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Ⅱ.体に優しいお野菜編

77.俺は、ルルドを成熟させたい① ※

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 ルルドが、黒い竜気が俺の身体を蝕むことを
 やっとかよ。黄金竜の長、グノの竜気で成長したってことか。

 俺は、心底嫌悪してきた竜に縋るのが嫌だった。縋るしかない自分が嫌だった。

 案の定、ルルドはうじうじめそめそと泣きやがった。だから嫌だったんだよ。
 で、泣いてるルルドを見て、いちいち心を掻き乱されるのも予想通りで、こうなるのが鬱陶しくて、黙ってた。

 前に、青銀竜の長に竜気をもらった直後も、同じようなことがあった。

 黄金竜の長の『ボクが竜気を与えると、ルルドの竜としての性質、強くなる。“迷い星”との乖離、混濁、同化、どうなるかわからない』という言葉から察するに、竜気が増えることで“迷い星”とのバランスが変化するんだろうな。

 だから、その度にこうして情緒不安定になるのか?

 俺がしんどい時に、美味しい匂いに誘われて、ごめんなさい。
 今のままでいいと思って、ごめんなさい。
 
 瀕死の人間をよみがえらせるほどの力を持ったこいつが。
 俺をこれまで苦しめてきた、神殿の権威も悪事も軽々とぶっ飛ばし、公然と辱めるこいつが。

 さらに竜として一歩、成熟に近づいたはずのこいつが、本来とるに足らないはずの俺なんかのことで、相も変わらず謝りながらめそめそと泣いている。

 普段はあっけらかんととんでもないことをしでかすくせに。
 俺のことで、「でもでもだって」を繰り返して、うじうじしてる。

 謝る必要なんて、まったく無いのにな。ホント、馬鹿なやつだよ。

 俺がルルドに触れることができるのは、俺の身体に黒い竜気が溜まるからだ。

 俺がこの体質でなくて、ルルドが未熟で無かったら。
 こんな容易く触れることができる距離で、無防備に撫でることを許されるような、大義名分をもって、体を繋げれるような、こんな関係には、絶対にならなかったはずだ。

 ……それどころか、出会ってすらいない。絶対に。

 どこまでも、俺に都合よくできてると思う。笑えるくらいに。

 現状が役得だと思うくらいには、今俺は自身の体質を受け入れている。

 心身を侵食する死をもたらす体質に、感謝する日が来るとは、1年前の俺は絶対に信じないだろう。

 俺がそう開き直ったっていうのに、当の本人……本竜?は、うじうじうじうじと。

 こんなの、馬鹿すぎる。可愛すぎるだろ。

 で、自分で引くほど、腹の底から喜んでる。
 泣き顔を前にどうしても笑っちまいそうになるのを、必死に堪えた。

 『今のままでいい』なんて、俺だって考えたに決まってんだろ。
 このままルルドを、俺にたまる黒い竜気に、俺だけに縛り付けておけばいいんじゃないか。

 俺も何度だって考えた。

 黒い瞳からぽろぽろと零れ落ちる雫は、まるで水晶のように煌めいて美しく見えた。痛々しい目元すら、俺がそうさせているのだと、尚のこと魅惑的に思えて。

 好きな奴相手に、こう思ってしまう俺は、確かに悪人なのかもしれない。


 ルルドは知らないんだろうな。何でも知ってる竜だとしても。

 俺のすべては、お前に出会った時から、面白いほどに好転してんだよ。
 今までのすべてが報われるような、全部それでよかったんじゃないかなんて、馬鹿なこと本気で思えるくらい、今俺は前を向いてる。

 俺を、そう変えたのは、ルルド、お前だよ。

 そう思っていたら、ルルドの体が近寄ってきて、どんどん顔が近づいて、そのままキスをされた。

 もう何度もしている、いつものがつがつと貪るような口づけとは違う。俺の中身を食いつくさんとばかりに吸い付いて離れない、腹ぺこを満たそうとするのとは違う。

 甘い甘い蜜のような柔らかな感触の口づけだった。
 うっとりととろけた表情で、潤んだ瞳に上気した頬。別の欲を孕んでいると、期待してしまう欲情した顔が俺を見上げる。

 さらに、「したかったから」と熱っぽく囁かれれば……。

 きっと、ルルドは言ってる意味も、何してるかも、わかってない。
 俺のベッドの上で、お前から俺にキスしてきて、さらに、したかったから、なんて。

 こんなの期待するじゃねぇか。欲情すんだろ、普通に。

 こいつも食欲以外の何かを、俺に感じてるのかもしれないって。
 ルルド自身に、飯として俺を求める以外の感情があると思えば、もっとを望んで当然だろう?

 俺はどこまでルルドに許されるんだろうな。




 押し倒せば、恍惚とした顔で一層華やかに淡く微笑むルルドが俺のベッドに沈む。
 ルルドは俺の気も知らないで、くふふと小さく声を漏らした。

「はぁ……幸せそうなツラしやがって……状況わかってんのか」

 何の抵抗もなく、簡単に押し倒されんな。何、幸せそうに笑ってんだよ。

 服の下の白く滑らかな肌に触れれば、じんわりと指先に吸い付かれるような刺激にぞくり、と体の深いところが疼く。

 なんだ、これ。

「あ、…あーっ…気持ちいい」

 馬鹿が、煽るな。

 官能的な声が、直接欲望を刺激する。
 形の良い耳と、さらさらと滑る髪、そして首筋から胸元へと触れるか触れないか、真綿に触れるように滑らす。

 ルルドはすりすりとすり寄って、さらに俺を求めてくる。

 潤んだ瞳が夜空のようにきらきらと瞬き、伏目がちにちらちらと俺を伺う。
 火照った肌が紅く上気して、まるで熟れた果実のようで。

 あー……なんだろうな。これ。何というか。これは、駄目だろ。

 こいつの格好も良くないんだよ。
 俺のお古のシャツを着ていて、あとは半ズボンのような下着を履いているだけの、ルルドの姿。
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