〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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≪第15章≫ —身体の中がお前を求めて熱くさざめく。それが恋なんだ…って俺はやっと気付いた…—

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 秋の気配がグッと色濃くなる中、亮の仕事は1年で一番の繁忙期を迎えつつあった。
広い会場を所狭しと歩き回り、お得意様に一通りの挨拶を済ますと亮はスタッフルームに引っ込んだ。タイを心持緩めながら椅子に座り込む。

 先に休憩に入っていた社員達が口々にお疲れ様です、と亮に声を掛けて行く中、若手の一人に手渡されたコーヒーを啜りながら、亮は今日の来客達の顔ぶれと、話の中から覗え見えたビジネスチャンスに考えを耽らせていた。

 秋一番のイベント…上得意を招待しての新作アイテムの展示会…今回も盛況だったな、と亮は来客者と話した内容を思い出して一人ほそく笑んだ。

 話しをした内の何人かは、ジュリオがデザインした食器をいたく気に入り、ぜひ自分の事業で扱いたいと言ってきたのだ。
特にフランス料理界でも一目置かれる、若手シェフが独立して店を構える際にぜひ自分の店でジュリオの食器を使いたいと正式にオファーしてきた。

 ジュリオのデザインの凄い所はこう言う所だな…と亮は改めて舌を巻いた。
イタリア人で、イタリア料理を一応ベースに考えながらも、フランス料理で利用したいと考えさせるだけの繊細さや魅力をジュリオのデザインは持っている。

 さっきの話しを今週中には条件面で詰める、そしてイタリアの工房で生産に入るとなると、来週早々にはイタリアだな…と亮はそこまで考えて眉根を寄せた。

 イタリアに出張すれば1週間は帰って来られない。当然ながらその間桂に逢う事は出来ない…。
それが嫌なのは当たり前で。
亮は憂鬱に顔をさらに顰めて髪の毛を掻き毟った。

 桂の仕事の忙しい時期は終ったらしく、夜も家で仕事の準備や勉強をしているらしい事は亮にも分かった。それは桂が時々話す中で話題にされたりとか、後は亮には不本意だったがジュリオの話しから推測できていた。

…それなのに…亮は溜息を吐く。

 今度は自分が1年で一番の繁忙期を迎えてしまっている。忙しいのを通り越して、自分の時間なんか夢のまた夢状態。朝早くから打ち合わせに荷物の通関、自ら検品や納品までこなしていく。

 その合間に外商で外回りをして歩き、新しい依頼が入れば話を纏めて、また商品の選定に発注に通関に…とやる事は留まる所をしらない。

 新オープンした旗艦店も順調で、商品の入れ替えサイクルが早まる為に勢い亮の負担も増えていた。

 空いた時間は役員の一人として経営状況の報告を会議で行い、若手のスタッフの士気を高める為に飲みにも連れていく。

 ここ1ヶ月満足に桂との時間を取ることが出来ないでいた。逢えたのは片手で足りて余るほど…。

 腹正しい事に、その代わりにといっては、ジュリオが桂をたびたび食事に連れ出しているようだった。もちろん、ジュリオは「やましい所などアリマセン」と言ってはいるのだが…。

 なんで、桂はジュリオと出掛けるんだ…?ジュリオから話しを聞くたびに亮は居た堪れなくなり、当然焼もちをやいていた。

 自分が逢おうと桂に言っても、桂は無理しないで…の一点張りで、亮の仕事が詰まっていると分かると、決して逢おうとはしなかった。
それだって亮のやり切れない想いに拍車を掛ける。

 桂は俺に逢いたくないのだろうか…俺と一緒にいるのは嫌なのか…それとも…ジュリオと過ごす方が楽しいのだろうか…。

 何度も何度も繰り返し感じた不安が胸を覆い尽くして、苦しくて堪らなくなる。

 この息詰まるような苦しさから、早く抜け出してしまいたい…早く確かなモノが欲しい…亮は身勝手にそう願う自分に気付いて苦笑する。

「専務、インテリアコーディネーターの……氏がお目に掛かりたいそうですけど…。」

 自分を呼ぶ声に亮は物思いから自分を引戻す。

「悪い、誰だって?」

 亮は冷えたコーヒーカップをテーブルに置くと立ち上がった。タイを締めなおし、スーツの皺を気にしながら部下に訊ねる。

「………さんです。新作の何点かを取材用にお借りになりたいそうです」

 亮は頭を仕事用に切り替えると、引き締まった顔付きで自分を呼ぶ部下を振り返った。

「わかった。今行く。3番ブースにお通ししておけ」

 言い置くと、亮はキビキビとした動きでスタッフルームを後にした。
 
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