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Ⅲ.大好きな卵編

4.僕、多感なお年頃です④

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 甘くて、美味しくて、もっともっと欲しくなる。たくさん、もっと。もっと、ちょうだい。 
 僕の好きなものをぎゅっと凝縮したような、ヴァルのくれる、僕の竜気。 
  
「はぁ………んんっ」 
  
 唇が離れ、最後のダメ押しにヴァルがぺろりと僕の唇を舐めた。

 あ、ずるい。僕が舐めたかった。 
  
「ごちそーさん」 
  
 にっと笑って、ヴァルは出かけて行った。 
  
 家に一人残された僕は、ドキドキと早くなった鼓動と、じんじんと体の芯が痺れるみたいな熱が静まるのを、しばらくの間うずくまってじっと待つ。 
  
 これが、最近の僕と、ヴァルの普通の朝。 



 うーーーーっん! 
 やっぱり僕、なんか変だ。最近、とっても変。 
  
 ヴァルも変だけど、僕の方がずっと変! 

 だって僕、最近ヴァルになでなでされると、ドキッとして、きゅうってなって、心臓が破裂しちゃうみたいにバクバクするんだから。

 前は、ヴァルをみてると、ヴァルの匂い嗅ぐと、ヴァルに抱きしめられると、美味しくてイイ匂いが嬉しくて、ふにゃふにゃにとろけるような気持ちよさで、幸せになってふわふわするばっかりだったのに。 
  
 最近は、ぎゅうっと胸とかお腹とかが引き攣れるみたいに痛くて、そわそわして落ち着かないみたいな気持ちになって、なんだかとっても苦しくなる。

 一緒にいたいのに、苦しくてドキドキして、きゅうっとなって、しんどくなる。

 これって、何なの?胃もたれとか胸やけってやつ?  
 ヴァルと一緒にいたいのに、一緒にいるととっても苦しいなんて、こんなの変だよね? 
  
 もしかして、ヴァルの過剰摂取かな? 
  
 …………………それとも、ヴァルに隠し事があるから? 
  
 実は僕、黄金竜の長グノに竜気をもらって以来、触れただけでヴァルの“澱み”をいただけるようになった。 

 はじめはふんわりじんじんイイ匂いだなぁ、くらいしか思ってなかったけど、ヴァルにくっつくたびに、ぱちぱち甘いのが広がって美味しいなってなって、思ってね。

 ヴァルがあの日……、あの夜にヴァルに裸の全身をなでなでされたとき。
 僕のお腹の上に、ヴァルの美味しい白いのがかかったんだけど、その時にぶわわわぁ~……って美味しいのが広がっていって。

 あれ?これって僕、お肌から食べれるようになってるんじゃない?って、気づいちゃったんだよね。

 なんてことだ。竜は皮膚呼吸ならぬ、皮膚消化?吸収?できるらしい。

 このお肌からじわじわふわふわした美味しい感じ、実は初めてじゃない。
 今までは薄すぎて気づかなかっただけで、これまでも僕は本当に少しずつだけど、お肌から黒い竜気を食べていたみたいだ。

 ヴァルにくっついてると、なんとなく美味しくてちょっとお腹が膨れる感じがしたのは、気のせいじゃなかったんだね。

 そうだなぁ。前に比べると、じわ~……が、ちょろちょろ~……くらいになったというか。
 もしくは、ぺろぺろ、からのぱくぱく、になったくらいというか。

 ね。僕も少しは成長してるでしょ!

 だから、僕、もうヴァルとセッ……して、下のお口から黒い竜気をもらう必要もなければ、それどころか、キスしてもらう必要すらない。 

 で、僕は、その事実を、ヴァルに言えずにいる。

 うーんと……ほら。その、ね?
 別に隠してるわけじゃないんだよ?

 ただ、言い出すタイミングが無くてさ。ホントにホントだよ?

 だって、言うにしてもなんて言うの?

 ヴァルは僕に竜気ごはんくれようとキスしてくれてるのに、「実は僕、もうキスしてもらわなくていいんだよ」って言うの? 

 何、この激しく勘違いしてる何様なの?って人のセリフみたいの。
 僕には、ムリ!絶対言えないでしょ、これ!

 それにこれ、言われた方は、ものすごく恥ずかしくない? 
 僕、ヴァルに恥かかせない? 

 ………する必要がないって言っても、しちゃダメだってことじゃないし。
 実際、キスして口からもらう方が効率がいいみたいだし? 

 ………実は人型の方がなでなでされる方が気持ち良くて、ぴったりくっつく感じが好き。
 これもきっと、お肌から竜気をもらえるからだよね?

 むう………。
  
 僕の成長をヴァルに言った方がいいのか。いや、言えばいいだけなんだけどさ。 
 だけど、僕はなんだか言いにくくて、言いたくなくて、言えない理由も良くわからないままに、一日一日が過ぎていって、どんどん言い出しにくくなっちゃって。

 今に至る。 

 やってることは、前より全然大したことないのに。
 なんでか頭はじんじんしびれて、お腹も胸もいっぱいで、僕、おかしくなっちゃいそうなんだよ。





 ヴァルが、「しばらく家を空ける」と言ってきたのは、そんな矢先だった。 
  
 僕、「よかった」なんて、寂しいのに、ちょっとほっとしたりなんかして……。 
 ヴァルと一緒にいたいのに、どうしてこんなにほっとしてるんだろう。

 ヴァルがいないと、ドキドキしたり苦しくなったりすることもないから、なんて。なんでこんなこと思ってるんだろう。
 わかんない。僕、わかんないよ。

 でも僕は……ずっとヴァルといれないから。必ず、お別れしないといけないから。

 そしてそれは、僕が過ごす時間の中では、そう遠くない未来の話だ。

 だから、こうして一人で過ごすことにも、慣れないといけないんだ。

 ヴァルがいなくても、大丈夫なように。
 


 だから僕、卵を探す旅に出ます!
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