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Ⅱ.体に優しいお野菜編
20.僕、8割がヴァルでできています①
しおりを挟む僕が記憶喪失で孤児院に保護されたことになって、5週間が過ぎた。
つまり、ヴァルが自警団に行くようになって、2週間がたったんだけど……。
え?早くない?月日が経つの、早くない?
僕、200年も生きてるけど、こんなにあっという間に時間が過ぎる感覚、初めてなんだけど。
うーん……ていうか、こう、時間が積み重なっていく感じが、初めてなんだよね。
こんなに一日一日がいっぱいに満ちてるのも初めてだし、それなのにあっという間だなんて。
なんだかとっても不思議。
まあ、要するに何の進展も無く、僕の成長は止まってます。
「ルルド君は、知識が豊富だねぇ」
院長、そんな当たり前だよー。僕、竜なんだからさ。
僕は今日、院長のお手伝いをしてる。ヴァル、僕、頑張ってるよ!
書類を書いたり、まとめたりが僕のお仕事だ。こんなの簡単だよ。
だって、竜はすべてを知っているんだから。
そうじゃなくても、僕、こう見えて200年生きてるんだからね!
自分のことも良くわからない僕だけど、この世の言語や定理など、基本的な事実はばっちり理解できるらしい。
ぱっとみて書類のおかしなところや、矛盾を指摘したら、ヴァルがすごく驚いてた。
「お前、本当に竜なんだって、今改めて実感したわ」
大袈裟だなぁ。僕が指摘したのは計算の間違いとかだよ?大袈裟だよ。
まぁ、びっしり数字が並んだ紙を一秒見てわかるのは、普通じゃないよね。
ふふ。呆然としながら、こそこそと僕に言うヴァルは、なんだか可愛かったなぁ。
でも、耳元で囁くのやめてね。ぞわぞわするから。
「ふーん。知識多い奴が、必ずしも賢いわけじゃないんだな」
なんて、付け足されたけど。
うーん。どういう意味?
僕、聞かなかったことにするね!
ちなみに、ヴァルが僕を竜だって実感した瞬間ベスト1位は、ズバリ「犬から人になった時」だって。
「そういえば……あの子に『ルゥをよろしく』と改めて言われたのだけど、何かあったのかね?」
院長が言うあの子、とは言わずもがなヴァルのことだ。
えへへ。ヴァルによろしくされちゃった。
「言われてみれば、以前ほど姿は見なくなったなぁ」
そりゃそうだ。それ、僕のことだからね!
僕がいつものように街のまわりを犬の姿……竜体でうろうろしてたら、見回りをしてたヴァルと遭遇したのは、一週間ほど前のことだ。
で、僕が今でもちょくちょく竜体になっていたことを、ヴァルに知られてしまった。
ヴァルには動きやすいから、なんて説明したけど。
実は、それだけじゃない。
ここだけの話、竜体の方が人型より省エネなのだ。
僕は、「竜にとって竜体が瀕死の姿ってことは、それだけ基礎代謝?的なものが少ないってことでは?」と思った。
で、検証の結果、ずーっと人型でいるよりもかなり腹持ちがいいことに気づいた。体感では3倍(当社比)くらいかな。
はい、この事実、僕が発見者……発見竜?です。
竜の生態についての、新発見です。たぶん。
で、僕が省エネに努める理由は二つある。
まずは、まとまった竜気をぽこぽこ使うため。
ヴァルが言うように、僕が他の竜の長を見つけることができるなら、この200年でとっくにできていると思う。
青銀竜の長テティは言っていた。
『彼からルルドが“澱み”……黒い竜気を受け取ったことによって、ルルドも竜の力を使えた。それで、ようやくルルドの気配らしきものを感じとれて、私はここに来れたんだ』
って。
僕があっちを見つけられないなら、あっちに僕を見つけてもらうしかない。
だから僕は、機会ごとにある程度まとまった竜気を使って、「僕、ここだよ!」って、他の竜の長に対してアピールしてる。
で、もう一つの理由は。
そんなの、できるだけヴァルに嫌な思いをさせないために決まってる。
僕に黒い竜気をくれるために、ヴァルは色々工夫してくれてるっぽい。
いや、エッチなテクニック的な意味じゃなくてね?
神殿にとどまった理由の一つには、僕の竜気のこともあるみたいだし……。
細々したお仕事たくさんしてるの、僕、知ってるんだから。
神殿も神官も嫌いなはずなのに。
だから、できるだけ回数が少なくて済むように、僕も工夫してるというわけだ。
……………まぁ、そのせいで、一回一回が貪るかんじのがっつり濃厚な感じになってる気がするけど。
あれ?もしかして、これ意味なくない?無駄な努力?
うーーーん……………。
それでも、ヴァルも神殿に行ってた頃よりは、元気そうなんだよ?
僕も、色々お手伝いして、頑張ってるんだよ?
お野菜もたくさん採って、ヴァルに食べてもらって。余ってるお野菜を売ってもらって、自分でもちょっとお金稼いだりしてね?
きっと、お野菜育てた竜も、お金を稼いだ竜も、僕が初めてだと思う。
これ、どこかに申請したら新記録で賞金もらえたりしないかな?
応援ありがとうございます!
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