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《第11章》―自分の気持、お前の気持、そして…恋人の気持…全てに疎かった…愚かな俺…―
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それまでバカにしたように亮を見つめていた健志が、鋭い眼差しで亮を射抜くように見つめた。殆ど感情を表す事のない抑揚のない声音で亮に問い掛ける。
「お前は簡単だよ。『日本で新しい恋人が出来ました。その人を愛しています。生まれて初めてなんです。こんな風に誰かが愛しいのは。』そう言えばいいだけだもんな」
健志は内心の揺れを押し隠すように、それまで手にしたままだったワインを口に含んだ。亮は膝の上で両手をぐっと握り合わせると、一瞬言葉を捜すように宙を睨んだ。
健志はそんな亮を冷たい瞳で見据えたまま、ゆっくり口を開いた。
「俺の気持はどうなる?亮…。俺の気持はどうなるんだよ!俺は、確かに仕事を選んでニューヨークに来た。でも…お前だって了解していたはずだ。ずっと…一緒にいたい…なんて戯言、俺達の間にはなかったさ。それでも…俺達は愛し合っていただろ」
そう…それが自分と健志の関係だった…。
ずっと一緒にいたいなんてありえない…。
それこそ、ドライでライトなお手軽な関係だった。
亮は考えを誤った事に気づき始めていた。ドライでライトな関係だから、別れるのも簡単…そんな甘い計算があった。健志だったらあっさり別れてくれるだろう…そうも思っていたのだ。
それが今目の前にいる健志は怒りで顔を歪め、絶対に別れないと言い張っている…。そして桂に対して憎悪さえ感じさせる言葉の数々…。
「お前の気持ってなんなんだよ?」
亮はやっと口を開いた。頭の中が混乱してしまい、考えがまとまらない。自分の気持にやっと気付いたばかりだと言うのに…健志の気持なんて今の亮には分かるはずもなかった。
健志がクッと喉の奥で皮肉な笑い声を立てた。耳障りなその音に亮は眉根を寄せた。
「やっぱりお前は自分勝手な奴だよ、亮。そんな事聞くなんて…。俺の気持…俺の気持…」
健志はぐっとワインを飲み干すと、がたんとグラスを乱暴に机に叩きつける。
「お前を愛している…に…決まっているだろ!亮!そんなこと聞くなよ!分かれよ!お前を愛しているから…お前を愛しているから…」
健志はソファから腰を上げると、亮の襟元を掴んだ。怒りで瞳をぎらぎら光らせながら亮を睨みつける。
「お前を愛しているから、お前と付き合った!お前を愛しているから、お前に抱かれた!お前を愛しているから…お前の好みに合わせた…!このスーツだってお前の好きなブランドだ!この鞄だって…!この香水だって!…何もかも!」
亮は力なく頭を振りながら、健志の怒りを受けとめる。健志は乱暴に亮を押しやると、怒りで顔を歪ませたまま息荒く亮を睨んだ。怒りで震える声で健志は亮に最後通牒を突き付ける。
「俺は絶対お前と別れたりしない。あの日本語教師に対する意地とかじゃない。お前を愛しているからだ…。この話しはもう終りだ。亮」
壊れてしまった、否、自分が身勝手に壊したものに縋ろうとする健志に、亮は深い絶望を覚えはじめていた。
「お前は簡単だよ。『日本で新しい恋人が出来ました。その人を愛しています。生まれて初めてなんです。こんな風に誰かが愛しいのは。』そう言えばいいだけだもんな」
健志は内心の揺れを押し隠すように、それまで手にしたままだったワインを口に含んだ。亮は膝の上で両手をぐっと握り合わせると、一瞬言葉を捜すように宙を睨んだ。
健志はそんな亮を冷たい瞳で見据えたまま、ゆっくり口を開いた。
「俺の気持はどうなる?亮…。俺の気持はどうなるんだよ!俺は、確かに仕事を選んでニューヨークに来た。でも…お前だって了解していたはずだ。ずっと…一緒にいたい…なんて戯言、俺達の間にはなかったさ。それでも…俺達は愛し合っていただろ」
そう…それが自分と健志の関係だった…。
ずっと一緒にいたいなんてありえない…。
それこそ、ドライでライトなお手軽な関係だった。
亮は考えを誤った事に気づき始めていた。ドライでライトな関係だから、別れるのも簡単…そんな甘い計算があった。健志だったらあっさり別れてくれるだろう…そうも思っていたのだ。
それが今目の前にいる健志は怒りで顔を歪め、絶対に別れないと言い張っている…。そして桂に対して憎悪さえ感じさせる言葉の数々…。
「お前の気持ってなんなんだよ?」
亮はやっと口を開いた。頭の中が混乱してしまい、考えがまとまらない。自分の気持にやっと気付いたばかりだと言うのに…健志の気持なんて今の亮には分かるはずもなかった。
健志がクッと喉の奥で皮肉な笑い声を立てた。耳障りなその音に亮は眉根を寄せた。
「やっぱりお前は自分勝手な奴だよ、亮。そんな事聞くなんて…。俺の気持…俺の気持…」
健志はぐっとワインを飲み干すと、がたんとグラスを乱暴に机に叩きつける。
「お前を愛している…に…決まっているだろ!亮!そんなこと聞くなよ!分かれよ!お前を愛しているから…お前を愛しているから…」
健志はソファから腰を上げると、亮の襟元を掴んだ。怒りで瞳をぎらぎら光らせながら亮を睨みつける。
「お前を愛しているから、お前と付き合った!お前を愛しているから、お前に抱かれた!お前を愛しているから…お前の好みに合わせた…!このスーツだってお前の好きなブランドだ!この鞄だって…!この香水だって!…何もかも!」
亮は力なく頭を振りながら、健志の怒りを受けとめる。健志は乱暴に亮を押しやると、怒りで顔を歪ませたまま息荒く亮を睨んだ。怒りで震える声で健志は亮に最後通牒を突き付ける。
「俺は絶対お前と別れたりしない。あの日本語教師に対する意地とかじゃない。お前を愛しているからだ…。この話しはもう終りだ。亮」
壊れてしまった、否、自分が身勝手に壊したものに縋ろうとする健志に、亮は深い絶望を覚えはじめていた。
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