124 / 238
Ⅲ.大好きな卵編
4.僕、多感なお年頃です④
しおりを挟む甘くて、美味しくて、もっともっと欲しくなる。たくさん、もっと。もっと、ちょうだい。
僕の好きなものをぎゅっと凝縮したような、ヴァルのくれる、僕の竜気。
「はぁ………んんっ」
唇が離れ、最後のダメ押しにヴァルがぺろりと僕の唇を舐めた。
あ、ずるい。僕が舐めたかった。
「ごちそーさん」
にっと笑って、ヴァルは出かけて行った。
家に一人残された僕は、ドキドキと早くなった鼓動と、じんじんと体の芯が痺れるみたいな熱が静まるのを、しばらくの間うずくまってじっと待つ。
これが、最近の僕と、ヴァルの普通の朝。
うーーーーっん!
やっぱり僕、なんか変だ。最近、とっても変。
ヴァルも変だけど、僕の方がずっと変!
だって僕、最近ヴァルになでなでされると、ドキッとして、きゅうってなって、心臓が破裂しちゃうみたいにバクバクするんだから。
前は、ヴァルをみてると、ヴァルの匂い嗅ぐと、ヴァルに抱きしめられると、美味しくてイイ匂いが嬉しくて、ふにゃふにゃにとろけるような気持ちよさで、幸せになってふわふわするばっかりだったのに。
最近は、ぎゅうっと胸とかお腹とかが引き攣れるみたいに痛くて、そわそわして落ち着かないみたいな気持ちになって、なんだかとっても苦しくなる。
一緒にいたいのに、苦しくてドキドキして、きゅうっとなって、しんどくなる。
これって、何なの?胃もたれとか胸やけってやつ?
ヴァルと一緒にいたいのに、一緒にいるととっても苦しいなんて、こんなの変だよね?
もしかして、ヴァルの過剰摂取かな?
…………………それとも、ヴァルに隠し事があるから?
実は僕、黄金竜の長グノに竜気をもらって以来、触れただけでヴァルの“澱み”をいただけるようになった。
はじめはふんわりじんじんイイ匂いだなぁ、くらいしか思ってなかったけど、ヴァルにくっつくたびに、ぱちぱち甘いのが広がって美味しいなってなって、思ってね。
ヴァルがあの日……、あの夜にヴァルに裸の全身をなでなでされたとき。
僕のお腹の上に、ヴァルの美味しい白いのがかかったんだけど、その時にぶわわわぁ~……って美味しいのが広がっていって。
あれ?これって僕、お肌から食べれるようになってるんじゃない?って、気づいちゃったんだよね。
なんてことだ。竜は皮膚呼吸ならぬ、皮膚消化?吸収?できるらしい。
このお肌からじわじわふわふわした美味しい感じ、実は初めてじゃない。
今までは薄すぎて気づかなかっただけで、これまでも僕は本当に少しずつだけど、お肌から黒い竜気を食べていたみたいだ。
ヴァルにくっついてると、なんとなく美味しくてちょっとお腹が膨れる感じがしたのは、気のせいじゃなかったんだね。
そうだなぁ。前に比べると、じわ~……が、ちょろちょろ~……くらいになったというか。
もしくは、ぺろぺろ、からのぱくぱく、になったくらいというか。
ね。僕も少しは成長してるでしょ!
だから、僕、もうヴァルとセッ……して、下のお口から黒い竜気をもらう必要もなければ、それどころか、キスしてもらう必要すらない。
で、僕は、その事実を、ヴァルに言えずにいる。
うーんと……ほら。その、ね?
別に隠してるわけじゃないんだよ?
ただ、言い出すタイミングが無くてさ。ホントにホントだよ?
だって、言うにしてもなんて言うの?
ヴァルは僕に竜気くれようとキスしてくれてるのに、「実は僕、もうキスしてもらわなくていいんだよ」って言うの?
何、この激しく勘違いしてる何様なの?って人のセリフみたいの。
僕には、ムリ!絶対言えないでしょ、これ!
それにこれ、言われた方は、ものすごく恥ずかしくない?
僕、ヴァルに恥かかせない?
………する必要がないって言っても、しちゃダメだってことじゃないし。
実際、キスして口からもらう方が効率がいいみたいだし?
………実は人型の方がなでなでされる方が気持ち良くて、ぴったりくっつく感じが好き。
これもきっと、お肌から竜気をもらえるからだよね?
むう………。
僕の成長をヴァルに言った方がいいのか。いや、言えばいいだけなんだけどさ。
だけど、僕はなんだか言いにくくて、言いたくなくて、言えない理由も良くわからないままに、一日一日が過ぎていって、どんどん言い出しにくくなっちゃって。
今に至る。
やってることは、前より全然大したことないのに。
なんでか頭はじんじんしびれて、お腹も胸もいっぱいで、僕、おかしくなっちゃいそうなんだよ。
ヴァルが、「しばらく家を空ける」と言ってきたのは、そんな矢先だった。
僕、「よかった」なんて、寂しいのに、ちょっとほっとしたりなんかして……。
ヴァルと一緒にいたいのに、どうしてこんなにほっとしてるんだろう。
ヴァルがいないと、ドキドキしたり苦しくなったりすることもないから、なんて。なんでこんなこと思ってるんだろう。
わかんない。僕、わかんないよ。
でも僕は……ずっとヴァルといれないから。必ず、お別れしないといけないから。
そしてそれは、僕が過ごす時間の中では、そう遠くない未来の話だ。
だから、こうして一人で過ごすことにも、慣れないといけないんだ。
ヴァルがいなくても、大丈夫なように。
だから僕、卵を探す旅に出ます!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,437
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる