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Vol.3『なりそこないのサンタクロース』
サンタクロースの主食とは
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両手いっぱいに買い物袋を持ったあたしと、ぶつかって転んじゃった、昔の淳ちゃんみたいな暗い目をした男の人。手を貸そうと思ったけど、どっちの手もふさがってたんだった。その人はすぐに体を起こしたけど、立ち上がるのはすごいゆっくりだった。じいさんか。でも、そんなに年は行ってない。淳ちゃんより全然若い。そんで、淳ちゃんよりイケメンだった。や、あたしは顔とかべつにどーでもいいんだけど。
「……ってか、ごめんなさい。ぶつかっちゃってすみませんでした」
「…………」
なんにも言わないで、その人はあたしをよけて、またとぼとぼ歩き出した。やっぱり、じいさんみたいだと思った。んで、やっぱり気になるから、後ろからついてった。ちょっと大きめの紙袋を提げてたけど、その袋はちょっと古びてクタクタで、どう見ても買い物したばっかのものじゃなかった。中身は何なんだろう。
「ねえ、あのー」
「…………」
うん、無言だ。こんな近くで呼んでんのに。背は、淳ちゃんより高いかな。髪の毛は山崎まさよしみたいにぼっさぼさだけど、汚れてるわけじゃなくて、手もきれい。だから、ホームレスとかじゃない。けど、真冬だってのに薄着だった。普通の秋物っぽい薄手のジャケットに、中も普通の襟付きのシャツ、茶系のパンツ。淳ちゃんみたいなだっさいのじゃない、大人なスニーカー。そして、すごい痩せてた。寒そう。
「あのおー! ねえ!」
「…………」
やっぱりシカトだ。腹立つ。横顔を覗き込んでみた。やっぱり悲しそうな顔をしてる。あー、なんだろな、やっぱ、放っとけない。もうこうなったらと、あたしは意を決した。意を決して、持ってた袋の持つとこに手を通して、そんでその人の腕を掴んで、引っ張った!
「ちょっと! こっち来て!」
ぐいっとね。なんか泡を食ったみたいな声出してたけど、問答無用だ。
「いーから!」
ちょうど目の前だったから。
「よーす」
我がハードボイルド探偵事務所に連れ込んだ。
「なんだ由紀奈。同伴出勤か。ここはそんな店だったか」
「だったらなんだってんだよ」
「すみません……」
ほんとつまんないこと言う。
つまんない男・淳ちゃんは応接スペースのソファに座って、テーブルに置いた松屋のテイクアウトを前に、今まさに! 箸を割ろうとしてるとこだった。
「おー淳ちゃん、ちょうどいーのあんじゃん。それくれ」
「な、何を!」
あたしはその箸を奪い、そしてお尻で押しのけた。淳ちゃんのいたスペースをぽんぽんとはたいて、所在なげにつっ立ってる、あの連れ込んだあの人に示す。
「ほら、ここ座って。これ食べていーよ。てか、食べて」
「え、ええ……?」
「待て待て由紀奈。いったい何だってんだ。それは俺の大切な……」
「すぐ下階行けば食えんだろ。てかなんでわざわざテイクアウトしてんの」
「し、心境……の、変化だ……」
「なんだそりゃ。まーでもおかげで好都合ってゆーか。あのね、この人ね、ろくに食べてないんだよ。たぶん。だからさ。ほらー淳ちゃんここいたら食べづらいじゃん。行った行った、しっし」
「いったい何だってんだ……」
「ほらしっし」
淳ちゃんを追い払った。
「ね。そーいうわけだから、遠慮しないで。見てのとーり、毒とか入ってないし罠でもなんでもないから。あ、見られてんの嫌? なら引っ込むけど」
「いや…………でも、どうしてこんな……?」
「わー、やっとちゃんと喋ったね。だって今にも死にそうなんだもん。ね、いーから食べて。むしろ、お願い!」
「…………じゃあ……いただきます」
そうしてやっと、食べ始めてくれた。
「あ、そーだ、代わりにって言ったら変だけど、名前教えて? じゃないと、なんてーか、呼びようがないじゃん。――って、ごめん、食べてる最中だった。じゃ、これに書いて?」
メモ帖を差し出した。その人は箸を止めて、それに名前を書いてくれた。
「降矢……哲広?」
あたしがそう読み上げると、頷いた。それくらい、がっついて食べてた。やっぱり、お腹すいてたんだ。
ん、まあ、あたしもかなり強引だったとは思う。普通ありえないよね、いきなり連れ込まれていきなり食えとか言われるなんて。
……でも、食べてくれた。
この日のこれが、今回の依頼のそもそもの始まりだった。
そして、この人、降矢哲広さんが、今回の依頼人だ。
「……ってか、ごめんなさい。ぶつかっちゃってすみませんでした」
「…………」
なんにも言わないで、その人はあたしをよけて、またとぼとぼ歩き出した。やっぱり、じいさんみたいだと思った。んで、やっぱり気になるから、後ろからついてった。ちょっと大きめの紙袋を提げてたけど、その袋はちょっと古びてクタクタで、どう見ても買い物したばっかのものじゃなかった。中身は何なんだろう。
「ねえ、あのー」
「…………」
うん、無言だ。こんな近くで呼んでんのに。背は、淳ちゃんより高いかな。髪の毛は山崎まさよしみたいにぼっさぼさだけど、汚れてるわけじゃなくて、手もきれい。だから、ホームレスとかじゃない。けど、真冬だってのに薄着だった。普通の秋物っぽい薄手のジャケットに、中も普通の襟付きのシャツ、茶系のパンツ。淳ちゃんみたいなだっさいのじゃない、大人なスニーカー。そして、すごい痩せてた。寒そう。
「あのおー! ねえ!」
「…………」
やっぱりシカトだ。腹立つ。横顔を覗き込んでみた。やっぱり悲しそうな顔をしてる。あー、なんだろな、やっぱ、放っとけない。もうこうなったらと、あたしは意を決した。意を決して、持ってた袋の持つとこに手を通して、そんでその人の腕を掴んで、引っ張った!
「ちょっと! こっち来て!」
ぐいっとね。なんか泡を食ったみたいな声出してたけど、問答無用だ。
「いーから!」
ちょうど目の前だったから。
「よーす」
我がハードボイルド探偵事務所に連れ込んだ。
「なんだ由紀奈。同伴出勤か。ここはそんな店だったか」
「だったらなんだってんだよ」
「すみません……」
ほんとつまんないこと言う。
つまんない男・淳ちゃんは応接スペースのソファに座って、テーブルに置いた松屋のテイクアウトを前に、今まさに! 箸を割ろうとしてるとこだった。
「おー淳ちゃん、ちょうどいーのあんじゃん。それくれ」
「な、何を!」
あたしはその箸を奪い、そしてお尻で押しのけた。淳ちゃんのいたスペースをぽんぽんとはたいて、所在なげにつっ立ってる、あの連れ込んだあの人に示す。
「ほら、ここ座って。これ食べていーよ。てか、食べて」
「え、ええ……?」
「待て待て由紀奈。いったい何だってんだ。それは俺の大切な……」
「すぐ下階行けば食えんだろ。てかなんでわざわざテイクアウトしてんの」
「し、心境……の、変化だ……」
「なんだそりゃ。まーでもおかげで好都合ってゆーか。あのね、この人ね、ろくに食べてないんだよ。たぶん。だからさ。ほらー淳ちゃんここいたら食べづらいじゃん。行った行った、しっし」
「いったい何だってんだ……」
「ほらしっし」
淳ちゃんを追い払った。
「ね。そーいうわけだから、遠慮しないで。見てのとーり、毒とか入ってないし罠でもなんでもないから。あ、見られてんの嫌? なら引っ込むけど」
「いや…………でも、どうしてこんな……?」
「わー、やっとちゃんと喋ったね。だって今にも死にそうなんだもん。ね、いーから食べて。むしろ、お願い!」
「…………じゃあ……いただきます」
そうしてやっと、食べ始めてくれた。
「あ、そーだ、代わりにって言ったら変だけど、名前教えて? じゃないと、なんてーか、呼びようがないじゃん。――って、ごめん、食べてる最中だった。じゃ、これに書いて?」
メモ帖を差し出した。その人は箸を止めて、それに名前を書いてくれた。
「降矢……哲広?」
あたしがそう読み上げると、頷いた。それくらい、がっついて食べてた。やっぱり、お腹すいてたんだ。
ん、まあ、あたしもかなり強引だったとは思う。普通ありえないよね、いきなり連れ込まれていきなり食えとか言われるなんて。
……でも、食べてくれた。
この日のこれが、今回の依頼のそもそもの始まりだった。
そして、この人、降矢哲広さんが、今回の依頼人だ。
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