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《第22章》 ― お前の気持ち、俺の気持ち、あいつの気持ち。すべてがゲームオーバー… ―

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 狂気に満ちた瞳のまま健志は信じられないような事ばかりを口にしていく。

 亮のスーツのポケットを探り、合鍵を盗んだこと。

 ついでに…否この言い方は正しくない…。最初は伊東桂の連絡先を知るために、亮の携帯を探すことが目的だったのだから…メモリーを漁って桂の番号を知ったこと…。

 そして…わざと亮に見せ付ける為に、桂を呼び出し、桂と話をした事…。

「あの、伊東桂とか言う男の方がまだ、賢いな。ちゃんと言ったぜ、俺に。自分の立場はわきまえているし、自覚もしているってな」

 言いながら肩を竦めて、呆れたような吐息を吐きながら「どんな自覚だか、わからないがね」と付け加える。
その言葉を亮は恐れともつかない怯えとともに聞いていた。

 しかし亮の脳裏に、昨夜、こころから愛し合った桂の姿が浮かんだ途端、その怯えが健志に対する激しい怒りに代わっていた。

「…くそっ!いい加減に…しろっ!!」
 どす黒い憎悪ばかりが体中に溢れかえって、亮はカッとなると大声で叫んでいた。
なぜ、こうまでされなきゃいけない!
なぜ、桂をこんな風に傷つけられなきゃいけない!
なぜ、こいつがこんなことをする資格があるんだ!!

 取りとめもなく健志を殺してやりたいほどの憎しみばかりが胸の中を渦巻いていく。脳が沸騰してしまいそうな程の怒りが全身を覆いつくして、理性を焼き尽くそうとしていく。

「お前に、俺たちの事をあれこれ言われる筋合いは無い。俺は何度も言ったはずだ。健志、お前とは終わりにするってな」

 最後通牒とばかりに亮はそれだけを早口で告げると、怒りで全身を震わせながら、健志に掴みかかろうとした。

 もう、格好つけてなんていられなかった。健志がどう言おうが関係ない。ただ、この男をこの部屋から追い出すことしか考えられなくなっていた。
健志の腕を掴もうとした瞬間、亮の視線の先に寝室の扉が飛び込んでくる。ハッとして、亮は身体を強張らせた。

― 桂…―

 寝室には桂が居て、もちろん健志の存在など知る由も無く…。
だめだ…気づかれちゃいけない…、あんな風に笑いあったのに…今、桂に出てこられたら…全部…全部…アウトだ…。

 すっと冷えた現実が亮の中に落ちてくる…。どうしたら良いのかわからず、さすがの亮も追い詰められたまま健志を見つめた。

 動揺する気持ちを隠すために、ギュッと手のひらを握り締める。

 身動ぎ一つしなくなった亮に健志がクスッと喉の奥で笑い声を立てた。

「…なるほど…。あいつがいるのか。道理で、お前間抜けな面で部屋から出てきたわけだ」

 クツクツ笑いながら、「性欲処理は終わったのか?」と付け加える。

 言われた侮辱の言葉に、亮は一瞬顔を赤く染める。それでも、どうにか怒りを押し殺すと冷静を装って口を開いた。

 とにかく、今は健志をこの部屋から出さないと…混乱したまま亮は纏まりのつかない思考の中でそれだけを考え始めていた。

「…健志…俺は…お前と別れる…。もう、お前と話をするつもりはない。俺が不誠実なのは分かってるから、どんなふうに言ってくれてもいい。だから今、すぐこの部屋から出て行ってくれ。
そうしてくれれば、俺は…お前の今回のことは…許すから…」
「許す?」

 亮の言葉に健志がピクッと肩を揺すった。煩そうに前髪をかきあげると、いっそう瞳を冷たく眇めながら亮を睨んだ。

「俺はお前に許してもらおうなんて思っちゃいない」

 険しい口調でそう言うと、今度はハハッとヒステリックな甲高い笑い声を上げた。

「…健志…いい加減にしてくれ…」

 健志の笑い声に、桂が気づきやしないかハラハラしながら亮は健志弱々しく哀願した。寝室のドアが開かないように、縋るような思いで祈りながら…。

 ケラケラと健志はひとしきり笑い続けた後、フッと口を噤んだ。健志の発する暗い怒りのオーラに半ば圧倒されながら、亮は健志の次の言葉をなすすべも無く待ち続けていた。
 
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