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Vol.3『なりそこないのサンタクロース』
サンタクロースとギブアンドテイク
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日が傾いてきて、窓の外がちょっとだけオレンジ色っぽくなってきてた。ちょっと寒いかも、とあたしは思い始めてた。でも、まだ話は途中だった。
「その日になんかあったの? ケンカした、とかじゃないよね?」
「それがさっぱりわからなくて……」
「だよね。わかんないから、そのままずっとこんな丸一年も引きずってんだよね」
「…………」
なんか、その前の晩は、明日に備えて、ってことで早めの時間にイヴちゃんと別れて、家でごそごそパーティーする準備してたんだって。二人っきりでホームパーティー。へー。
んで当日。待てど暮らせど彼女は来ない。何の連絡も無い。
こっちから電話してもメッセしても繋がんなくて、イヴちゃんの住んでたアパート(彼女もひとり暮らしだった)に行ってみたら、もぬけの殻。空き部屋になってた。それっきりだった。
で、あんまりショックだったもんだから、降矢さん、絵もあんまり描けなくなって、どんどん描けなくなって、今はもうずっと、描いてない、ってことだった。
「んで、何、昨日ゾンビみたいに歩いてたのって」
「クリスマスが近づいてきて、思い出したんです、カレンダーのこと。『24』が開かないまま、一年が過ぎてしまう。それに気づいたらなんだか、焦燥感に見舞われて。イヴがどこか近くにいるんじゃないか、すぐそこにいたりしないか、その辺を歩いてたりするんじゃないか、そう思って。それで、この数日ずっと――」
「探し回ってたんだね。カレンダー持って」
「はい……」
「うん! よし、わかった、降矢さん!」
「え?」
「あたしがさ、イヴちゃん探し出してあげるよ」
人探しなんて、あたしの由紀奈ちゃん情報網を使えば一発じゃん、ってこの時は思ってた。
「ほらあたし、探偵の助手だって言ったよね。まーかせて。必ず見つけ出すから。――ってか、何で降矢さん、カレンダーまで一緒に持ち歩いてたの?」
「あ、それは……イヴはもしかしたら、僕のこと忘れちゃってるかもしれないと思って……」
「忘れてても、カレンダー見せれば思い出してくれんじゃないかって思って?」
「はい……そして、一緒に『24』の窓を開けたくて…………」
普通に考えたらちょっと何言ってるかわかんない案件だけど、その気持ちはなんだかわかる気がした。そして、降矢さんが昔の淳ちゃんと同じ目をしてた訳もわかった。自分のパートナーを失くした悲しさと、それに一緒にくっついてくるあれこれ。
「んー、降矢さん。絵、描きなよ。描きな?」
そうしないと、その目は治んない。
「イヴちゃん探しはあたしらに任せて、降矢さんは、絵、描くこと。それが依頼料。この世の中は、ギブアンドテイクでできてんだよ。わかった?」
お金無いんでしょ、とあたしは心の中でつけ加えた。余計なお世話と思ったけど。降矢さんは、嬉しいんだかそれでもやっぱり悲しいんだか、ほんと意味わかんない顔になってて、正直ちょっときつかった。せっかくのイケメンが無駄になりすぎてた。
降矢さんの家を出たら、もう外は暗くなりかけてた。そのまま家に帰ろうかとも思ったけど、淳ちゃんが寂しがってるかなって思って事務所に寄ることにした。
「とまー、そーいうわけで」
「なんだ、真っ直ぐ帰るのかと思ってたぞ」
「降矢哲広さんの、いなくなった彼女、イヴちゃんを探します」
「お、おう?」
「ねー淳ちゃん、手伝ってもらっていー?」
「何が何だか」
「手伝えって言ってんだよ、助手。手伝え」
「助手なのは由紀奈じゃ――」
「いーから手伝え。どーせヒマなんだろ」
「まさか由紀奈お前、本当にあの男に惚れたんじゃ――」
「アホぬかせ。誰が惚れた相手のその彼女をわざわざ探しに行くんだよ」
「消しに行くとか?」
「それで誰が得すんだよ」
そういうわけであたしは、淳ちゃんを助手に従えて、なりそこないのサンタクロースの彼女、『イヴ』ちゃんを探すことになったのだった。
「その日になんかあったの? ケンカした、とかじゃないよね?」
「それがさっぱりわからなくて……」
「だよね。わかんないから、そのままずっとこんな丸一年も引きずってんだよね」
「…………」
なんか、その前の晩は、明日に備えて、ってことで早めの時間にイヴちゃんと別れて、家でごそごそパーティーする準備してたんだって。二人っきりでホームパーティー。へー。
んで当日。待てど暮らせど彼女は来ない。何の連絡も無い。
こっちから電話してもメッセしても繋がんなくて、イヴちゃんの住んでたアパート(彼女もひとり暮らしだった)に行ってみたら、もぬけの殻。空き部屋になってた。それっきりだった。
で、あんまりショックだったもんだから、降矢さん、絵もあんまり描けなくなって、どんどん描けなくなって、今はもうずっと、描いてない、ってことだった。
「んで、何、昨日ゾンビみたいに歩いてたのって」
「クリスマスが近づいてきて、思い出したんです、カレンダーのこと。『24』が開かないまま、一年が過ぎてしまう。それに気づいたらなんだか、焦燥感に見舞われて。イヴがどこか近くにいるんじゃないか、すぐそこにいたりしないか、その辺を歩いてたりするんじゃないか、そう思って。それで、この数日ずっと――」
「探し回ってたんだね。カレンダー持って」
「はい……」
「うん! よし、わかった、降矢さん!」
「え?」
「あたしがさ、イヴちゃん探し出してあげるよ」
人探しなんて、あたしの由紀奈ちゃん情報網を使えば一発じゃん、ってこの時は思ってた。
「ほらあたし、探偵の助手だって言ったよね。まーかせて。必ず見つけ出すから。――ってか、何で降矢さん、カレンダーまで一緒に持ち歩いてたの?」
「あ、それは……イヴはもしかしたら、僕のこと忘れちゃってるかもしれないと思って……」
「忘れてても、カレンダー見せれば思い出してくれんじゃないかって思って?」
「はい……そして、一緒に『24』の窓を開けたくて…………」
普通に考えたらちょっと何言ってるかわかんない案件だけど、その気持ちはなんだかわかる気がした。そして、降矢さんが昔の淳ちゃんと同じ目をしてた訳もわかった。自分のパートナーを失くした悲しさと、それに一緒にくっついてくるあれこれ。
「んー、降矢さん。絵、描きなよ。描きな?」
そうしないと、その目は治んない。
「イヴちゃん探しはあたしらに任せて、降矢さんは、絵、描くこと。それが依頼料。この世の中は、ギブアンドテイクでできてんだよ。わかった?」
お金無いんでしょ、とあたしは心の中でつけ加えた。余計なお世話と思ったけど。降矢さんは、嬉しいんだかそれでもやっぱり悲しいんだか、ほんと意味わかんない顔になってて、正直ちょっときつかった。せっかくのイケメンが無駄になりすぎてた。
降矢さんの家を出たら、もう外は暗くなりかけてた。そのまま家に帰ろうかとも思ったけど、淳ちゃんが寂しがってるかなって思って事務所に寄ることにした。
「とまー、そーいうわけで」
「なんだ、真っ直ぐ帰るのかと思ってたぞ」
「降矢哲広さんの、いなくなった彼女、イヴちゃんを探します」
「お、おう?」
「ねー淳ちゃん、手伝ってもらっていー?」
「何が何だか」
「手伝えって言ってんだよ、助手。手伝え」
「助手なのは由紀奈じゃ――」
「いーから手伝え。どーせヒマなんだろ」
「まさか由紀奈お前、本当にあの男に惚れたんじゃ――」
「アホぬかせ。誰が惚れた相手のその彼女をわざわざ探しに行くんだよ」
「消しに行くとか?」
「それで誰が得すんだよ」
そういうわけであたしは、淳ちゃんを助手に従えて、なりそこないのサンタクロースの彼女、『イヴ』ちゃんを探すことになったのだった。
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