ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

黒猫

文字の大きさ
上 下
15 / 63
Vol.1『ファムファタ女と名探偵』

ハードボイルド名推理

しおりを挟む
 そうして俺は、何も考えずにひと通りタンスやらクローゼットやらを探った訳だが、彰子ブラは見当たらなかった。じいさんのタンスなんてのは、開けてもちっとも面白くないもんだ。
『無いねー』
「無いねー」
『真似すんな』
「どうする由紀奈ちゃん。これは困ったぞ」
『ちょっと頭使おっか』
「俺ちょっとそういうの苦手かもー」
『おい探偵。探偵だろお前。頭使えよ探偵』
 ううむ、今はだいぶ体を動かしたせいか、どうにも頭が興奮気味だ。正直、由紀奈に丸投げしたい。
『ねー思ったんだけど』
「よしきた」
『は?』
「ああいや、どうぞどうぞ」
『……思ったんだけど、タンスとかクローゼットって、普段使うからそこにしまうんじゃん?』
「はいはい」
『でもさ、兵頭ってじーさんなんでしょ? ブラなんて普通使うわけないよね』
「いいぞいいぞ」
『タンスにブラしまっても邪魔なだけじゃん』
「おう」
『うん……』
「ん?」
『……』
「どした?」
『……だから、どーすんのかなーって! 以上!』
 そうかそうか、以上、か。よくやったぞ、由紀奈。頑張った頑張った。かわいいかわいい。よし、ならここは、頑張ったかわいい由紀奈ちゃんの顔を立てるためにも、ひとつ、この俺がその先を考えてやらないとな!
「――わかったぞ」
『ん?』
「由紀奈は女だよな」
『たりめーじゃん。何言ってんの』
「男だったらどうするか、考えてみな? というか考えたんだけどな、」
『うん』
「男だったらなー、しまうんじゃなくて、飾るんじゃないか?」
『はー……それ淳ちゃんだけじゃないの?』
「いいや、違うな。別に俺は下着フェチじゃあない。下着フェチだったら、もっとコレクションするだろ。バーッと。だが俺はそうじゃない。兵頭のじいさんもそうじゃない。そういうコレクションは見当たらんからな。だからわかるんだ。わかるからこそ、わかるんだ。わかるか?」
『わかんねーよ』
「まあとにかくだな、兵頭は、彰子ちゃんブラをどこかに飾ってるに違いない!」
『はー……いーけど。つか、どこかってどこよ』
「ああそうだな、じいさんだから、仏壇……は、無いな、兵頭の死んだかみさんに失礼だ」
『何言ってんだか』
「となれば、考えられるのはあとひとつ! それは、神棚だ!」
 ババーン! 決まった! と半分は思った。が、もう半分はそうでもなかった。自分で言っておいてなんだが、半信半疑だった。
『ほんとかよ。そっちだって罰当たりすぎでしょ』
「神様だって好きなんじゃないのか?」
『あたしに訊くなって。はー……じゃー見てみなよ、神棚』
「あった」
『まじかよ。ほんとだ。あった』
 兵頭の寝室は洋間だったが、ぐるりと天井際の壁を見回してみると、はたして神棚が一つ設けてあり、そこには彰子ブラと思しき黒い物体が置いてあった。いや、神秘的なあの形、男には畏れ多いあの質感。それは間違いなく、彰子のブラジャーだった。
「本当に神棚に祀ってるとはな……」
『男ってバカなの?』
「言ったろ? わかるって。俺にはわかってた」
『ほんとーにバカだね』
「よし、いただくとするか」
『早くしてー』
 一応、二拝二拍手してから、彰子のブラをいただいた。最後の一拝も忘れなかった。いざ手にしてみると、意外な厚みがあった。なるほど、これが噂の極盛りの秘密か。俺はまず匂いを嗅いだ。
「んー……ふー……」
『何してん』
「うん、毛糸洗いに自信が持てそうなこの匂い、間違いなく彰子のものだ」
『変態』
 続いて俺はリュックを下ろし、彰子ブラに袖を通して(袖だと?)みる。
『何してん』
「極盛りぐあいの確認だ。盛れないブラなら、彰子のものではない。そこも確認する必要がある」
 自分でも何を言っているのかわからないが、カップ部分をまずあてがう。背面でホックを留めようとするも、全然届かない。それもそうか。自慢になるが、俺は身長のわりに胸囲がかなりあるんだ。
『もーいーから早くしてー。ALS○K来ちゃう』
「ううむ、こう暗いままじゃよくわからないな……」
 パチッ。
 そう思ったちょうどその瞬間、部屋がパッと明るくなった。誰かが明かりのスイッチを入れてくれたようだ。いいタイミングだ。
「おっ、サンキュー」
「おい誰だお前! 何をしてやがる!」
 ようやく用心棒のお出ましだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...