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Ⅰ.主食編

15.僕、食べたいのであって食べられるのは不本意です④

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 え!?ええ!??まさか、こいつ、僕の身体の中にさらに入ってくるつもり!?!?
 何それ!!!怖い!怖い、怖い、怖いっ!!!

 はっ!!もしかして僕、お腹の中からクラーケンに食べられちゃうの!?!?
 ええーっ!イヤだ!絶対、イヤ!ていうか、こわいから!!

『ううっ……もう、もうっ!!!ヤダってばぁぁぁぁぁっ!!!』

 僕は音にならない心の声を、力いっぱい絶叫した。

 バチッバリバチッバチバチバリバチッッッ!!!!

 その瞬間、僕を中心とした黒い稲妻が、激しい轟音と、空気を震わす振動を伴って、クラーケンに襲い掛かった。

 ――ズドドォーーン………

 地響きと共に、クラーケンの巨体が地面へと伏す。
 僕に絡みついていた足も、ばらばらに切断されて、ぼたぼたと土の上へと落下した。

 あー……何だか助かったみたいだけど。クラーケンが、焦げ焦げのスプラッタになっちゃったよ……これ、食べれるところある?

「うわ……お前、食いちぎってんじゃん。嘘だろ……」

 僕は言われて初めて、口にくわえた異物に気づいた。いつの間にか、口に突っ込まれていたクラーケンの足を嚙みちぎっていたらしい。

 竜は顎の力も強いんだね。

 うーん……でも、これ。クラーケン、あんまり美味しくないかも。
 ゴムみたいで、ぜんぜん噛めない。生だからかな。

 …………でも、煮たり焼いたりしたら、美味しくなるかも。
 こんなに大きいんだもの。捨てるなんてもったいない。

 むぐむぐとクラーケンの肉片を噛みしめていると、濡れて冷えた体がぶるりと震える。
 ヴァルは溜息をつきながらも、僕に上着をかけてくれて、確かめるまでもなく絶命したクラーケンへと近づいた。

「げっ……こいつ、こんなに溜め込んでやがったのか」

 クラーケンの頭……いや、お腹?をヴァルがナイフで開き検めれば、赤や青、黄色の大粒の竜石がごろごろと転がり出るのが見えた。
 それを無言で袋に収めるヴァルの後ろで、噛み切れも飲み込めもしない口の中の塊を吐き出して、比較的綺麗に切れて丸まっているクラーケンの足を一本拾う。

 うん、これはいけそう。

 僕の気配を察知して、ヴァルはこちらを見ることなく、竜石を拾う作業を続けたままで、

「俺は、料理しねぇぞ」

 はっきりと言い放った。

「ええー!約束と違う!」
「約束なんて、してねーよ」
「ちょっとくらい、いいじゃない」

 足一本くらい、持って帰っていいでしょ?

 僕は、ヴァルの前に回り込んで、訴えた。

「…………そんな目で見ても、駄目だ」
「ヴァル、僕、頑張ったよね?ね?」
「………………」
「ねぇ、お願いだよぉ」

 謎の酷い辱めを受けながらも、よく耐えたと思うんだけど?頑張ったと思うんだけど?

「……………ちっ、少しだぞ」
「わーい!ヴァル、大好きっ!」

 言って、いつもの調子で……竜体のころと同じ勢いでヴァルに抱き着こうとして、ピンっとおでこを弾かれた。

 う、痛い。

「お前は、ちったぁ反省しろ!夜中に一人でふらふら出ていきやがって」
「う……ごめんなさい」

 あ。もしかして、ヴァルは僕が出ていったのに気づいて、ついて来てくれていたのかな?

「ったく……お前は。それでも竜かよ」

 そんなこと言われたって。

「僕は、竜だよ。
 竜、だけど……だって、僕にもよくわからないんだ」

 僕は気付いたら一人、僕の森にいて。
 何もわからないのにお腹はぺこぺこで、森を出てからもずっと一人でいたんだから。

 僕だって、僕がわからない。

「僕に分かるのは、自分が竜だってことだけで……あ。でも、ちゃんと自分の竜としての名前は知ってるんだよ?」

 僕の言葉に、ヴァルがぴくりと片眉を跳ね上げた。

 竜には大事な本当の名前があって、その名前を自分以外に言ったりすることは無いんだけど。ヴァルには言っても大丈夫だよね?

「僕の竜の名前は、ルルクドゥナス・ヴァイ―――」
「おいっ、馬鹿!それ以上は、」
「――んぐっ」

 僕の竜としての名前は、ヴァルの言葉と。そして、突然に、僕の背後に現れた存在の手に口を覆われて遮られた。

 驚愕に目を見開いたヴァルの視線は、僕の後ろへと注がれている。

「ルルド、それ以上は言ってはいけないよ?」

 え?誰?僕の名前、知ってるの?

 ほっそりとした冷たい綺麗な手を追って僕は後ろを振り返る。

 そこにいたのは。

 え?………誰?

 この世のものとは思えない程、美しい人がそこには立っていた。

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