【完結】疎まれ軍師は敵国の紅の獅子に愛されて死す

べあふら

文字の大きさ
上 下
15 / 43

ジグムント・ヴァン・グランカリス② ※

しおりを挟む
「どうやったら、そなたに勝てる?」

 ジグムントが問うと、

「何故、私に勝たねばならないのですか?」

 と、逆に問われた。

「は?……そんなこと」

 勝つことに、理由などあるのか。

「貴方は私に負けて、何かを失ったのですか?勝てば、何が得られるのですか?」

 言い淀むジグムントに畳みかけるように、男は問う。

「今、私に負けたことで、新たな何かを得られるのなら、それでいい。それがいい。
 目先の勝敗や結果など、些末なことです」

 簡単に言う。
 その勝敗、結果によって、ジグムントは多くのものを失ってきた。その中には、大切なものだって、数多含まれていた。

 悔しさに、涙が滲む。これは、この男に負けたからではない。

「私は……弱い」

 結局、自分は何者でもない。己に対する失望だった。

「私は、怖い」

 これからも、どんなに努めても、たくさんのものを失うのだろうか。

 ジグムントが、「自分は弱い、怖い」と、何度も呟き、己の無力さに打ちのめされている間、かの軍師は、ただしばし、沈黙をもってジグムントに寄り添った。

 迷いの中で、「私は、これから、どうすればよいのだろうか」と問う。これは、自分自身への問いであった。

「貴方の在り方を決められるのは、貴方だけです」

 けれど、先ほどは問いを問いで返した軍師が、静かに答える。

「他人に与えられる地位が、貴方の何を高めてくれますか。他人の評価が、貴方の何を損なえますか。
 どんな状況にあろうと、どんな評価を受けようと、他者は貴方にどんな価値も付加できず、貴方の何も損なうことはできません」

 そう言う軍師は、それでもどこか悲し気で。
 彼自身が、多くの何かを失ってきたのだと、そして、これからも失うのだと、知っている。そんな風に、ジグムントには思えた。

「だから、貴方は、貴方が正しいと思うことを。貴方にとって価値のあることを。
 そして、貴方自身が大切にしていることを損なわない道を、進めばいいのです」

 確信しているように、軍師は言う。

「まあ、こんなことを言う私こそ、弱く、臆病なのですが。
 ですから……私には、そう努めることしかできない、というだけの話です」

 と、どこか恥ずかしそうに軍師は言った。

 これはまさに、ジグムントにとっては金言だった。

 ジグムントにとっては、日々は常に“良”を積み重ねるものだと考えていた。
 辛いことに耐え、我慢し、人の言う“良”をたくさん積み上げれば、それが“最良”へと繋がるのだと、信じ、努めてきた。
 そうすれば、ようやく、誰からも何も言われず、自分の為したいことをできる権利が与えられるのだ、と。

 けれど、それは間違っていたのだ。少なくとも、ジグムントにはそうだった。

 己の正しいと思うことを、価値あるものを蔑ろにしては、決して自分の信じる道は通れぬのだ。与えられた権利など、すぐにまた奪われる。己の道は、己が決めるのだ。何も恐れることは無い。

 視界が開けた。



 *****



「私は、弱い」

 グランカリスの覇王と、紅の獅子と讃えられている、屈強な男が、一人ごちた。

 現在、グランカリス帝国の実質的な最高権力者であり、軍神と謳われるこの男が弱ければ、一体誰が強いのか、と側近を務めるオズ・パンドラは思った。
 そして、そんなことを言う暇があるのなら手を動かして、と小言を言おうとして、見事に処理されている書類の山を見て、口を噤んだ。

 この男は、憎たらしいほどに仕事ができる。



 フェリ・デールがグランカリス帝国へ来て、早一月が過ぎた。
 ジグムントは、自身の執務室で職務の傍ら、今朝のことを回想していた。

 いつもは、フェリの方が先に目を覚ましている。

 ジグムントが目を開くと、普段よりずっと近くにフェリの顔があり、まじまじとジグムントの寝顔を見つめているのだ。そして、目が合うと、瞬時に顔を赤らめて、すっと視線を外しながら、「おはようございます」と囁く。

 ジグムントにとって、至福の瞬間だった。

 今日は、ジグムントの方が、先に起きてしまった。

 すやすやと安寧に眠る様に、満たされた想いになると共に。こちらへ背を向け、丸まっているフェリの姿が、ちりっとジグムントの心に火種を落とし、悪戯心に火を付けた。

 うなじにそっと唇を寄せると、小さな身体がぴくりと震える。
 白い肌に一つ花弁を散らし、ふわふわと鼻をくすぐる淡い巻き毛の香りを吸い込んだ。

 背に無数の花弁が散るころには、フェリは眠りながらも、眉根を寄せ、呼吸を乱しながら、時折甘い嬌声を漏らす。
 肌が火照り、肩まで紅く染まっている。

 後ろから抱きしめるように腕を回し、胸をまさぐる。
 先端の果実を柔らかくつまめば、はぁ、と悩まし気な吐息が零れ、さらに下腹部を撫でたところで、フェリの身体が強張った。

「起きているのだろう?」
「んん…っ」

 ジグムントが耳元で囁くと、フェリの身体が大きく跳ねた。

「このようなことをされれば、眠ってなど、おれません」

 ゆっくりと後ろを振り返ったフェリの瞳はとろけそうに、僅かに非難の色を滲ませている。
 それ以上に、頬が羞恥と欲情で真っ赤に染まっている。それがまた、ジグムントの欲を刺激した。

 そのまま、唇を奪い、下腹部へと伸ばしていた手をさらに下げ、フェリの中心を撫でた。

「んっ……あ、ジグさま…おやめ、ください…っ」

 ジグムントの腕を力なく掴み、可愛い抵抗を試みるフェリの尻に、ぐっと己の分身を数回押し付ける。
 手にすっぽりと収まっている花芯を優しくこすれば、すぐに芯をもって、潤んでくる。

「ひぁっ…あ、あぁ…」
「そなたのここに触れるのは、私が初めてなのか?」
「あっ……だれが、このような……私の、穢れたところに、触れるのですか……っ」

 慣れない刺激を持て余し、受け止めようとも、逃れようとも見えるフェリの悶える姿は、ジグムントの心を、そこはかとなく満たした。

「穢れてなどおらぬ」
「ふぁっ…あぁっあ、……ジグ、さまぁ……や、…」

 さらに、尻たぶを撫で、慎ましやかに閉じた固い蕾に触れる。こちらもまた、誰にも許されていない。フェリの反応を見れば明らかだった。

 触れる肌の温度が高まると、どうしてもその先の熱を求めてしまう。けれど、機が熟するのをジグムントは待ち、耐えていた。

 一層硬くなる手の中の花芯は、ただ愛おしいばかりで。その高まりを感じ取り、ジグムントは耳を食んだ。

「よいぞ。フェリ」
「あ……はぁ、あぁぁ――…っっ!!」

 フェリの身体が小さく痙攣し、手の中が熱いもので満たされる。その甘い熱を感じながら、ジグムントの快感も溢れ、フェリの脚を濡らした。

 腕の中で、弛緩し呼吸を整えるフェリを見つめて、額に張り付く、癖のある絹糸をよける。
 恍惚とした視線が彷徨い、こちらへ向く。再びぶり返してくる己の熱を抑え込み、大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...