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Ⅰ.主食編
20.僕、我慢ができる竜です②
しおりを挟む「竜だって、同種の竜同士でお互いにいわゆる性交をすることがあるし、人だって同性同士でも性交をするはずだ」
「え?そうなの?」
言われて、ヴァルの方を見れば、突然話を振られ、ぎょっとしたように顔を歪めた。
「は?……いや、そりゃあ……」
「へぇ。どうやってするの?」
ごもごもと珍しく口ごもる歯切れの悪いヴァルに、さらに尋ねれば、右手で目元を覆ってうつむいてしまった。
え、なんで教えてくれないの?
「ほら、ルルドにもあるじゃないか、ちゃんと受け入れるところが」
言って、テティは何のためらいもなく僕の肩にかけているヴァルの上着をぺろん、とめくって、
「ここに、受け入れることができるだろう?」
「~~~~っっっっ!!!」
僕のお尻をむに、っと撫でた。
いや、正確にはお尻の割れ目の間の、さっきクラーケンにも狙われて死守した場所。
「え!?ここ……お尻の穴でしょ!?出すところでしょ?!?!」
「何を言ってるんだい。君は竜なんだから。排泄なんてしないだろう?」
「へ!?……あ……言われてみれば……?」
生れてこのかた、200年、一度も大も小もしたこと無いな。
うん。当たり前すぎて、気にしたこともなかった。てことは、僕が食べたものは、一体どうなってるのかな?
つまり、僕のお尻は出すとこじゃない。それどころつまり、入れるとこだったってこと?
………って、いやいや、待って。そういうことじゃないでしょ!!
「ダメだよっ!そもそも、そういうことは、好きな者同士ですることだよ!!」
同性だろうと……うん、異性だろうと、好きな者同士でやることだよ!
僕の訴えに、きょとん、とテティの表情が抜け落ちた。
そして、声をあげて笑う。
「はははっ、ルルドは面白いなぁ。
本当に人族みたいなことを言うんだね。竜にとって同族は分身のような存在で、好きな者同士という感覚がない」
「じゃあ、なんで……竜は何なのために、そんなことするのさ」
「戯れに互いの竜気を交換し合うことはあるんだよ。
上位の者が下位の者に、力を分け与えたり、ね。むしろ、自分と混ざり合っているような、存在を均一にするような、そんな感覚かな。
私たちにとっては、その行為自体にはその程度の意味しかない」
「へぇ……………」
………………。
いやいや!戯れってなに!?僕には、そっちの方が理解できないんですけど!!
もう……竜の感覚なんて、僕には良くわかんないよ。
「ルルドは、自分で黒い竜気を取り込めるようになるまで、彼に貰う。
彼は身体に溜まった、黒い竜気をルルドに引き受けてもらう。これはお互いのためになる、悪い話どころか、良いことしかない。
少なくとも、ルルドが成熟して自分で黒い竜気を取り込めるようになるまでは、ね」
「ええ……そんな……」
そんなこと、できるわけないじゃない。
僕がそう思っていると、ヴァルが深々と嘆息する。
「……こいつと、ヤる?はぁ……嘘だろ、あり得ねぇ」
と、ヴァルも苦々しい表情で、頭を掻いた。
ほらね。やっぱり、ヴァルだってできるわけない。僕と、なんて。
そう思ったら、ツキン、と胸が痛んだ気がした。
あれ……?僕、なんだかがっかりしてる……?
「はぁ……もう、どうでもいいから。尻をさっさと隠せ。いつまで見せてるつもりだ?」
あ、失礼しました。
お尻を丸出しで話していたことに気づき、僕はいそいそと身を整える。
「それよりも、テティ。僕はどうしたら、ちゃんとした竜になれるの?」
ちゃんとした竜になれば、自分で黒い竜気を食べられるんだよね。そしたら、ヴァルにもらう必要もなくて、つまりセッ……も、する必要もない。
だったら早く、成熟しないと。
これまでも、ヴァルにたくさん助けてもらって、さらにそんなこと……してもらうなんて。
僕、できないよ。
「卵の時にあげるはずだった成長に必要な竜気を、私と、赤銅竜の長、黄金竜の長からもらえば、ルルドもちゃんとした竜になれるだろうさ」
「はぁ……世界の根源たる竜の長すべてと御対面とは。壮大だな」
おう。これ、完全に皮肉ってるじゃん。ヴァル、全然壮大なんて思ってない。超面倒くさそうな顔だもん。
「もちろん、その間に自分の黒い竜気もたくさんもらうんだよ」
うん。つまり、ヴァルとしっかりせっせと励めよ、と。
「竜の飯係を拝命か。これが、望外の喜び、てやつか?」
あうっ……。 テティはもうちょっと、共感とか、相手を慮る気持ちとか?大切にした方がいいよ?嫌われるよ?
ほら!ヴァル、ものすごい形相で睨んでるじゃない!
ていうか、このままだと僕、今までのご飯ももらえなくなる可能性アリじゃない!?
もう!そうなったら、どうしてくれるの!!
さらにテティが、「ただ、混ざってしまった迷い星がなくなるわけでは無いから……それが、どう影響するかはわからない」とかなんとか、どうでもいいことを言っているのだけど、僕の耳には全然入ってこなくって。
「とりあえず、私の分の竜気をあげようね」
くっと顎を持ち上げられて、テティと視線が合った。
「え?今から?どうやっ――ん、」
僕が疑問を言い終える前に、僕の口はテティの口によって塞がれた。
え?ええ?これって……僕、テティにキスされてる!?
「んんっ……あ、テティ……まっ…んあっ!」
慌てて発した抗議の言葉に開いた唇の隙間から、ぬるりと冷たい舌が入ってくる。
腰に回された腕と、頭の後ろを押えられて、離れようにもビクともしない。
「ん、ふっ……あ……」
テティの唇は深い水のように冷たくて、僕の口内を撫でる舌も長くて薄くて、人のものとは全然違う。
そこから染み込んでくる、送り込まれてくる何かも、火傷しそうなほどに冷たい。
抵抗することもできず、なされるままに受け入れることしかできなくて、僕はただその感覚と時間に耐えた。
テティの唇が離れて行って、異常に長く感じた時間が終わる。
壮絶に美麗な顔が目と間近に見えて、美しくも妖しくもある微笑みを浮かべて、静かに言う。
「私たちの大切なルルド。君は、全ての竜気の澱みを解消し還元してくれる、この世に重要な唯一の存在だ。
早く成熟して、たくさん君の竜気を取り込んでおくれ」
うん。それはいいけどさ。
普通、親子でディープキスはしないと思うよ。あと、同意は必要だと思う。
竜にはきっと、これにも深い意味なんて無いんだろうけど。
僕にとっては、大問題だよ。ヴァルの前で、こんなこと。
あ、何これ、ぐるぐるする。目が、回る。すごく、気持ち悪い。
身体の奥から冷気が噴き出してくるみたいで、すごく寒い。寒いよ。凍ってしまいそう。
身体に渦巻く異質なエネルギーに翻弄されて、身体がついていかない。そのあまりの変動に僕の意識はそのまま深く沈んでいった。
大丈夫だよ、ヴァル。
僕、どうにか我慢して……お腹ぺこぺこでも、耐えて見せるから。
大丈夫。
だって、200年耐えてきたんだもん。
これ以上、ヴァルに嫌なことはさせないから。
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