48 / 101
≪第15章≫ —身体の中がお前を求めて熱くさざめく。それが恋なんだ…って俺はやっと気付いた…—
1
しおりを挟む
秋の気配がグッと色濃くなる中、亮の仕事は1年で一番の繁忙期を迎えつつあった。
広い会場を所狭しと歩き回り、お得意様に一通りの挨拶を済ますと亮はスタッフルームに引っ込んだ。タイを心持緩めながら椅子に座り込む。
先に休憩に入っていた社員達が口々にお疲れ様です、と亮に声を掛けて行く中、若手の一人に手渡されたコーヒーを啜りながら、亮は今日の来客達の顔ぶれと、話の中から覗え見えたビジネスチャンスに考えを耽らせていた。
秋一番のイベント…上得意を招待しての新作アイテムの展示会…今回も盛況だったな、と亮は来客者と話した内容を思い出して一人ほそく笑んだ。
話しをした内の何人かは、ジュリオがデザインした食器をいたく気に入り、ぜひ自分の事業で扱いたいと言ってきたのだ。
特にフランス料理界でも一目置かれる、若手シェフが独立して店を構える際にぜひ自分の店でジュリオの食器を使いたいと正式にオファーしてきた。
ジュリオのデザインの凄い所はこう言う所だな…と亮は改めて舌を巻いた。
イタリア人で、イタリア料理を一応ベースに考えながらも、フランス料理で利用したいと考えさせるだけの繊細さや魅力をジュリオのデザインは持っている。
さっきの話しを今週中には条件面で詰める、そしてイタリアの工房で生産に入るとなると、来週早々にはイタリアだな…と亮はそこまで考えて眉根を寄せた。
イタリアに出張すれば1週間は帰って来られない。当然ながらその間桂に逢う事は出来ない…。
それが嫌なのは当たり前で。
亮は憂鬱に顔をさらに顰めて髪の毛を掻き毟った。
桂の仕事の忙しい時期は終ったらしく、夜も家で仕事の準備や勉強をしているらしい事は亮にも分かった。それは桂が時々話す中で話題にされたりとか、後は亮には不本意だったがジュリオの話しから推測できていた。
…それなのに…亮は溜息を吐く。
今度は自分が1年で一番の繁忙期を迎えてしまっている。忙しいのを通り越して、自分の時間なんか夢のまた夢状態。朝早くから打ち合わせに荷物の通関、自ら検品や納品までこなしていく。
その合間に外商で外回りをして歩き、新しい依頼が入れば話を纏めて、また商品の選定に発注に通関に…とやる事は留まる所をしらない。
新オープンした旗艦店も順調で、商品の入れ替えサイクルが早まる為に勢い亮の負担も増えていた。
空いた時間は役員の一人として経営状況の報告を会議で行い、若手のスタッフの士気を高める為に飲みにも連れていく。
ここ1ヶ月満足に桂との時間を取ることが出来ないでいた。逢えたのは片手で足りて余るほど…。
腹正しい事に、その代わりにといっては、ジュリオが桂をたびたび食事に連れ出しているようだった。もちろん、ジュリオは「やましい所などアリマセン」と言ってはいるのだが…。
なんで、桂はジュリオと出掛けるんだ…?ジュリオから話しを聞くたびに亮は居た堪れなくなり、当然焼もちをやいていた。
自分が逢おうと桂に言っても、桂は無理しないで…の一点張りで、亮の仕事が詰まっていると分かると、決して逢おうとはしなかった。
それだって亮のやり切れない想いに拍車を掛ける。
桂は俺に逢いたくないのだろうか…俺と一緒にいるのは嫌なのか…それとも…ジュリオと過ごす方が楽しいのだろうか…。
何度も何度も繰り返し感じた不安が胸を覆い尽くして、苦しくて堪らなくなる。
この息詰まるような苦しさから、早く抜け出してしまいたい…早く確かなモノが欲しい…亮は身勝手にそう願う自分に気付いて苦笑する。
「専務、インテリアコーディネーターの……氏がお目に掛かりたいそうですけど…。」
自分を呼ぶ声に亮は物思いから自分を引戻す。
「悪い、誰だって?」
亮は冷えたコーヒーカップをテーブルに置くと立ち上がった。タイを締めなおし、スーツの皺を気にしながら部下に訊ねる。
「………さんです。新作の何点かを取材用にお借りになりたいそうです」
亮は頭を仕事用に切り替えると、引き締まった顔付きで自分を呼ぶ部下を振り返った。
「わかった。今行く。3番ブースにお通ししておけ」
言い置くと、亮はキビキビとした動きでスタッフルームを後にした。
広い会場を所狭しと歩き回り、お得意様に一通りの挨拶を済ますと亮はスタッフルームに引っ込んだ。タイを心持緩めながら椅子に座り込む。
先に休憩に入っていた社員達が口々にお疲れ様です、と亮に声を掛けて行く中、若手の一人に手渡されたコーヒーを啜りながら、亮は今日の来客達の顔ぶれと、話の中から覗え見えたビジネスチャンスに考えを耽らせていた。
秋一番のイベント…上得意を招待しての新作アイテムの展示会…今回も盛況だったな、と亮は来客者と話した内容を思い出して一人ほそく笑んだ。
話しをした内の何人かは、ジュリオがデザインした食器をいたく気に入り、ぜひ自分の事業で扱いたいと言ってきたのだ。
特にフランス料理界でも一目置かれる、若手シェフが独立して店を構える際にぜひ自分の店でジュリオの食器を使いたいと正式にオファーしてきた。
ジュリオのデザインの凄い所はこう言う所だな…と亮は改めて舌を巻いた。
イタリア人で、イタリア料理を一応ベースに考えながらも、フランス料理で利用したいと考えさせるだけの繊細さや魅力をジュリオのデザインは持っている。
さっきの話しを今週中には条件面で詰める、そしてイタリアの工房で生産に入るとなると、来週早々にはイタリアだな…と亮はそこまで考えて眉根を寄せた。
イタリアに出張すれば1週間は帰って来られない。当然ながらその間桂に逢う事は出来ない…。
それが嫌なのは当たり前で。
亮は憂鬱に顔をさらに顰めて髪の毛を掻き毟った。
桂の仕事の忙しい時期は終ったらしく、夜も家で仕事の準備や勉強をしているらしい事は亮にも分かった。それは桂が時々話す中で話題にされたりとか、後は亮には不本意だったがジュリオの話しから推測できていた。
…それなのに…亮は溜息を吐く。
今度は自分が1年で一番の繁忙期を迎えてしまっている。忙しいのを通り越して、自分の時間なんか夢のまた夢状態。朝早くから打ち合わせに荷物の通関、自ら検品や納品までこなしていく。
その合間に外商で外回りをして歩き、新しい依頼が入れば話を纏めて、また商品の選定に発注に通関に…とやる事は留まる所をしらない。
新オープンした旗艦店も順調で、商品の入れ替えサイクルが早まる為に勢い亮の負担も増えていた。
空いた時間は役員の一人として経営状況の報告を会議で行い、若手のスタッフの士気を高める為に飲みにも連れていく。
ここ1ヶ月満足に桂との時間を取ることが出来ないでいた。逢えたのは片手で足りて余るほど…。
腹正しい事に、その代わりにといっては、ジュリオが桂をたびたび食事に連れ出しているようだった。もちろん、ジュリオは「やましい所などアリマセン」と言ってはいるのだが…。
なんで、桂はジュリオと出掛けるんだ…?ジュリオから話しを聞くたびに亮は居た堪れなくなり、当然焼もちをやいていた。
自分が逢おうと桂に言っても、桂は無理しないで…の一点張りで、亮の仕事が詰まっていると分かると、決して逢おうとはしなかった。
それだって亮のやり切れない想いに拍車を掛ける。
桂は俺に逢いたくないのだろうか…俺と一緒にいるのは嫌なのか…それとも…ジュリオと過ごす方が楽しいのだろうか…。
何度も何度も繰り返し感じた不安が胸を覆い尽くして、苦しくて堪らなくなる。
この息詰まるような苦しさから、早く抜け出してしまいたい…早く確かなモノが欲しい…亮は身勝手にそう願う自分に気付いて苦笑する。
「専務、インテリアコーディネーターの……氏がお目に掛かりたいそうですけど…。」
自分を呼ぶ声に亮は物思いから自分を引戻す。
「悪い、誰だって?」
亮は冷えたコーヒーカップをテーブルに置くと立ち上がった。タイを締めなおし、スーツの皺を気にしながら部下に訊ねる。
「………さんです。新作の何点かを取材用にお借りになりたいそうです」
亮は頭を仕事用に切り替えると、引き締まった顔付きで自分を呼ぶ部下を振り返った。
「わかった。今行く。3番ブースにお通ししておけ」
言い置くと、亮はキビキビとした動きでスタッフルームを後にした。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる