〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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《第12章》—お前がいない不安、お前を傷つける苦しみ、それでも手放さないのは・・・全て俺のエゴだ—

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 ジュリオは少し大袈裟過ぎるんだ。車を飛ばしながら、亮はそう思うことで、自分の中の騒ぐ不安を押し殺す。

 桂だって大人の男だ。同僚と酒を飲みに行ったりする事もあれば、友人と外出する事だってあるだろう…。

 そこまで考えて亮は、ニューヨークで健志が言った言葉を思い出した。

―勤務先における人間関係は良好の模様。誰に聞いても、真面目で優しくて人を思いやる好青年との評判―

 そう…桂だったら、人気があるだろう…あんなに優しいのだから…。

 渋々亮は、気に入らなかったが桂に友人も多いだろうと考える。だから、今日だって友達と出かけているんだ…そう自分を納得させる。

 それに、桂に関して言えば、スマートフォンはちっとも役に立たないのだ。亮は過去の苦々しい経験から学んだその教訓を思い出す。

 最近になって気付いたのだが、桂はマメに携帯をチェックすると言う事はしない。掛かってくれば、電話に出るが、それ以外は放りっぱなしと言う事も多い。充電切れなんて言う事もしばしばだった。

 だから、桂と連絡を取りたければ、桂の部屋に行くことが手っ取りばやいと亮は考えていた。

 今日だって、ジュリオは桂のスマートフォンに連絡をしていた。
桂の携帯が、充電切れだったら…それで問題はないはず。

 それに…と亮は思いながらふっとまた笑みを零した。さっきのジュリオの言葉を思い出したのだ。

―リョーがニューヨークに行ってから沈み込んで見えました—

 俺が居なくて少しは寂しがってくれたのだろうか…?
そう思うと、なんだか嬉しくなってくる。

 なかなか通いあわす事の出来ないお互いの気持ち。桂の気持が見えなくて…自分を好きなはず…そうは思っても自信など無いから…不安になる…。

 だから、自分がいなくて寂しがってくれたのだったら…すごく嬉しかった…。
そんな些細な桂の反応だけで、桂が自分を愛していてくれていると…自信を持つことが出きる。

 逢ったら…抱きしめてやらないと…。
亮は優しい感情が溢れるのに胸を温かくしながら、夜の街を桂の元へと車を走らせて行った。





 
 不機嫌な表情を崩さず、二人は向かいあって座っていた。
ジュリオは目の前の親友の明らかにイライラした様子に閉口して、知らない振りを決め込むと、次回手がける食器のデザインに専念していた。

 亮はと言えば、睡眠不足の為に真っ赤に充血した目でなぜか時計を睨みつけていた。

―昨夜…
帰国してすぐに桂の部屋を訪れた亮を待っていたのは、真っ暗な部屋だけだった。
そこに点いている筈の灯りは無く、当然部屋の住人もいなかった。

 部屋の前に車を停めて、数時間余り…桂の帰りを亮は待ち続けたが、とうとう桂は帰ってこなかった。

 諦めて、明け方マンションに戻ったが、桂の事が気になってとうとう亮は眠る事が出来ないでいた。

 無駄と思っても、桂が聞いてくれることを願って、メッセージを入れた。それに、今日もずっと連絡をいれつづけた。でも…桂からの連絡は来ない…。

 一体…どこにいるんだ…?
 亮はイライラと考えつづける。

 遊びなら、幾等なんでも明け方には帰ってくるだろう…。
それなのに戻らないのは、どっかに泊っているのか…?

 どこに…?誰と…泊っているんだ…?
誰か…男と…泊っているのか?
それとも…あの…「りな」っていう女と泊っているのだろうか…?

 嫌な想像ばかりが働いて…そして見ず知らずの想像上の男や、ずっと記憶の中に棘のように刺さっている「りな」という名前に亮は怒りを覚え、おまけに桂に対して憤りすら感じ始めていた。


…要するに焼もちを焼いているってことですね…。
 不機嫌な友人を観察しつつ、ジュリオはクスクスと胸の中で笑う。これが百戦錬磨の恋愛の達人とは思えなかったのだ。

「何が面白いんだ?ジュリオ。」

 亮が見咎めて、ジュリオを睨む。自分が揶揄かいの対象になっている事を敏感に察したのだ。

「いいえ。何も…」

 ヒョイっと亮の視線に肩を竦めて答えると、ジュリオはまたデザイン画のスケッチに専念し始める。そんな友人に視線をやりながら、亮はまたイライラした様子で時計を睨みつける。

 時間が過ぎるのが遅いような、もどかしい苛立ちだけが募っていく。
もう夕刻だと言うのに桂からの連絡は無い。

 行方の知れない桂…桂の事が心配で、もしかしたら自分に愛想を尽かして、他に男を見つけてしまったのかもしれないという事も不安で…どうしたら良いのか分からなかった。
マンションにもう1度行って見ようかとも思うが、また居なかったらと思うと、それも怖かった。

 亮は桂の事になると、どうして自分がこうも臆病になってしまうのか…と怯える自分に驚いてもいた。

「リョー、夕食に行きましょう」

 自分を誘うジュリオの声に、亮はハッとする。顔をジュリオに向けると、自分を心配そうにひたと見つめるジュリオの視線とぶつかった。

…ああ、心配掛けているな…俺は…。

 何も言わなくても、自分を心配してくれているジュリオの気持を感じて、亮は申し訳無い気持になっていた。時計をチラッと眺める。

 このまま、イライラと時が過ぎるのを待っていても仕方が無い。亮はそう決めて、立ちあがるとジュリオに微笑みかけた。

「そうだな。俺も腹が空いた…。なんか食いに行こう」

 一瞬桂の笑顔と桂お得意の手料理が脳裏を過ぎって、なんだか泣きたい気分になりながら、亮はジュリオに答えていた。
 
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