〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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《第22章》 ― お前の気持ち、俺の気持ち、あいつの気持ち。すべてがゲームオーバー… ―

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 全身が総毛立つような恐怖…そんなものが本当に存在するとは、今、この瞬間まで亮は思ってもいなかった。

「…ぁ…お…お前…な…ん……?」

 背筋にゾッとするような悪寒が走りぬけるのを感じながら、信じられない思いで亮は目の前に悠然と立つ男を擬視していた。舌の根が凍りついたように、上手く言葉を発する事が出来ない。

 心臓がばくばくと早鐘のように鳴り始め、ゾッとする嫌悪が思考を侵してしくのをどうすることも出来ないまま、亮は身じろぎ一つ出来ずに呆然と立ち尽くした。

 目の前の男…健志はフフッと、楽しげに笑うと呆然としたままの亮を馬鹿にするような目つきで見つめた。

「何で、ここにいるのかって?…そうだな、ここはお前の部屋だ…」

 亮の疑問をそのまま引き継いで言うと、健志は楽しげにぐるりと部屋を見渡した。

「初めて…だな…。この部屋に入るのは。ふふっ…案外綺麗にしてるんだな。…これもあいつのお陰か?」

 健志の揶揄交じりの「あいつ」という言葉に亮はビクッと肩を震わせた。

― しっかりしろ… —

 亮は最初のショックから、どうにか立ち直ると、険しい表情で健志を見つめた。

「お前、いつから住居侵入が趣味になったんだ?」

 少しでも、健志が怯むようにと祈りながら亮は皮肉るように言う。

「いや…そんな趣味は俺には無いね」

 不敵に唇の端を歪めるような冷淡な微笑を浮かべて、健志も亮を見返した。

「お前が今やっていることは、そうだろ?いつからストーカーまがいの事をするようになったんだ?」

 ストーカーか…。亮のその言葉にまた健志がクスクスと笑った。

「ストーカーとはね。面白いな」

 クスクスと耳障りな声で笑い続ける健志に、亮はカッとすると健志の肩を掴んだ。

「御託は真っ平だ!!!どうやって、この部屋に入ったんだ!!言え!!」

 相変わらずクツクツと嫌な笑い声を立てながら、健志は自分を掴む亮の腕にちらりと視線を落とした。凶悪なほどの力が篭ったそれを、健志はつかんで押し退けると

「もちろん、鍵を開けて入ったさ」

 意地の悪い響きを唇の端に含ませたまま、亮を馬鹿にした表情で見つめながらサラリと言う。

「俺はお前の恋人だろ?お前の部屋に入る権利はあると思うけどね」

 ことさら皮肉めかして健志はそう言うと、すっと亮の目の前に手をかざした。

「…お前…それ…」

 健志の手からぶら下がる、「それ」を眼にした途端亮はショックで身体を強張らせた。恐怖を通り越してフツフツと怒りがこみ上げてくる。

「どうして…それをお前が持っているんだ?」

 低く唸るように亮はその問いを絞り出した。怒りとショックで身体がブルブルと震えてしまう。

-それ…桂の為に作ったこの部屋の鍵。

 やるせない桂の拒絶にあって…それでも処分する事が出来なかった…。自分の気持ちと一緒に渡せる日が来ることを願いながら、ずっと持ち歩いていた…この部屋の合い鍵。

「どうして、お前がそれを持っているんだ?!」

 声を荒げる亮をあっさり無視すると、健志はわざと亮の怒りを煽るように手にしていた鍵を床に放り捨てた。

― カチャン… ―

 乾いた音が、緊張に満ちた二人の間に耳障りに響く。
健志はクッと唇を歪めて薄笑いを浮かべると、馬鹿にしたような笑みのまま亮を見つめながら口を開いた。

「ホントにお前は腑抜けだな。大事なモノをスーツのポケットに入れっぱなしにしておく。ご丁寧に暗証番号のメモまで付けてさ」

 相変わらず、亮を軽蔑するような笑いを浮かべて、おまけに、と健志は言葉を継いだ。

「おまけに、そのスーツを椅子の背に掛けたまま席を立つんだからな」

危機管理がなっちゃいない、クッと不快な笑い声を滲ませながら、健志は言った。

「お…まえ…。俺のスーツを探った…のか…?」

 信じられなかった。一度は愛していたと信じていた男が泥棒まがいの行為までしたことが。
亮の言葉に、健志が表情を強ばらせた。

「お前が、そう言いたいのなら、言えば良いさ」

 言外に、そうさせたのはお前だ…と滲ませて、健志は亮を責めるように冷たい瞳で睨め付けた。
自分が桂を愛した事が、健志をこうまで狂わせてしまった事に亮はゾッとしながら呆然と目の前の恋人を見つめ続けていた。
 
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