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Vol.3『なりそこないのサンタクロース』
サンタクロースはスタンバイ
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降矢さんがずっとイヴちゃんのこと引きずって、ゾンビ状態で一年生きてきたように、イヴちゃんもずっと十字架を背負って、ずっと苦しんでたんだ。一年前はそうするしかなくてそうなっちゃったけど、今なら、今の二人なら、もっと、良くなれる。
なんか、あったよね、櫛をプレゼントしようとしたら奥さん髪の毛切っちゃってたって話。ちょっと違うけど、その話を思い出した。降矢さんとイヴちゃんのお話は、まだ途中だけどね。
イヴちゃんは、さめざめって感じで泣いてる。これもう、何がなんでも、二人をまた引き合わせないとだ。つっても、イヴちゃんこんな箱入りじゃあね……なんか突破口無いかな、こうやって忍び込むんじゃなくてさ。
「ねーイヴちゃん、お取り込み中のとこ悪いんだけどさ、イヴちゃん、外に出ることって無いの? 学校以外で」
『ぐず…………ええと……日曜のお祈り、かな』
「おおお……なんかすごいね」
『ものすごく、厳重な警護がつくけど……』
え、そんなとこまで! どんだけだよ! どんだけだよ!
「あー。他になんか無い? もうちょっと、何てーの、ゆるいやつ」
『ううん…………あっ……』
「なに?」
『二十四日……しあさってですけど、家で、クリスマスのパーティーがあります』
「おうちのパーティー」
『いえ、チャリティーのガラパーティーをやるんです。父が、毎年開いてて……』
「ガラパーティー」
『外に出る、というか、外の人が家に出入りするようになるので……』
「ふんふん」
イヴちゃんちのクリスマス・チャリティ・ガラ・パーティー(長いね)ってのは、規模はそんなに大きくないけど、わりとオープンな感じでやってるらしい。オープンって言っても、知る人ぞ知る、みたいなセレブの世界のお話なんだけど。
そんで、このイヴちゃんち自体がパーティ会場なわけで、かなりのオープン具合になる、ってことだった。まーもちろん、警護もいっぱいつくんだろうけど。でも、チャンスを見つけるなら、そこだ。隙があるとしたら、そこしかない。
「わかったよ、イヴちゃん。その時に、なんとかする」
『なんとか……?』
「うん。どうやんのかは、それまでに考えとくからさ、だから――」
『……だから?』
「イヴちゃんも、そのつもりでいて? なんか、その、覚悟? みたいなさ……ね?」
うまく言えなかったけど、イヴちゃんは頷いてくれた。
ああー、なんだかね、この子にはね、なんでもしてあげたくなっちゃうんだよね。ほんと参る。この、放っとけない感じ。なんだろな。画面越しなのが、なんか悔しい。
そうしてあたしと淳ちゃんは、イヴちゃんの家を後にしたのだった。お互い特になんにも言葉が出てこなくて、もういいよねって言って通話を切った。歯磨きしてソファに寝転んだら、すぐに眠くなった。淳ちゃんが帰ってきたのにも気づかなくて、朝までずっと寝てた。
迎えた次の日、つまり二十二日。淳ちゃんはまだ寝てるっぽかった。昨日買っといた朝ごはん食べながら、イヴちゃんちのパーティーのことをPC使って調べてみた。『雪永』って名前は出てなかったけど、住所は知ってたからすぐ見つかった。それについて淳ちゃんに、いくつかメモ書きを残しといた。んで、たぶんだけど、イヴちゃんのこと調べても何も出てこなかったり、ミスコンのページも削除されてたりしてたのって、イヴちゃんのお父さんが何か手を回してそういうふうにしてたからなんだって思った。
学校に行って、昼休み、淳ちゃんから電話が来た。慌てて美術室に行って、こっそり話した。あたしのメモを見て、さっそく行動してくれてたらしい。パーティーでの作戦について、色々と話し合った。
放課後。ひさびさってほどでもないけどひさびさに、部活に行ってみた。椒センパイはいたけど、降矢さんは来てなかった。「今日はお休みですわ!」って言ってたし、「明日もお休みですわ!」っても言ってた。きっと、アトリエで追い込んでんだろうね。まーだから、センパイに話だけして、あたしのほうから降矢さんちに行くことにした。
ピンポーン。
「あーこんちは。調子どうですか? あーこれ、差し入れ。降矢さん、ちょっと根詰めすぎてんじゃない? 休憩しよっか」
まー、元から顔色はあんま良くない人だけどね。思った通り、引きこもってずっと頑張ってるっぽかった。
「今はまだ……あと少しなんですけど」
まだ見せたくないオーラが微妙に出てたから、二階には上がんないで一階でお茶を淹れてあげた。カップをひとつ、割っちゃった。
「イヴちゃんね、大丈夫だよ。よかったね、降矢さん」
ざっくりとだけど、イヴちゃんのことを教えてあげた。まだ全部解決したわけじゃないってことも。降矢さんも、まだ喜ぶには早いってわかってたみたい。そんで、作戦のことも話した。
「あの絵も、イヴがここに来てくれたら、完成します」
降矢さんはそう言ってた。いまいち意味がわかんなかったけど、ま、そういうことなんだな、って思って、長居するのも悪いからっておいとました。この日はこれくらいかな。
二十三日、水曜日。明日はいよいよクリスマスイヴで、作戦決行だ。この日も学校の後、美術部にちょっとだけ顔出して、そして事務所行って、淳ちゃんと一緒に明日の準備とかしてた。まー、全然クリスマスって気分じゃなかったけど、そんなこと気にしてる場合でもないし、それよりも、作戦がうまくいってイヴちゃんと降矢さんが再会する、その時がいよいよ来るんだって、そっちのワクワクのほうが断然大きかった。おつまみカレンダーは、この日はピスタチオだった。
なんか、あったよね、櫛をプレゼントしようとしたら奥さん髪の毛切っちゃってたって話。ちょっと違うけど、その話を思い出した。降矢さんとイヴちゃんのお話は、まだ途中だけどね。
イヴちゃんは、さめざめって感じで泣いてる。これもう、何がなんでも、二人をまた引き合わせないとだ。つっても、イヴちゃんこんな箱入りじゃあね……なんか突破口無いかな、こうやって忍び込むんじゃなくてさ。
「ねーイヴちゃん、お取り込み中のとこ悪いんだけどさ、イヴちゃん、外に出ることって無いの? 学校以外で」
『ぐず…………ええと……日曜のお祈り、かな』
「おおお……なんかすごいね」
『ものすごく、厳重な警護がつくけど……』
え、そんなとこまで! どんだけだよ! どんだけだよ!
「あー。他になんか無い? もうちょっと、何てーの、ゆるいやつ」
『ううん…………あっ……』
「なに?」
『二十四日……しあさってですけど、家で、クリスマスのパーティーがあります』
「おうちのパーティー」
『いえ、チャリティーのガラパーティーをやるんです。父が、毎年開いてて……』
「ガラパーティー」
『外に出る、というか、外の人が家に出入りするようになるので……』
「ふんふん」
イヴちゃんちのクリスマス・チャリティ・ガラ・パーティー(長いね)ってのは、規模はそんなに大きくないけど、わりとオープンな感じでやってるらしい。オープンって言っても、知る人ぞ知る、みたいなセレブの世界のお話なんだけど。
そんで、このイヴちゃんち自体がパーティ会場なわけで、かなりのオープン具合になる、ってことだった。まーもちろん、警護もいっぱいつくんだろうけど。でも、チャンスを見つけるなら、そこだ。隙があるとしたら、そこしかない。
「わかったよ、イヴちゃん。その時に、なんとかする」
『なんとか……?』
「うん。どうやんのかは、それまでに考えとくからさ、だから――」
『……だから?』
「イヴちゃんも、そのつもりでいて? なんか、その、覚悟? みたいなさ……ね?」
うまく言えなかったけど、イヴちゃんは頷いてくれた。
ああー、なんだかね、この子にはね、なんでもしてあげたくなっちゃうんだよね。ほんと参る。この、放っとけない感じ。なんだろな。画面越しなのが、なんか悔しい。
そうしてあたしと淳ちゃんは、イヴちゃんの家を後にしたのだった。お互い特になんにも言葉が出てこなくて、もういいよねって言って通話を切った。歯磨きしてソファに寝転んだら、すぐに眠くなった。淳ちゃんが帰ってきたのにも気づかなくて、朝までずっと寝てた。
迎えた次の日、つまり二十二日。淳ちゃんはまだ寝てるっぽかった。昨日買っといた朝ごはん食べながら、イヴちゃんちのパーティーのことをPC使って調べてみた。『雪永』って名前は出てなかったけど、住所は知ってたからすぐ見つかった。それについて淳ちゃんに、いくつかメモ書きを残しといた。んで、たぶんだけど、イヴちゃんのこと調べても何も出てこなかったり、ミスコンのページも削除されてたりしてたのって、イヴちゃんのお父さんが何か手を回してそういうふうにしてたからなんだって思った。
学校に行って、昼休み、淳ちゃんから電話が来た。慌てて美術室に行って、こっそり話した。あたしのメモを見て、さっそく行動してくれてたらしい。パーティーでの作戦について、色々と話し合った。
放課後。ひさびさってほどでもないけどひさびさに、部活に行ってみた。椒センパイはいたけど、降矢さんは来てなかった。「今日はお休みですわ!」って言ってたし、「明日もお休みですわ!」っても言ってた。きっと、アトリエで追い込んでんだろうね。まーだから、センパイに話だけして、あたしのほうから降矢さんちに行くことにした。
ピンポーン。
「あーこんちは。調子どうですか? あーこれ、差し入れ。降矢さん、ちょっと根詰めすぎてんじゃない? 休憩しよっか」
まー、元から顔色はあんま良くない人だけどね。思った通り、引きこもってずっと頑張ってるっぽかった。
「今はまだ……あと少しなんですけど」
まだ見せたくないオーラが微妙に出てたから、二階には上がんないで一階でお茶を淹れてあげた。カップをひとつ、割っちゃった。
「イヴちゃんね、大丈夫だよ。よかったね、降矢さん」
ざっくりとだけど、イヴちゃんのことを教えてあげた。まだ全部解決したわけじゃないってことも。降矢さんも、まだ喜ぶには早いってわかってたみたい。そんで、作戦のことも話した。
「あの絵も、イヴがここに来てくれたら、完成します」
降矢さんはそう言ってた。いまいち意味がわかんなかったけど、ま、そういうことなんだな、って思って、長居するのも悪いからっておいとました。この日はこれくらいかな。
二十三日、水曜日。明日はいよいよクリスマスイヴで、作戦決行だ。この日も学校の後、美術部にちょっとだけ顔出して、そして事務所行って、淳ちゃんと一緒に明日の準備とかしてた。まー、全然クリスマスって気分じゃなかったけど、そんなこと気にしてる場合でもないし、それよりも、作戦がうまくいってイヴちゃんと降矢さんが再会する、その時がいよいよ来るんだって、そっちのワクワクのほうが断然大きかった。おつまみカレンダーは、この日はピスタチオだった。
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