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甘い罰、母の祈り ※

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 あれから、どれほどの時が経っただろうか。
 充満する快感に、朦朧とする意識の中、フェリは必死に訴えた。

「あ、もう……おやめ、ください…あぁっ」
「何を言う。これは、罰なのだから」

 ジグムントは、ただひたすらに、柔らかい刺激でフェリを甘く愛撫した。

 首筋に湿った感触が這い、そのまま耳を食まれ、耳にはぴちゃぴちゃと濡れた音がこだまする。
 ぞくぞくと広がる甘い痺れに、全身が震えた。鎖骨も、腕も、指先まで舐められて、ふやけてしまいそうだ。

 大きな手が、フェリの身体を包むように、触れていく。硬い皮膚が、フェリの白い肌の上を、触れるか触れないか、羽のような感触で何度も何度も往復した。

 特に、わき腹や背中、そして下腹部と内股を執拗に撫で、そして同じところに口づけを落としていく。

 ただ。

 肝心なところには、決して触れてもらえなかった。

「フェリ。受け入れよ」

 命じられると共に、肌を吸われ、ちくり、と痛みが走る。

「あっ…ああ……いやっジグさま、こわい……こわいっ」
「恐れるな。何も、恐ろしいことはせん」

 恐ろしい。フェリは、恐ろしかった。

 自分の決定が、この人を脅かすかもしれない。それが、フェリには酷く恐ろしかった。

 フェリは、これまで自身の心に違えるような行為は、行わないように努めてきた。

 フェリはいつも一人だった。
 己が納得できれば、後は、結果の責を一人で受け止めればよかった。罰せられようと、責められようと、フェリにはどうでも良かった。

 けれど、同時に、ジグムントはそうではないのだ、と気づいた。
 常に、共にある近しい者の命運も一緒に背負い、己の道を選んできたのだ。それが如何に、強靭なことか。フェリには想像もできなかった。

 ジグムントは、グランカリス帝国という大国を支える過酷な状況において、このように重いものを背負いながら、これまで歩んできたのだ。

 フェリには信じられない事実だった。

 一人で決定し、自身が一人、罰せられる方が、ずっと楽だ。
 フェリには、そう感じられて仕方がなかった。

「いやっ…いや……っ離して、……ああ、…ゆるして…っ」

 ここに在ることが恐ろしい。逃れたい。この場から。この人から。

「それはできぬ。離してやれん……私から、逃れることは許さぬ」

 逃せない快感は、溜まる一方で、フェリの体中に甘く渦巻く。そして、さらに敏感になった肌を、ジグムントは容赦なく撫でまわした。

 ぶるり、とフェリの身体は飽和した快感に、何度も繰り返し、震えた。

「ああ……もう、おかしくなって、しまいます…んっ」
「それも、良いかもしれん」

 ジグムントは、ふっと吐息で笑い、胸元へと顔を寄せ、けれど先端の突起には触れず、その周りをじっくりと味わった。

「もう、あっ…ジグ、さま…お許し、ください……あ、あぅっ」
「フェリ。何を、どうして欲しい」
「あっ……そんな、こと…っ」
「できぬなら、このままだ」
「んんっ……あ、あぁっ…あ、あっ」

 もう、耐えられない。

「ふれて、ください…っ」
「どこに?」
「あっ…ぜんぶ……ふ、ぅっ…ぜんぶっ」
「……っ!」

 フェリの潤んだ瞳から、ぽろりと一粒涙がこぼれた。

 もう、何もかも、わからなくなってしまいたい。この人の与えてくれる熱に浮かされて、溺れてしまいたい。

「ジグさまぁ……おねがい…」

 瞳が潤み、赤い目元は泣き腫らしたようで、酷く悲しそうに見えた。

 ジグムントは、小さく舌打ちし、

「全部、などと。簡単に申すな」

 と、地を這うような声で唸った。

 そして、これまでの柔らかさとは、打って変わって、確かな力強さで、胸の頂に硬く主張した小さな果実に、かりと歯を立て、舌で転がし、こねて、押しつぶした。

「ひぁっ…あっあ、んっ…」

 フェリの身体は刺激の度に、大袈裟なほど、びくりと反る。

 ジグムントの手が、既に蜜を溢れさせ、己の腹まで濡らしていたフェリの花芯に、優しく、けれどしっかりと触れて撫で擦る。ゆるゆると花芯を撫でる律動で、フェリの中で渦巻いていた熱は一気に解放されて、腰が溶けるような悦楽に襲われた。

「あ、…ジグさま……すぐに、…達してしまいます…ああぁっ」
「フェリ。いつか……そなたが私と共にあることを受け入れたとき。
 その時は、そなたの中まで、触れさせてくれ」
「あっ…なか、とは……あ、や…だめ、あ…」

 初心なフェリには、理解できない。ジグムントは、ぐっとフェリの脚を合わせ持ちあげると、己のものを足の間に挿し入れた。
 フェリは、脚にきゅっと力がこめる。こんなことで、ジグムントは極まれるのだろうか。フェリには疑問だった。

 フェリは、一度だけ、足を閉じるよう命じられたことを、その後は何も言われずとも、毎回当然のように応えた。その健気さが、ジグムントの熱をさらに高めるのだが、フェリはそれに気づかない。

 フェリの後ろの蕾から鈴口までを、ジグムントの熱く硬い剛直が、繰り返し強く擦っていく。肌のぶつかり合う音も、振動も、酷くフェリの心を、身体を揺さぶった。

「ああ、……そなたの中は、心地よいだろうな」
「ん、……ジグさま、あ、あぁっ…あ、あぁ——…っっ」

 フェリは、導かれるままに、そのまま達した。余韻に滲む視界の中で、ジグムントが眉根を寄せ、小さく喘ぎを噛み殺すのが見える。ぱたぱたと、フェリの腹が白濁で濡れた。

 フェリは、自分に零された熱い液体が、肌の上でひやりと冷えていくのを、とても惜しく、切なく感じた。

 長い豊かな紅い髪に、触れる。熱くもなく、想像よりずっと柔らかな感触が、フェリの心をくすぐる。

 フェリが触れたところを、撫でたところを、確かめるようにフェリの手を取って、ジグムントは額に汗を浮かべたまま、気持ち良さそうに、瞳を細めた。

 その表情一つに、こんなにも満たされてしまう。

「あ、…っジグ…さま……、ふ…ん…」

 そして、ようやく与えられた口づけは、痺れるように甘い。
 深く重なった唇に捕らえられ、口内を舌が犯す。柔らかく、深く、触れていく。

「フェリ……そなたはもう、一人ではない。私は決して離さぬ。共に在ることを恐れるな。
 それができぬならば、私が何度でも、捕まえて、罰してやる」

 こんな、甘い罰。

 こうして、この紅い獅子に触れることを許されている間だけでも、分相応な望みを抱くことを許してほしい。

 こんなの、もう……愛さずにはいられない。
 もう自分の中で大きく育ってしまった想いを、押さえ込むことが、できない。



 愛しさに締め付けられるフェリの胸に、ざわりと焦燥感が駆け抜ける。



『フェリ。人を愛するときは、全てを許せる人を、愛しなさい』

 母は、寝る前に、祈りのように、そう言った。

『たとえ、殺されようと、許せる人を愛しなさい』

 毎日、繰り返し、フェリに諭した。

『そうでなければ、死を願う覚悟をなさい』



 今の今まで、己には関係ないと思っていた言葉が、鮮明に浮かび上がってくる。

 身体の奥の方、心の深い部分で、その言葉の持つ意味が、ただの祈りや幻想では無いことを、フェリは知っている。



 フェリの父は、フェリにたくさんのことを教え、そしてそれが、フェリを今まで生かしてくれた。

 そして、今。フェリは、母の唯一の教えを、思い出さざるを得なかった。



 そして、その10日後。
 フェリは、グランカリス帝国から姿を消した。この部屋に、二度と帰らなかった。
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