腹ペコ海香のひとりぼっち料理帖

黒猫

文字の大きさ
上 下
7 / 15
2品目 ハードボイルドゆで卵と基本のラーメンパスタ

腹ペコ海香のお料理教室

しおりを挟む
『料理の初手は、お湯を沸かすこと』

「そうなの?」
「え、いや、ま、そうじゃない時もあるけど……」

 ワンルームマンションの狭ーいキッチンに二人立つのは、やっぱりちょっと窮屈です。でもここは心を鬼にして、お姉ちゃんに料理のいろはを教え込みます!
 自己流ですけど。
 あと、うちはマンションじゃなくてアパートですけど。

「今日はまず、お姉ちゃんにゆで卵を作ってもらうね?」
「おお、ゆで卵! とっても難しそう! 大丈夫かしら?」
「難しいってことは無いよ……大丈夫、大丈夫! ま、コツは色々あるけど。でも、うーんそうだね、お姉ちゃん、クッキングタイマーは持ってる?」
「…………」

 お姉ちゃん、フリーズしちゃいました。
 こんなところで固まられても……困っちゃいます。

「あのね、お姉ちゃん、その目の前に貼っつけてあるやつだよ。時間を計るの。茹で時間とか……茹で時間とか?」
「ああこれね! 知ってるわ! 持ってません!」
「百均ので十分だから買おうね。じゃ、簡単に説明するね?」
「はいよろこんでー!」

「……まずは、お鍋にたまごを入れまして。そうしたら、水を被るくらい、じゃーっと。あ、お姉ちゃん、たまご割りそうだから先に水入れたほうがいいかも」
「失礼ね!」

 ちなみに、たまごはちょっと古くなっちゃったのを使うほうが、殻が剥きやすいのでいいです。わたしは、冷蔵庫のたまごの残りが三つとか四つになったらゆで卵にしちゃって、新しいのを買ってくるようにしてます。

「火にかけまして、菜箸でたまごをぐるぐる回します」
「それはどうして? どうしてぐるぐるするの?」
「黄身がね、真ん中で固まるんだよ」
「ふーん」

 たまごを水から茹でるのは、殻が割れちゃわないようにです。べつに割れても大丈夫なんですけど、白身がにょろんと出ちゃうのあんまり見たくないので……。
 ぐるぐるは、真ん中黄身にこだわらなければやらなくていいです。わたしも普段はやりません。でも、せっかくですから、ね?

「ねえ海香、あと一体どれくらい、私はこれをやり続けなければならないの?」
「あ、沸騰してきたね。火、弱めていいよ。ぐるぐるももういいかな。そうそう、時間もここから計ります。タイマー、ピッて押して?」
「おお、忙しい!」

 お姉ちゃん、すっごい真剣です。なんか、いいですね、こうやって慣れないこと頑張ってる姿って。かわいいです。

「これで7分か8分くらい茹でればいいよ。10分ちょっとで固ゆでだね。ハードボイルドだよ」
「ほーん」
「その間に、色々用意するね。お姉ちゃんは、とりあえず見てて?」
「はいよろこんで……じゃないわ! おう、よろこんでー! こうね!」
「なに、それ?」
「ハードボイルド!」

 何を言ってるのかさっぱりですが、ラーメンの具を用意します。
 塩漬けメンマをざっと洗って塩を落として、さらにボウルに入れて水でもみ洗いします。何回か洗ったら、小鉢で水に浸けておきます。
 乾燥わかめも、水で戻しておきます。
 あとは……スライスのベーコンを3センチくらいで切って、もやしとほうれん草も洗っておきましょう。

「ねえ海香、これは一体、何を作ろうとしているの?」

 おっと、言ってませんでした!

「これはね、基本のラーメンパスタだよ。これ覚えると色々応用利くから選んでみました!」
「???」

 そうなんです。お料理初心者のお姉ちゃんのために、簡単に作れてバリエーションも豊富で、しかも料理の基本を押さえるのにぴったりなメニューを、今日はチョイスしました。お姉ちゃん思いの優秀な妹です!

「あ、ゆで卵、そろそろいいね。ボウルに氷水、用意してもらっていい?」
「氷水!」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんね、氷水、好きなの。なんだかわくわくしない? 氷水」
「うん……ちょっと、わかんないかな。ごめんね? お姉ちゃん」

 茹で上がったたまごをざるにあけて、ひとまずたまごと鍋に水をかけて湯気をなんとかします。視界を奪われるのは恐怖ですので。そしてたまごを氷水にインし、冷やします。急冷であればあるほどいいです。殻が剥きやすくなります。あと、半熟を狙う時なんかも、余熱で固まるのを抑えられますので、厳密な勝負をかけたい時にも効果的です。ボウルを使うと、氷の冷たいのが底に行きますので、理にかなってます。

「な、なかなかアグレッシブじゃないの!」
「次いくよ、お姉ちゃん! パスタを茹でるから、またお湯を沸かすんだ!」

 思えば愛用の電気ケトルを活用してあげればよかったですね! これは痛恨のミスです!

 ……というわけで、お湯が沸くまでの間、しばらくぼーっとします。二人でたまごを見つめます。
 あ、そうです、今のうちにお姉ちゃんにまた色々説明しましょう!

「えっとね、これからパスタ……スパゲティを茹でるんだけど、パスタはみんな、茹でる時は塩を入れるのね。入れないと入れ忘れたーってなるから!」
「ええ、肝に銘じておくわ」

 さすがお姉ちゃん、吞み込みが早いです!

「よし、じゃあお湯沸いたから、塩入れるね!」
「賛成です!」

 この塩加減も実は大事です。後で絡めるソースや具材によって、塩の量を加減します。今回はメンマがしょっぱいので、小さじ一杯くらいで十分です。
 続いて、パスタ……スパゲティを投入します。

「一人分は普通だいたいこのくらいなんだけど、わたしちょっと腹ペコだから、ちょっと多めに入れるね!」
「なるほど!」

 ここでまたいちおうタイマーを入れますが、うーん、そうですね、諸事情がありますのでこれはあくまでも目安です。
 菜箸でパスタをつんつんして、鍋の中で泳ぐようになってまた沸騰したら、なんと! 蓋をして、火から下ろしちゃいます! くれぐれもひっくり返さないよう気をつけます!
 選手交代です。フライパンをコンロに乗せて、サラダ油を引きます。
 そうです! うちのキッチンは、コンロが一口しか無いのです! 諸事情というのは、このことでした。
 なので、パスタの鍋をいったん下ろしました。これでもちゃんと茹で上がりますので、大丈夫です。お姉ちゃんは、ただ静かにわたしの動きを見守ってます。

「ベーコンともやしを炒めるんだけど、先にベーコンをじっくり炒めてから、次にもやし。軽く塩も振ってね。あ、そうだ! お姉ちゃん、たまごをお椀に移してもらっていい? もうだいぶ解けちゃってるけど、残ってる氷水も。ボウル使うから!」
「は、はい!」

 なんだかお姉ちゃん、ちょっとたじたじです。だいぶわたしの勢いに押されちゃってます。ごめんね? ここからさらにばばーっていくから!

「よし! もやしもおっけー! そしたらまた選手交代! どいたどいたー!」

 鍋をコンロに戻して、麺の状態を確認します。まだコシが強いです。なら大丈夫ですね、再び沸騰したら、ほうれん草を菜箸でつまんで湯がきます。
 ごちゃまぜ系のスパゲティなら、先に切ってフライパンでもやしベーコンと一緒に炒めるのですが、今回は別にします。ささーっと湯がいたら、ざるに移して水気を切って、まな板に横たえます。

 さて、いよいよ麺をあけます。火を止めて(これ忘れないでください!)、ざるをセットしたボウルにざざーっと出します。茹で汁も使いますのでご注意です。
 そしてプライパンをコンロに乗せ、麺をどざーっと投入し、メンマも入れちゃいます。麺が少し浸るくらいに茹で汁も加えます。混ぜます。鶏がらスープの素(顆粒)も入れて、混ぜ混ぜです。
 ここでちょっと味を見てみましょう。薄かったら、メンマの戻し汁で調整します。
 メンマの戻し汁はしょっぱいですけど、メンマの風味もたっぷりなので活用しちゃいます。でも、メンマ自体もまだけっこうしょっぱいので、全体的に薄味な感じで大丈夫です。
 おっと危ない、ごま油を入れのを忘れるとこでした。うん、いい香りです。お姉ちゃんをすっかり置いてきぼりにしちゃいました。

「これでだいたいできあがり! あ、そうだった! お姉ちゃん、ゆで卵剥いて!」
「私が? いいの?」
「いいよ! そしたら半分こしようね。ちゃんと黄身が真ん中になってるかな? どうかなー?」
「ああ! そんな楽しみがあったわね! よし、お姉ちゃんに任せなさーい!」

 ちゃんと殻を剥けるか心配です。けど、あんまり見ないでおいてあげましょう。わたしはお皿の用意をします。あとは、フライパンの中身をお皿に盛って、ゆで卵とほうれん草を切って、それとわかめをトッピングしてコショウで仕上げるだけです。

 ピンポーン

 その時突然、家のチャイムが鳴りました。
 だ、誰ですか!?



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

狐メイドは 絆されない

一花八華
キャラ文芸
たまもさん(9歳)は、狐メイドです。傾国の美女で悪女だった記憶があります。現在、魔術師のセイの元に身を寄せています。ただ…セイは、元安倍晴明という陰陽師で、たまもさんの宿敵で…。 美悪女を目指す、たまもさんとたまもさんを溺愛するセイのほのぼの日常ショートストーリーです。狐メイドは、宿敵なんかに絆されない☆ 完結に設定にしていますが、たまに更新します。 ※表紙は、mさんに塗っていただきました。柔らかな色彩!ありがとうございます!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...