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《第22章》 ― お前の気持ち、俺の気持ち、あいつの気持ち。すべてがゲームオーバー… ―
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しおりを挟む意識を手放して、深く眠っている桂の身体を亮は優しく撫でていく。
桂の寝顔を見つめながら、自然笑みが零れてしまうのを止める事が出来ない。
― 好き…好きだ… ―
やっと桂から告げられた…桂の気持ち…。
その言葉を聞いた瞬間、天にも昇るような幸福感が自分の身体を包み込んでいた。
好き…桂の一言がこんなにも幸せにさせるとは思ってもいなかった。
溢れるような愛しさが胸中を満杯にして息が詰まっていくかのような錯覚を覚えさせる。
でも、その感覚すらも愛しみたい衝動に駆られていく自分に亮は驚いていた。
その言葉を聞いてしまってからは、もう止めようがなかった。しゃにむに桂の身体を大きく開かせ、貪るように繋がってしまっていた。
甘い喘ぎを零すのを耳にしながら何度も桂を果てさせ、そして自分も桂の熱い内に激しく欲望を放っていた。
貪欲に身体を絡めあって、渾身の力を込めて抱きしめて、一つに身体も気持ちも融けあって…本当に心の底から愛し合ったのだと、思える。
「…桂…愛してる…」
額にキスを落としながら、亮は眠っている桂の耳元に囁きかける。もうじき、この言葉を正々堂々と桂に告げる事が出来るのだと思うと、それもまた亮の幸福感を募らせていた。
亮は身体を起こし、サイドテーブルに置いた水を飲みながら、桂と付き合い始めてから、今までの出来事に想いを馳せる。
自分が申し出た取引…恋人ごっこと言う無神経なお遊び。何度も後悔した…契約関係。
― 健志さんの帰国まで…10ヶ月ですね…。―
自分で告げた言葉、自分で作り上げたルールに後悔した。
― 唇へのキスはしないで…。―
桂の唯一の願いが呪縛となって、自分を苦しめた。
何度も唇を貪りたい衝動に駆られて、その欲望を押し殺すことが難しくなってきて…。眠れないまま桂の唇を指で柔らかく愛撫する夜が続いた。
― この休暇は健志さんのものだろ!―
桂を傷つけるばかりだった夏の休暇…健志の存在を俺に突きつけるお前の言葉が胸に痛かった…。
― 俺の身体に飽きたのか?―
自分を貶めることばかり言う桂…罪悪感に胸が震えた…。
― リナだよ…。高校からのクラスメイトだ…。―
リナの存在に怯えた日々…。何度も、リナが桂の恋人かもしれないと思う気持ちを否定した…。
― もう…俺達…やめようよ…。―
全てを放棄して終わりを願った桂の言葉…その言葉に魂が引き裂かれそうな程ショックを受けた…。
― 健志さんが…帰国するって…。―
傷ついた色を顕にして、終わりを意識していた桂…。お前の華奢な様がたまらなく切なかった…。
― 山本は健志さんの事だけを考えれば良いんだ…。―
いつまでも健志を優先し続けるお前の態度…それが俺を不安にさせた…。
でも…
亮はそこまで考えて、水を一気に呷ると、傍らの桂の頬に手をやった。
― 好き…好きだ…。―
やっと聞くことの出来た桂の心の声。それが今までの苛立ちも焦りも怯えも…不安も何もかもを消してくれた。
その言葉が二人の未来を開く鍵のような気がして、気持ちを穏やかにさせてくれる。
亮は優しい笑顔を零しながら桂を見つめる。自分に背を向けて横向きで眠り込んでいる桂の横顔を覗き込むと、ふわりと柔らかく桂の頬から肩にかけて指を滑らせた。
桂が、ん…と吐息を零すのに笑みをまた零すと、ベッドに身体を滑り込ませる。
桂の背中をしっかりと自分の胸の中に引き寄せる。しっくりと納まった桂の身体を拘束するように、桂の腹の前で手のひらを握り締めると、散々朱を散らした桂の項に顔を埋めた。
「もう時期だから…。桂…」
桂の項に唇を触れさせながら、切なく囁く。
「やっと…俺たち始められるから…」
亮は幸せを感じて顔を綻ばせた。自然と浮かんでしまう笑みを、もう止めることもせず、桂の身体の甘い香りを吸い込みながら、亮も甘やかされた眠りの中に意識を沈めていく。
夜の帳が寝室に満ち、久しぶりに優しい眠りが亮へ訪れていた。
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