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Ⅰ.主食編

10.僕、これでもグルメです③

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 きゅうぐるるるるうううぅぅぅ……

 うん。お腹の音、もう少し空気読もうか。いい加減、学ぼうか。

「いや、それを俺が聞いてんだよ。
 でも……つまり。神官が信じて疑わない、『竜は全てを知っている』てーのは、少なくとも嘘っつーことだな」
「ああ、うん。そうみたいだね!」

 僕の力強い返答に、ヴァルは何故か、眉を顰めた。
 何?その残念なものを見るような目は。

「はぁ……自分の名前をルゥなんて、地面に字を書いてみたり、犬にしては異常に賢いな、と思ってたが……」

 あ。これはわかるよ。
 つまり、「竜にしては異常に馬鹿だな」て、そういう意味でしょ。
 さっき、駄竜とか言ってたしね。

 きゅうぐるるるるうううぅぅぅ……

「ったく!さっきから、うるせえなぁ!お前の腹の虫!!」
「え、ごめん。でも……」

 ぐるるるうきゅうううぅぅぅ……

「自分でも止められなくて」

 腹の虫のしつけ方があるなら、是非、教えて下さい。

 ヴァルは、呆れた表情で盛大に溜息をつくと、魔法の言葉を口にした。

「とりあえず、朝飯にするか」
「っ!!」

 やった!ヴァルのご飯だ!

 僕は喜び勇んで前足からベッドを降りようとして。
 前足じゃないことに気づいたときには遅くて、裸でそのまま床に前のめりに崩れ落ちた。

 ヴァルが、「やっぱり、鈍くせぇ」なんて、呆れていたのは、聞こえなかったことにする。

 それでも、自分の持っていた予備の服を貸してくれたヴァルは、やっぱり優しい。

 まぁ、白シャツががばがばで……。
 ヴァル、意外とがっちりしてんね。僕が、ひょろひょろみたいじゃない。

 ズボンはかなり大きかったから、腰を紐で縛って裾を2回折り曲げた。
 何これ。ヴァルの足、長すぎなんじゃない?

 決して僕が短足なわけじゃ無いから!!
 ………え?違うよね?



 *



 朝食は、スープといつものかちこちのパンだった。

 スープの具は干し肉と、乾燥きのこだけ。味付けは、塩のみ。シンプルながら、調和のとれたその味は、そこら辺の食堂に確実に勝る味だ。

 スープをスプーンですくって、もぐもぐと咀嚼し、そして、こくり、と飲み干す。

「ほあー……美味しいよぉ」

 やっぱり、ヴァルのご飯はとっても美味しい。安定安心の美味しさだ。

 パンを手でちぎって、スープに浸し口に運ぶ。じゅわり、とパンに染みこんだスープの旨味と、パンの香ばしさが相まって、最高に美味しい。かちこちのパンも、まるで初めからこのために作られた完璧食材のようだ。

 ああ、手があるって、道具が使えるって素晴らしい!スプーン、最高。フォーク、万歳。
 むふふ。ああ、美味しい。ヴァルのご飯が一番美味しい。いくらでも食べられる気がする。

「あー……やっぱり……お前は、ルゥなんだな」
「へ……?」

 声に反応して目線を上げれば、千切った硬いパンを片手にヴァルが口を開けたままで、ぼうっと僕を見つめていた。

「飯を食べてる姿が、そのまんまだ」
「ええ……」

 ヴァル、ちょっと待って。
 聞き捨てならないんですけど。

 僕、手ができて道具も使ってるのに!犬食いと同じなの?!
 それがホントなら、由々しき事態だよ!!

「口の周りに食べカスつけてんのも、そのまんまだな」

 くつくつと笑いながら、ヴァルが言う。

「うっ……だって、ヴァルのご飯が美味しいから」

 そうだよ。美味しいごはんが悪い。つまり、ヴァルが悪い。

 僕はもう裸じゃないし、服も着ててこんなに人っぽいのに。犬型のときと……いや、竜体と一緒だなんて、そんなことあるはずない。

 僕はむくれて、ちょっと恥ずかしくて赤くなりながら、口元を拭った。

 だけど、ヴァルの僕を見る目が……ちょっと、あのいつもの優しい目つきになったから。まあ、本当にほんのちょっとだけど。

 だから、その評価も僕は甘んじて受け入れることにする。

「ねぇ……ヴァルは、ここに何をしに来たの?」

 僕は、聞きたくてたまらなかったことをやっと口にした。

 どうしてあんなにところに、傷だらけで、一人で倒れてたんだろう。

 僕の問いに、ヴァルは特に表情を変えず口の中のスープを飲み込むと淡々と答える。

「この先の湖に、クラーケンっていう化け物が出る。竜気に当てられて狂暴化した生物なんだが、今回はその調査と………」
「調査と?」
「いや……その調査がまあ、今回の本来の目的だった」
「だった?」
「ああ。調査しようとして調べる間もなく……色々あってな」

 言って、ヴァルは苛立たし気にがぶり、とパンをかじった。

 つまり、昨日のヴァルの怪我や体調不良は、そのクラーケンによるものなのだろうか。
 でも……竜気にあてられる、てなんだろう。

「普通の生物も、竜石を飲み込んだり、濃い竜気に飲まれると、巨大化して害をなすことがあるんだよ」

 僕の疑問を察して、ヴァルが説明してくれる。
 へぇ。そうなんだ。やっぱりヴァルは、物知りだな。

「ヴァルは、一人で来たの?」
「いや。俺と、あと4人で来たが……他の連中は、先に帰ったよ」

 え?それって……。
 まさか、怪我をしたヴァルを置き去りにしたってこと?

「まあ、またいつものように、有ること無いこと報告してんだろうな。このまま戻っても、どうせ、俺一人が責任を問われるのがオチだ」
「え?何それ?なんで、逃げた奴らが何も言われないで、ヴァルが責められるの?」
「あちらには、200年前の予言を体現した、ありがたーい竜の神子様がいるからなぁ。でもって、他の3人もその神子様が直々に選んだ、竜騎士候補だ。
 俺の言うことなんて、誰も聞きやしねぇし、信じねぇ」

 200年前の予言。竜の神子。竜騎士。何それ。

 ヴァルの言っていることはほとんどわからないけど、僕はヴァルを探している途中で遭遇した4人組を思い出した。
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