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Ⅰ.主食編
9.僕、これでもグルメです②
しおりを挟むヴァルは竜が嫌い。
ヴァルってたまに……いや、結構頻繁に、「竜の糞野郎」なんて言ってたもんね。
そっか……ヴァル、やっぱり竜のこときらいなんだ。
きゅるるるぅぅぐう……
うんうん。僕のお腹って、何年たっても本当にTPOができないな。
「で、お前は何竜なんだ?」
なに、りゅう………?
「意味わかりませんて顔で、首傾げんな」
「だって……」
竜って種類があるの?そんなこと、僕知らなかったんだもん。
「竜には、赤銅竜、青銀竜、黄金竜が存在する。それぞれが対応する自然の摂理をつかさどっている。炎、水、土って具合にな」
「へぇ。ヴァルは物知りだね」
「はぁ……こんなことは、ガキでも知ってる」
え。そうなの?
「でも、赤銅竜、青銀竜、黄金竜か……」
「なんだ?なんか思い当たったか?」
「いや、赤、青、黄色って……信号機みたいだなって」
「は?」
「金、銀、銅ってことは、一番偉いのが黄金竜?次が青銀竜で、最後が赤胴竜?」
「何、意味わかんねーこと言ってんだ。竜に偉いも何もない。そういう種類があるってだけで」
ヴァルの話によれば、どうやら世界の定義でそう決まっているらしい。
「お前のあの犬みたいな格好は……お前みたいな竜体は、神殿にあるどの竜の絵姿や石像とも違うぞ」
「神殿に竜の絵姿や石像があるの?」
「………………」
「あれ?」
僕の疑問に、ヴァルは額に右手を当てて、表情を曇らせた。おもクソ、ため息ついてる。
「竜は、まさに神殿が崇め奉ってる対象だよ。
この世を構成する偉大な存在、っつってな。
神殿だけじゃねぇ。街にだって、馬鹿みたいにあちこち竜の像がかざってあんだろ」
「えー……言われてみれば?」
再び大きく溜息をついたヴァルの話によると。
神殿は竜を祀ると共に、その信仰をまとめ、竜や竜気に関する事象を総合してとりまとめ、対策を講じる組織らしい。
「ふーん。僕、神殿って何か神様的なものにお祈りしてるだけだと思ってたけど。全然違うんだね」
業務内容が思ってたより、お役所っぽい。なんだかすごく面倒臭そう。
「はぁ?どこの神殿の話だ、それは。
神殿は竜を見たっつー噂の調査から、竜気にあてられた生物の討伐もするし。竜石の発掘、取引なんかも全部神殿が独占してる」
「あ。もう、僕、良くわからない」
竜気?竜石?何それ。美味しいの?
「竜気は……さすがにわかるよな?」
「………………えへ♡」
僕の反応に、ヴァルが小さく舌打ちして、「この、駄竜が……っ」と毒づくのが聞こえた。
あのね。竜って、耳や目はすっごく良いんだから。聞こえてるよ、て顔したら、聞こえるように言ってんだ、て顔で返された。ヴァルは、やっぱり器用だな。
「竜気は、竜の存在そのものだ」
「なるほど」
竜気は竜の存在そのもの。
僕は、心の中で復唱する。
「………………つまり?」
結局、意味がわからなかった。
「お前が竜なら、お前こそ竜気の塊なんだよ!」
「へえ……そうなんだね」
「何で、他人事なんだ!てめぇのことだろう!」
そんなこと言ったって。
「じゃあ、聞くけどさ」
「あ゛?」
「ヴァルは、人の7割が水でできてます、て言われたら、何て答えるの?」
「は?……何だ、そりゃあ……」
「ねぇ?何て答える?」
「……んなこた、どうでもいい」
「ほらぁ」
そうでしょ。そうなるでしょ。そうしかならないでしょ。
そんなもんなんだよ。
「で。あと、竜石ってなぁに?」
「あ……ああ。まぁ、竜気の結晶だよ。こういうやつで」
ヴァルが胸元から小さな巾着を取り出して、しわしわのシーツの上にひっくり返した。
赤や、黄色、青の透き通った、小指の爪ほどの小さな石が数個転がり出てくる。
「わぁ……」
「これでも、滅多に出ない大きさだ」
「これ、すっごくキレイだね!」
「キレイ……ねぇ」
ヴァルは、嫌そうに眉を顰めて、石を一つ、指先で弾く。
「うん。だって、きらきらして、透明で……これって、まるで……」
「まるで?」
「まるで、キャンディみたいだよね!」
「ぶはっ……キャンディって、お前っ……どんだけ食い意地はってんだよ」
僕の言葉に、何やら怖い顔をしていたヴァルは吹き出して、お腹を抱えて笑い出す。
「え。だって、ものすごく美味しそうだよ」
ちょっと、食べてみようかな?
そんな思いで、大きめの青い石を指で抓み上げる。
「その大きさでも、家が一軒建つ」
「え゛っ!!」
「それだけ、貴重なもんだってことだよ」
もう。そんなもの、こんな無造作にシーツの上に転がさないでよ。
それに、そんな貴重なものをこんなにたくさん持ってるなら、もっとお肉を食べたらいいのに。
「つまり神殿は、竜を祀るっていう大義名分の下、その権力と富を独占してる営利組織、てとこだ」
言いながら、ヴァルは転がった竜石を革袋に戻す。
「まぁ、何にせよ。
赤銅竜は炎の鱗と翼をもち、青銀竜は青く煌めくヒレと水晶の鱗で覆われて、そして、黄金竜はその名の通り金の鱗と鋼の鉤爪をもつ、とされている。
……お前みたいな……犬みたいな竜は、神官の俺でも、見たことも聞いたこともねぇ」
僕みたいな、ふわふわもこもこの白い竜はいないらしい。
「うーん。じゃあ、……僕は………何なんだろうね?」
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