいてる。なのに、それを俺に言ってこない。

 なんのつもりだ。どんだけ俺をもてあそぶんだよ。

 あー……俺は何だって我慢してんだっけ?我慢する意味あるか、これ。
 もう、好きなだけ、いじくって、突っ込んで。ぐちゃぐちゃにして、あんあん言わせればいいんじゃねぇの?こいつ、絶対に拒否しねぇよな?

 いやいや、それは無い。俺から求めれば「黒い竜気が溜まってるの?」だとか、またわけのわかんねぇことを言い出すに決まってる。
 そしたら、これまでと何も変わんねぇだろ。あいつが、自分で自分の気持ちに気づかねぇと、意味がないんだよ。

 この葛藤を、俺はこの3週間、死ぬほど繰り返してる。

 あいつからの、確かな好意は感じるのに……。

 あいつが何を考えてんのか、俺には全然わかんねぇ。

 俺がルルドに気持ちを伝えれば、どうにかなんのかな。この事態。

 はぁ……なんてことない。結局のところ、俺は恐れてんだよ。
 
 時が来れば………赤銅竜の長が現れる。それがいつかすら、俺には知る手立ても無い。

 その時が来たら。
 ルルドが成熟したら……。

 どうなるのかわからねぇ。

 ルルドがどうなるのか、今のルルドでいる保証は、どこにもないんだから。
 より竜らしく、人らしい言動や感情がなくなってしまうかもしれない。

 餌係でなくなった俺とルルドの関係が、今のような関係であることができるのか、それもわからない。

 そしてそれは、俺にはどうすることもできない次元の話だ。

 だから、俺は恐れてる。
 ルルドの俺への好意を感じながら、感じているからこそ、思いが通じ合って浮かれた後に、何もなかったみたいにルルドにそっぽを向かれるかもしれない。

 それを俺は恐れてる。

 俺はもう随分と色々諦めてきた。何もかも元から自分のものじゃないと思うことで。元から自分のものじゃなければ、いくら奪われても気にならねぇ。俺の何も損なわれねぇ。失われねぇ。

 だから、自分の手に何かをつかむことが、自分のものにするのが、何よりも恐ろしい。
 手にしたものがその後、無くなってしまうなんて、考えられない。

 だから、俺は意味があろうとなかろうと、毎日ルルドに口づける。 
 口づけて、黒い竜気を注いでやれば、うっとりととろけるような顔で見上げてくるあいつが、少しでも俺を好きなんだと自覚すればいい。 
 その思いが手放せない程に、手放せばルルドがルルドでなくなるほどに当たり前のこととして、刻まれればいい。
  
 できるだけ深く。ルルドの奥深くに。何があっても決して消えない程に。強く、深く。
 もっともっと、俺がいなきゃダメになっとけよ。

 わかれよ、ルルド。

 竜のお前と違って、俺たち人の時間はそう長くないんだよ。



 *


  
 大神殿のお膝元で、大神殿所属の神官が関わった大きな事件とあって、各地から上位神官が招集、集結した。

 事態の収拾と並行し、神官および関わった市民や被害にあった孤児院の面々に至るまで、広く査問が執り行われた。 
  
 大神官があの騒動の場で、公然と無様な姿をさらしたことは隠蔽しようもない周知の事実だった。
 思い出しても笑えるあの醜態は、奴と神殿の権威の失墜を決定づけた。 

 今回の事件についての捜査や審査、懲罰の決定に至るまで、あいつには一切の権限が与えられなかった。 
  
 そうでなくとも、あれ以来、大神官は体調を崩すことが増え、実質的に指揮を執ることが困難だった。 
  
 ルルドに、何かしたのか、と問えば。 
  
「え?ヴァルが、臭い人のこと不能にしとけって言ったから。 
 元気にならないようにして、やらしいこと考えたり、しようとしたら、全身に激痛が走るようにしたよ。 
 繰り返せば、しおれた息子さんともお別れのはずだよ」 
「……お別れ?」 
「うん。腐り落ちるの」 
「……………へぇ」 
「しぼんでしぼんで、最後はぽとりってなるんだよ。だから最期は、ちゃんと生ごみに捨ててね」
  
 常に体調が悪いっつーことは、つまり、常に色欲にまみれてるってことだ。 
 どうせ、お好みの奴を侍らせて世話させてんだろう。この状況で欲情できるって、根っからの好色漢だな。ある意味感心する。 
  
 腐り落ちる決定だな。己の色狂いのせいで、自分が狂うんだから本望だろう。 
  で、最期は生ごみか。もういっそ、本人ごと生ごみとして処分したくらいだ。
  
「あ、あとね。何をしても絶対に毛は生えてこないよ、って無駄な努力して周りの人に迷惑かける前に教えてあげたがいいかも。
 被り物やつけたりするのは、瞬時に燃えちゃうから火傷しちゃうよ」 

 あいつは何よりも頭髪を大切にしてたからな。ルルド、お前、最高だよ。 
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