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《第12章》—お前がいない不安、お前を傷つける苦しみ、それでも手放さないのは・・・全て俺のエゴだ—
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ジュリオの言葉に亮はブルッと体を震わせた。
ニューヨークから帰国した亮を待っていたのはジュリオだった。
日本にいる間は好きに使って良いと、亮はジュリオに部屋の鍵を…桂が拒絶した…鍵を預けていた。
ジュリオは日本にいる間は、亮が手配した代官山のマンションで生活している。
そこはいかにもアーティストが好みそうな、瀟洒なマンションでアトリエとして使える部屋も整っていた。
ジュリオはその部屋を気に入ってはいたが、来日する度に亮のマンションで過ごしていた所為もあってか、ゆっくり寛ぎたい時などは亮が居ても居なくても亮の部屋を訪ねていたのだ。
今回も、亮がニューヨークに行く間、部屋を使わせろとジュリオがせがんできたので亮は快くジュリオに部屋を使うことを許していた。
もともと亮は自分のプライベートな空間に他人をいれる事が好きではなかった。自分の何もかもを見られてしまうようで嫌だったのだ。
この部屋に入る事を許したのは、学生の頃からイタリアと日本を行き来していたジュリオと…そして桂ぐらいだった。健志すら部屋に入れた事は無かったのだ…。
「どう言う事だよ。ジュリオ?」
亮は荷物を乱暴に寝室に放り込むと、不機嫌そうにどさっとソファに座り込んでジュリオに問い質した。
ジュリオはカプチーノを作ってやると、亮の前に置いてやりながら亮の不機嫌そうな顔を眺めた。
亮は健志の事を何も言わなかったが…恐らくこの表情では…とジュリオは考えを廻らせると肩を竦めた。疲れきったような亮の表情。
長年の付き合いの中でも亮が初めて見せる表情だった。ジュリオは何だか亮が気の毒になってしまっていた。
その上…亮にとって、最悪なこの知らせ。
ジュリオはジッと亮を見つめた。
いつも何事にも自信に満ちた親友が、一番お得意な恋愛沙汰でこんなに不器用な様を見せているのが、とても信じられなかった。
ジュリオの知っている亮の恋愛はいつもスマートで都会的だったのだ。ローマやミラノで恋に慣れたイタリア男性や女性を、イタリア語で口説く様を見る度にジュリオは亮の恋愛の手管に驚嘆していたのだから。
…それだけ、カツラに本気って事ですかね…。
自分もカプチーノを啜りながらジュリオはそう考えていた。
「どう言う事だよ。ジュリオ?」
亮は何も言わない親友に、辛抱強く問いただした。
― カツラがいないんです—
自分を玄関で出迎えるなり、ジュリオが口にしたその言葉。聞いた途端背筋が凍るような恐怖が体を走りぬけた。ジュリオは困ったように、ヒョイとまた肩を竦めた。
「分からないのです」
淡々と答えるジュリオに亮はイライラと話を急かした。状況が全く見えて来ない。帰国してすぐにでも桂と会おうと思っていた。その思いを挫くようなジュリオの言葉だった。
「昨日の午前中、私はカツラと勉強しました。カツラ元気ありませんでした」
言いながら亮をジュリオは責める様に見つめる。その冷ややかな視線に耐えながら亮は、それで?と続きを促した。
「昨日は金曜日です。勉強終ってからカツラをランチに誘いましたが、カツラ大学に行かなければならないからと言って、帰りました。気になったので、夕方電話しましたが、電話に出ませんでした」
ジュリオは心持、心配そうな表情を見せ始める。それに釣られて亮の胸も騒ぎ出していた。
「で…今日は電話したのか?」
亮はジュリオに訪ねる。
「SI。何度もしました。でも、今日も一度もカツラ電話に出ませんでした」
ジュリオの答えに亮は分かったと答えると、付け加えた。
「心配するな。どこか…遊びにでも行ってんだろ。大丈夫だよ。ジュリオが心配するほどの事でもない…」
亮の言葉にジュリオは怒ったような表情を見せた。亮に指先を突き付けると
「NO!リョー。リョーちっとも分かっていないです。カツラ、元気ありません。それに気持不安定です。リョーがニューヨークに行ってから、とても…エー…そう!沈んで見えました。私は心配です」
ジュリオの激した口調に、亮がフッと笑みを零した。ジュリオがそれを見咎める。
「何がおかしいですか?カツラが居ないのに、こんな時に笑うなんて不謹慎です。リョー」
リョーは優しい笑みを、苦笑に変えるとジュリオを見つめた。
「いや…何でも無い。桂の事は分かったから、俺に任せろ。今から…俺桂の所に行ってくるから」
心配するなともう1度、心配顔のジュリオに告げると、亮は戻ったばかりの部屋を後にした。
ニューヨークから帰国した亮を待っていたのはジュリオだった。
日本にいる間は好きに使って良いと、亮はジュリオに部屋の鍵を…桂が拒絶した…鍵を預けていた。
ジュリオは日本にいる間は、亮が手配した代官山のマンションで生活している。
そこはいかにもアーティストが好みそうな、瀟洒なマンションでアトリエとして使える部屋も整っていた。
ジュリオはその部屋を気に入ってはいたが、来日する度に亮のマンションで過ごしていた所為もあってか、ゆっくり寛ぎたい時などは亮が居ても居なくても亮の部屋を訪ねていたのだ。
今回も、亮がニューヨークに行く間、部屋を使わせろとジュリオがせがんできたので亮は快くジュリオに部屋を使うことを許していた。
もともと亮は自分のプライベートな空間に他人をいれる事が好きではなかった。自分の何もかもを見られてしまうようで嫌だったのだ。
この部屋に入る事を許したのは、学生の頃からイタリアと日本を行き来していたジュリオと…そして桂ぐらいだった。健志すら部屋に入れた事は無かったのだ…。
「どう言う事だよ。ジュリオ?」
亮は荷物を乱暴に寝室に放り込むと、不機嫌そうにどさっとソファに座り込んでジュリオに問い質した。
ジュリオはカプチーノを作ってやると、亮の前に置いてやりながら亮の不機嫌そうな顔を眺めた。
亮は健志の事を何も言わなかったが…恐らくこの表情では…とジュリオは考えを廻らせると肩を竦めた。疲れきったような亮の表情。
長年の付き合いの中でも亮が初めて見せる表情だった。ジュリオは何だか亮が気の毒になってしまっていた。
その上…亮にとって、最悪なこの知らせ。
ジュリオはジッと亮を見つめた。
いつも何事にも自信に満ちた親友が、一番お得意な恋愛沙汰でこんなに不器用な様を見せているのが、とても信じられなかった。
ジュリオの知っている亮の恋愛はいつもスマートで都会的だったのだ。ローマやミラノで恋に慣れたイタリア男性や女性を、イタリア語で口説く様を見る度にジュリオは亮の恋愛の手管に驚嘆していたのだから。
…それだけ、カツラに本気って事ですかね…。
自分もカプチーノを啜りながらジュリオはそう考えていた。
「どう言う事だよ。ジュリオ?」
亮は何も言わない親友に、辛抱強く問いただした。
― カツラがいないんです—
自分を玄関で出迎えるなり、ジュリオが口にしたその言葉。聞いた途端背筋が凍るような恐怖が体を走りぬけた。ジュリオは困ったように、ヒョイとまた肩を竦めた。
「分からないのです」
淡々と答えるジュリオに亮はイライラと話を急かした。状況が全く見えて来ない。帰国してすぐにでも桂と会おうと思っていた。その思いを挫くようなジュリオの言葉だった。
「昨日の午前中、私はカツラと勉強しました。カツラ元気ありませんでした」
言いながら亮をジュリオは責める様に見つめる。その冷ややかな視線に耐えながら亮は、それで?と続きを促した。
「昨日は金曜日です。勉強終ってからカツラをランチに誘いましたが、カツラ大学に行かなければならないからと言って、帰りました。気になったので、夕方電話しましたが、電話に出ませんでした」
ジュリオは心持、心配そうな表情を見せ始める。それに釣られて亮の胸も騒ぎ出していた。
「で…今日は電話したのか?」
亮はジュリオに訪ねる。
「SI。何度もしました。でも、今日も一度もカツラ電話に出ませんでした」
ジュリオの答えに亮は分かったと答えると、付け加えた。
「心配するな。どこか…遊びにでも行ってんだろ。大丈夫だよ。ジュリオが心配するほどの事でもない…」
亮の言葉にジュリオは怒ったような表情を見せた。亮に指先を突き付けると
「NO!リョー。リョーちっとも分かっていないです。カツラ、元気ありません。それに気持不安定です。リョーがニューヨークに行ってから、とても…エー…そう!沈んで見えました。私は心配です」
ジュリオの激した口調に、亮がフッと笑みを零した。ジュリオがそれを見咎める。
「何がおかしいですか?カツラが居ないのに、こんな時に笑うなんて不謹慎です。リョー」
リョーは優しい笑みを、苦笑に変えるとジュリオを見つめた。
「いや…何でも無い。桂の事は分かったから、俺に任せろ。今から…俺桂の所に行ってくるから」
心配するなともう1度、心配顔のジュリオに告げると、亮は戻ったばかりの部屋を後にした。
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