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Ⅲ.大好きな卵編
2.僕、多感なお年頃です② (※)
しおりを挟むお口の中で、とろけるみたいに芳醇な香りと美味しいのが広がって、全身に美味しいぱちぱちしたのがじわじわと満ちてくる。
「ぶはっ、お前、ホントにいい顔すんな」
「なに、これ。すっごく美味しい。何の飴?」
「あー……黒い竜気を固めてみたんだ。つまり、黒い竜石だな」
「へ?……僕の竜気の塊?」
「ああ。やってみたらできちまった」
え。やったらできたの?黒い竜気を固めるって……どういうこと?そんなことできるの?
ヴァル、すごい。やっぱりとっても器用なんだね!
「自分の中の黒い竜気を、こうして竜石にできれば、俺も溜まったまんまにしなくていいだろ。
で、お前が食えるなら、腹がすいたときの非常食に持っとけばいい」
「わぁ。すごい、ヴァルすごい。すごく美味しい」
僕は、身体に満ちる美味しいものをじっくりと味わって堪能した。
はい、ごまかされたよね!
僕、まんまと美味しいご飯につられて、ごまかされたよね!
で、結局それからも毎日毎日お触りされて……。
結果、僕は竜体で寝ることになった。
さすがにこの犬もどきの体だと、毛並みを撫でられるのが気持ちよくはあるものの、竜としての性質が強いのか、欲情することはないみたいで。
ちょうどよかった。ホント助かった。竜体がこんな形で役に立つなんて。
竜もびっくりだよ!
これ、またもや新発見です。発見者はまたもや僕です。驚きの新発見です。
といっても、初めはちゅうちゅうとあちこちに吸い付かれてる時に、恥ずかしくて、むず痒くて、お腹の中がぐずぐずしてきて、気持ちよくなってって、段々と元気になってきちゃったとこに、またもやヴァルの手が伸びてきて、段々恥ずかしくて居たたまれなくなって我慢できなくなって………。
反射的に竜体になったんだけどね。
で、その後も、同じようなことが続いて、度々朝方に竜体になること3日間。
「ったく。変な扉が開きそうで、困るんだよ。朝、竜体になるくらいなら、寝るときは初めから竜体になっとけ」
って、ヴァルに言われて。
それから僕は、毎日竜体で寝ることにしてる。
いやいやいやっ。待ってよ。
元はと言えば、ヴァルのせいだからね?僕が悪いっぽい言いぐさは、おかしいと思うんだよね?
僕が竜体で寝てあげるって言ったときは、遠慮するとか言って断ったくせに。
今度は竜体で寝ろとか、どっちなのって感じなんだけど!
……でも、変な扉って、どこへの扉なんだろ?僕は、ヴァルと一緒ならどんな扉も全力で開けちゃう所存なのに。
これって……やっぱり、バター犬の出番ですか?
「俺は犬に慰めてもらうほど……………飢えてねぇ」
「ええー?」
いや、今、間があったよ?結構な迷いを感じたよ?ホントのホントに?
僕、いつでもペロペロするのに!
「お前の羞恥心、どうなってんだよ。そういうことじゃねーんだよ」
ふーん?
じゃあ、結局は、やっぱりヴァルが僕の毛並みに癒されてるってことだよね。
僕のこと、もふもふして愛でたいって話でしょ?
知ってるよ。最近はもふもふに加え、肉球もお気に入りだもんね?
ぷにぷにされるの、気持ちいいから僕も好きだよ。
だったら、そう言ってくれればいいのに。ヴァルのためなら、いつでも、いくらでも、竜体になるのに。
ヴァルってば、ホントに照れ屋さんなんだから。
「お前………絶対、勘違いしてんな?」
今度はしかめっ面に溜息で、残念なものを見るように僕を見て、ぎゅっと鼻をつままれた。
「むぎゃっ」て変な声が出て、ヴァルは呆れた顔で「我慢にも限界がある」なんて言ってる。
え。ヴァル、何か我慢してるの?
言いながら、僕の垂れた耳と、しっぽの付け根を絶妙な手加減で、なでなで、なでなで……なでなで、なでなで……なでなで……。
ふわあぁぁぁ~……気持ちいい…気持ちいいよぉ……。
はっ!ダメダメ!
そんなとこ、優しくさわさわされたら、余計に人に戻れないでしょ!ちょっと手つきがやらしいんだから、たまんなくなるでしょ!
もう!竜体の姿でも、あんあん気持ちくなっちゃったら、どうするつもりなの!
竜の性質を超えてくる、ヴァルのテクニック。恐るべし!!!
これってもはや、竜体になる意味なくない?むしろ、この格好で気持ちくなった方が、恥ずかしくない?
ヴァルはさらに、「お前、やっぱり……白いまんまだよな」なんて、わけわかんないこと言ってるし。
もうっ……もう!僕は生まれてからずっと、真っ白のふわふわのもこもこだよ!
どうしよう。ヴァル、もしかして壊れちゃった……?
「はぁ……とりあえず、朝飯にするぞ」
「うん!」
言われて僕は、全部の悩みを放り出して、瞬時に人型になった。
ヴァルの朝ごはんに勝てるものなんて、この世には存在しないのだ。
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