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Ⅱ.体に優しいお野菜編

44.僕、予言なんて初耳です②

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 予言?うーん、ヴァルがなんか言ってたような、無いような……?

「ねぇ、予言ってなに?」

 ……あ。また、ヴァルが僕を心底あきれた表情で見てる。仕方ないじゃん。知らないんだもん。

 でも、僕、知ってるんだから。あきれながらも、ヴァルがちゃんと説明してくれるってことは。

 で、ヴァルはやっぱり呆れた表情のままで、丁寧にわかりやすく要点を説明してくれる。

 ヴァルの話によれば、

『200年後に、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』

 と、200年前に竜が降臨して、人々に予言したらしい。

 ふむ。で、その予言したのがグノって話だね。
 200年前の200年後ってことはつまり……

「え。今ってこと?」
「そうだよ」
「…………この世の危機?今が?」

 それは随分と、のどかな危機だね?

 ヴァルは僕の疑問を察してか、「何をいまさら」と付け加える。

 実際に、予言が現実であることを証明するかのように、『異界の者』が1年と7ヶ月くらい前に現れて、その人が竜の神子、と呼ばれている人らしい。

 竜の神子かぁ。確かにヴァルの口からも、ちょくちょく出てきた名前だね。うんうん。あの時のヴァルの顔、まるで汚物でも吐くみたいだから、よく覚えてるよ。

「で、わざわざ予言した竜が現れて。予言の意味する内容でもご丁寧に教えてくれんのか?」

 グノはふるふると首を横に振って、否を示す。ヴァルも、嘆息交じりに「だろうな」なんて言ってる。

「ええー?教えてくれたらいいのに」

 ケチなの?ねぇ、ケチなの?

「教えないのでなく、わからない。
 予言は結果のみ規定する。道は変わる。数多に広がる。道を形作っていくのは、この世に住まう者たちの歩みだけ。
 竜はこの世が在るために、ただ在るだけ。共に歩まない。干渉しない。そういう存在」

「つまり、同じ予言でも違う意味、解釈……違う未来が色々と存在するんだな?
 で、どうなるかは、竜が直接どうにかできないし、そもそもそういう存在じゃない、と。
 はぁ……青銀竜の長が、『ただの言葉に力を持たせたのは、君たち人だよ』なんて言ってたが、そういう意味か」

 ヴァルの指摘に、グノがこくりと頷いた。

 ………え?ちょっと待って。

「ヴァル、いつテティとそんな話したの?」
「お前、青銀竜の長から竜気もらったあと、ぶっ倒れただろ。あんときだよ」

 何それ。ヴァルは、「思い出したらイライラしてきた」なんて言ってる。
 えー?それって、僕の知らない間に、テティと二人でこそこそ内緒話してたってこと?
 むう。今度、テティに会ったら、ただじゃおかないから。

「じゃあ、何で予言なんてしたんだ。
 干渉しねぇっつーなら、予言だってアウトだろ」

「竜には、この世の流れる竜気、読む力ある。先を見通すことできる。
 竜気の乱れ、つまり黒い竜気の氾濫、ずっと前からわかっていた。だから、ルルドを生んだ。
 また、終末の予兆、異界の者現れること、知った。
 竜の言葉、竜の予言、この世の結果、絶対の定め。この世を縛る強い力をもつ。

 すなわち、救済の予言、この世の存続を規定し約束する。

 この世が在るために、予言が必要だった。例え、代償があろうとも」

「うーん……?」

 どういうこと?もっとわかりやすく言ってほしいなぁ。わかりにくくて、僕、お腹がむずむずしちゃう。

「竜たちは、黒い竜気が増えるのを知っていて、こいつを育てた。
 さらに、この世の危機と異界の者の出現を予見できて。
 この世が滅びないように、救済される予言をした。
 普通は干渉しないが、何か良くないことが起こったとしても、この世が無くなるよりはマシだった。
 これであってるか?」

 ヴァルの言葉に、グノはこくりと頷いた。

 うん。これ、後でヴァルに聞いた方がいい気がしてきた。僕、おとなしくお話聞いてよっと。

「未来への干渉、特に大きな代償伴う。
 これにより、この世の在り方揺らぎ、世界にひずみができる。不測のこと、起こり得る」
「実際に、何が起こったんだ?」

「歪の結果、きたる『異界の者』の住まう世界とこの世、とても近づいた。境界が不明瞭になった。
 結果、引かれ合う魂……“迷い星”が迷い込んだ。
 すなわち。歪が無ければルルドに“迷い星”が衝突し行方知れずになること無かった。200年前、ルルドが竜として不完全で生まれること無かった」

 あれ?これはなんだか、すごく僕に関係あるお話だね?

「えーっと、つまり………。
 僕に“迷い星”がぶつかったのも、それで迷子になったのも、なんだか魂が混ざっちゃって、早く未熟で生まれたのも、予言による歪の影響ってこと?」
「そう」
「しかも、僕の中に混じってる“迷い星”と竜の神子は、同じ世界からきたってことなんだね?」
「そう」
「………ふーん。そっか」

 そっか。そうなんだ。ふーん。竜の神子と、僕の中の“迷い星”は同じ異界から、ね。

 ただ、それだけのことなのに。

 なんだろう。このもやもやした気持ち。

 僕は、ちらりとヴァルの方を伺う。ヴァルは難しい顔で腕組し、思案してて、何を考えてるまでかは、僕にはわからない。

「歪の影響。相互の作用。あちらの世界にも影響あった。あちらにこの世が一部、流れてしまった。
 すなわち、この世を書き記した『物語』、あちらの世界に存在する」
「はぁ……そういうことかよ。
 つまり、俺たちの世界のことを物語として書いた本か何かが、『異界の者』がいた世界には存在するってことだな?」
「ああ、なるほど。え、そうなの、グノ?」

 ヴァルと僕の問いに、グノはこくりと頷いた。

「ただし、『物語』は、この世の、どの時、どの場所、わからない」
「はぁ……竜っていうのは、どいつもこいつも無責任だな」
「こちらとあちら。普通、隔たりあり、窺えない。できない。ボクたちといえど、知る限界がある」

 よくわかんないけど……つまりその本に書かれているらしい物語は、必ずしも今じゃなくて、この世のどこかの時点でのお話ってこと?

「うーん……でも、それって何か問題あるの?
 だって、普通は世界は隔たりがあって、交わらないんでしょ。だったら、こっちのことがあっちの世界に知られたからって、別に何にもならないよね?」

「そうとも言えねぇから、憤ってんだよ」
「どゆこと?」

「いや、ユーリが……竜の神子が、常々未来を見てきたように、予言じみたことを言っては、先のことを言い当てた。
 これからおこる事件や、竜気にあてられた怪物の狂暴化なんかをな。
 単にすべての属性を扱えるだけでなく、その“予言”があったからこそ、あいつは竜の神子として神殿で不動の地位を確立したんだ」

「え。それって……」
「あいつは、その本の内容を覚えていて、この世を知ってたんだ。そして、この先のことも知っているかもしれねぇってことだ」

 何それ。影響ありまくりじゃない。


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