上 下
122 / 238
Ⅲ.大好きな卵編

2.僕、多感なお年頃です② (※)

しおりを挟む

 お口の中で、とろけるみたいに芳醇な香りと美味しいのが広がって、全身に美味しいぱちぱちしたのがじわじわと満ちてくる。

「ぶはっ、お前、ホントにいい顔すんな」
「なに、これ。すっごく美味しい。何の飴?」
「あー……黒い竜気を固めてみたんだ。つまり、黒い竜石だな」
「へ?……僕の竜気ごはんの塊?」
「ああ。やってみたらできちまった」

 え。やったらできたの?黒い竜気を固めるって……どういうこと?そんなことできるの?

 ヴァル、すごい。やっぱりとっても器用なんだね!

「自分の中の黒い竜気を、こうして竜石にできれば、俺も溜まったまんまにしなくていいだろ。
 で、お前が食えるなら、腹がすいたときの非常食に持っとけばいい」
「わぁ。すごい、ヴァルすごい。すごく美味しい」

 僕は、身体に満ちる美味しいものをじっくりと味わって堪能した。

 はい、ごまかされたよね!
 僕、まんまと美味しいご飯につられて、ごまかされたよね!

 で、結局それからも毎日毎日お触りされて……。

 結果、僕は竜体で寝ることになった。 
 さすがにこの犬もどきの体だと、毛並みを撫でられるのが気持ちよくはあるものの、竜としての性質が強いのか、欲情することはないみたいで。
  
 ちょうどよかった。ホント助かった。竜体がこんな形で役に立つなんて。

 竜もびっくりだよ!

 これ、またもや新発見です。発見者はまたもや僕です。驚きの新発見です。

 といっても、初めはちゅうちゅうとあちこちに吸い付かれてる時に、恥ずかしくて、むず痒くて、お腹の中がぐずぐずしてきて、気持ちよくなってって、段々と元気になってきちゃったとこに、またもやヴァルの手が伸びてきて、段々恥ずかしくて居たたまれなくなって我慢できなくなって………。

 反射的に竜体になったんだけどね。 

 で、その後も、同じようなことが続いて、度々朝方に竜体になること3日間。
  
「ったく。変な扉が開きそうで、困るんだよ。朝、竜体になるくらいなら、寝るときは初めから竜体になっとけ」 
  
 って、ヴァルに言われて。
 それから僕は、毎日竜体で寝ることにしてる。 
  
 いやいやいやっ。待ってよ。
 元はと言えば、ヴァルのせいだからね?僕が悪いっぽい言いぐさは、おかしいと思うんだよね?

 僕が竜体で寝てあげるって言ったときは、遠慮するとか言って断ったくせに。
 今度は竜体で寝ろとか、どっちなのって感じなんだけど! 
  
 ……でも、変な扉って、どこへの扉なんだろ?僕は、ヴァルと一緒ならどんな扉も全力で開けちゃう所存なのに。
  
 これって……やっぱり、バター犬の出番ですか? 
  
「俺は犬に慰めてもらうほど……………飢えてねぇ」 
「ええー?」 
  
 いや、今、間があったよ?結構な迷いを感じたよ?ホントのホントに?

 僕、いつでもペロペロするのに!

「お前の羞恥心、どうなってんだよ。そういうことじゃねーんだよ」

 ふーん?
 じゃあ、結局は、やっぱりヴァルが僕の毛並みに癒されてるってことだよね。 
 僕のこと、もふもふして愛でたいって話でしょ?
 
 知ってるよ。最近はもふもふに加え、肉球もお気に入りだもんね?
 ぷにぷにされるの、気持ちいいから僕も好きだよ。

 だったら、そう言ってくれればいいのに。ヴァルのためなら、いつでも、いくらでも、竜体になるのに。
 ヴァルってば、ホントに照れ屋さんなんだから。 

「お前………絶対、勘違いしてんな?」 
  
 今度はしかめっ面に溜息で、残念なものを見るように僕を見て、ぎゅっと鼻をつままれた。 
  
「むぎゃっ」て変な声が出て、ヴァルは呆れた顔で「我慢にも限界がある」なんて言ってる。

 え。ヴァル、何か我慢してるの?

 言いながら、僕の垂れた耳と、しっぽの付け根を絶妙な手加減で、なでなで、なでなで……なでなで、なでなで……なでなで……。

 ふわあぁぁぁ~……気持ちいい…気持ちいいよぉ……。

 はっ!ダメダメ!

 そんなとこ、優しくさわさわされたら、余計に人に戻れないでしょ!ちょっと手つきがやらしいんだから、たまんなくなるでしょ!

 もう!竜体いぬの姿でも、あんあん気持ちくなっちゃったら、どうするつもりなの!

 竜の性質を超えてくる、ヴァルのテクニック。恐るべし!!!

 これってもはや、竜体になる意味なくない?むしろ、この格好で気持ちくなった方が、恥ずかしくない?

 ヴァルはさらに、「お前、やっぱり……白いまんまだよな」なんて、わけわかんないこと言ってるし。 

 もうっ……もう!僕は生まれてからずっと、真っ白のふわふわのもこもこだよ! 
 どうしよう。ヴァル、もしかして壊れちゃった……?

「はぁ……とりあえず、朝飯にするぞ」 
「うん!」 
  
 言われて僕は、全部の悩みを放り出して、瞬時に人型になった。 
  
 ヴァルの朝ごはんに勝てるものなんて、この世には存在しないのだ。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:901pt お気に入り:2,902

ヤンデるサイコで乙女なゲームの世界にこんにちは

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:5,233

こわれたこころ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:873pt お気に入り:4,908

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,343pt お気に入り:3,314

【完結】双子の国の行く末〜妹ヴェロニカの見た景色〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:266

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:802

処理中です...