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《第13章》―お前を抱かない…それが、俺がお前に示せる唯一の想い…―
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しおりを挟む最近苛々しながら時を過ごす事が多い自分に亮は気付いていた。
桂が傍にいないだけで時間が過ぎるのがひどくゆっくり感じられ、そして全てが無為に感じられるようになっていた。
こんなに最悪な夏の休暇は始めてだな…そう一人ごちると亮はオフィスの窓から横浜市の風景をぼんやりと眺めた。
残りの休みを桂の傍で過ごす希望は砕かれて、趣味もない亮にできることといったら夏休で人気のないオフィスで細々した仕事を片付けることぐらいだった。
―この休暇は健志さんの物だろ!―
泣きそうな顔でそう言った桂の顔が思い出されて、胸がジクジクと痛みを訴える。ふぅと重い溜息を吐きながら亮は煙草に火を点けながらもう一度窓の外に目をやる。
カップルに人気のある横浜の夜景を見渡しながら、初めて桂とデートをした頃の事を思い出した。
―夜景がとても綺麗なんで…見惚れちゃいました—
無邪気な笑顔で車窓を流れる風景を夢中で見ていた桂…。あんな風な笑顔…最近ぜんぜん見せなくなったな…。
自己嫌悪ばかりが胸の中に渦巻いていく。
俺のせいか…。
亮は桂の事を考えながら腹立ちを自分にぶつける。最悪なこの状況をどうしたら良いのか分からない…。
健志とはまだ別れていない。
もし、このまま健志を無視して、桂と付き合い続ければ健志は確実に桂に怒りの矛先を向けるだろう…。
ニューヨークで健志が激昂した口調で桂をいたぶるような事を言ったのを思い出す。
…あいつはやる…絶対…。
桂をメチャクチャにする事なんて朝飯前だ…。
亮は健志の意志の強さやプライドの高さを知っていた。
「そんな事絶対…させない。させるもんか…」
健志の気性の激しさを思い出して、亮は低く呻くように呟くと、亮はスマートフォンを手に取り健志宛にメッセージを送る。
健志に今すぐ会ったとしても、結果は同じだろう。だったら距離を置いて気持をわかってもらうしかない。
亮はもう1度自分の気持を整理しながら文章を綴っていく。
少しでも健志が自分の気持をわかってくれるように願いながら、生まれて始めて亮は正直に気持を吐露していった。
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