〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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《第13章》―お前を抱かない…それが、俺がお前に示せる唯一の想い…―

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 自分の言葉に桂がビクッと肩を震わせて、怯えるように瞳を揺らした。
その態度に亮の気持はやるせなくなる。桂が何を考えているのか、今では手に取るようにわかるようになっていた。恐らく桂は自分が別れ話を切り出すのだと桂は思っている。

 くそっと亮は胸の中で呟いた。

 どうしてこんなシチュエーションで別れ話が出来ると桂は思うんだ…?
桂に押しつけた自分の身体はみっともないぐらい桂を求めて熱く疼き出している。
そして密着させた腰は熱く昂ぶってさえいるのに。

 これで別れ話が出来る奴がいたら俺がお目に掛かりたいさ。

「話しって…ニューヨークに行く時に言っていた奴?」

 亮の内心の葛藤とはよそに、桂が不安そうに亮を見つめて訊ねた。その問いに亮がグッと詰まる。

―帰国したら…話しがある—

 確かにそう桂に言っていた。
あの時は、健志と別れられるから、帰国したらすぐに桂に告白しよう…そう決めていたから…。

 でも…健志と別れられていない今は何も言う事は出来ない。

「いや…あれとは違う。あれは…今はいいんだ…」

 情けないと思いつつも、煮え切らない言い方になってしまう。
桂の戸惑う表情を宥めるように抱き寄せると、亮はずっと考え続けていたその決意を口にした。

 桂の耳元に唇を寄せて、ショックを与えないように慎重に言葉を選びながら告げる。

「しばらく…俺…桂を抱かない…。いいか?」
「え…?どう言う事…?」

 亮の言葉に驚いたように桂が体を起こしかけた。自分の胸の中から逃げ出してしまいそうな桂の動きを、亮は強引に押さえ込むと、もう1度桂の体をソファに押しつけて抱きしめる。

 桂の体がショックで震えているのが抱きしめた腕越しに伝わってきて、亮はいたたまれなくなる。

 それでも決めていた…。
今の自分が、桂に出来る事は何か…示せる気持は何か…考え続けた末の結論だった。

 桂が大事だから…セックス・フレンドなんかじゃない…体だけの関係じゃないんだ…。

 お前が好きなんだ…口にする事が出来ない想い…それを全て桂に分からせたくて思いついた事だった。

 最初、この事を思いついた時、余りにもプラトニックな初心な考えで、我ながら笑ってしまっていた。
こんな子供じみた考えを自分がするとは思わなかったのだ。

 でも考えれば考えるほど、桂に自分の気持を分かってもらうには、この方法しかない…とまで思うようになっていた。

「契約関係」で唇へのキスを封じた桂…。

 それなら自分は「契約関係」でセックスを禁じようと思った…。

 愛しているから愛し合いたい。体も心も重ねあって、肌の熱さと愛していると言う気持を通わせあって…一つになりたい…そんな風に桂と抱き合いたい…。

 その想いで亮は桂に告げていた。
でもそんな想い、今の状態の桂に理解できるはずもなく、ただ不安に体を震わせるばかり。ショックで涙声になりながら桂が必死で亮の胸に縋った。

「どうして…?俺の体に飽きたのか?…セックス無しじゃ…契約終了って…事?」

「契約終了」と聞いて、亮の心臓がぎゅっと素手で鷲掴みにされたような衝撃を受ける。桂が自分と終りにする事を考え続けている事がどうしようもなくショックだった。

 たまらず、きつく抱きしめると落ち着かせるように桂の体を優しく撫でながら、こめかみに口づける。
桂のしっとりとした肌の感触にキスを止める事が出来ず、そのまま唇を首筋まで滑らせていくと、言い聞かせるように違うと、呟いた。

「違う…。契約なんて言うな…。桂の体が心配なんだ。俺の所為で無理させているかもしれない…。それに…」

 言いかけて、亮は色々と考えていたプランを思い出してパッと表情を輝かせた。桂に優しい笑みを見せながら言葉を継ぐ。

「セックスだけじゃないだろ…。俺と桂付き合っているんだから…。他にする事色々あるだろ…?」

 亮の言葉が理解出来ないといった感じで桂が戸惑いながら亮を見つめる。それでもおずおずと亮の背中に腕を回して亮を抱き返す。

 今はなにも桂は理解できていない…でも良いんだ。と亮は桂の体温を感じながら思う。

 時間を掛けてゆっくりと桂の心の拗れを解いていこう。
桂が俺の気持を理解できるように…、信じられるように…。

 恋人としての時間を今まで以上に過ごして行けば、絶対桂も気付くはず…。
そして、その間に健志と決着をつけるんだ…。

 不安がる桂をしっかりと抱きしめながら、亮は決意を新たにしていた。
 
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