上 下
34 / 101
《第11章》―自分の気持、お前の気持、そして…恋人の気持…全てに疎かった…愚かな俺…―

2

しおりを挟む
 それまでバカにしたように亮を見つめていた健志が、鋭い眼差しで亮を射抜くように見つめた。殆ど感情を表す事のない抑揚のない声音で亮に問い掛ける。

「お前は簡単だよ。『日本で新しい恋人が出来ました。その人を愛しています。生まれて初めてなんです。こんな風に誰かが愛しいのは。』そう言えばいいだけだもんな」

 健志は内心の揺れを押し隠すように、それまで手にしたままだったワインを口に含んだ。亮は膝の上で両手をぐっと握り合わせると、一瞬言葉を捜すように宙を睨んだ。

 健志はそんな亮を冷たい瞳で見据えたまま、ゆっくり口を開いた。

「俺の気持はどうなる?亮…。俺の気持はどうなるんだよ!俺は、確かに仕事を選んでニューヨークに来た。でも…お前だって了解していたはずだ。ずっと…一緒にいたい…なんて戯言、俺達の間にはなかったさ。それでも…俺達は愛し合っていただろ」

 そう…それが自分と健志の関係だった…。
ずっと一緒にいたいなんてありえない…。

 それこそ、ドライでライトなお手軽な関係だった。

 亮は考えを誤った事に気づき始めていた。ドライでライトな関係だから、別れるのも簡単…そんな甘い計算があった。健志だったらあっさり別れてくれるだろう…そうも思っていたのだ。

 それが今目の前にいる健志は怒りで顔を歪め、絶対に別れないと言い張っている…。そして桂に対して憎悪さえ感じさせる言葉の数々…。

「お前の気持ってなんなんだよ?」

 亮はやっと口を開いた。頭の中が混乱してしまい、考えがまとまらない。自分の気持にやっと気付いたばかりだと言うのに…健志の気持なんて今の亮には分かるはずもなかった。

 健志がクッと喉の奥で皮肉な笑い声を立てた。耳障りなその音に亮は眉根を寄せた。

「やっぱりお前は自分勝手な奴だよ、亮。そんな事聞くなんて…。俺の気持…俺の気持…」

 健志はぐっとワインを飲み干すと、がたんとグラスを乱暴に机に叩きつける。

「お前を愛している…に…決まっているだろ!亮!そんなこと聞くなよ!分かれよ!お前を愛しているから…お前を愛しているから…」

 健志はソファから腰を上げると、亮の襟元を掴んだ。怒りで瞳をぎらぎら光らせながら亮を睨みつける。

「お前を愛しているから、お前と付き合った!お前を愛しているから、お前に抱かれた!お前を愛しているから…お前の好みに合わせた…!このスーツだってお前の好きなブランドだ!この鞄だって…!この香水だって!…何もかも!」

 亮は力なく頭を振りながら、健志の怒りを受けとめる。健志は乱暴に亮を押しやると、怒りで顔を歪ませたまま息荒く亮を睨んだ。怒りで震える声で健志は亮に最後通牒を突き付ける。

「俺は絶対お前と別れたりしない。あの日本語教師に対する意地とかじゃない。お前を愛しているからだ…。この話しはもう終りだ。亮」

 壊れてしまった、否、自分が身勝手に壊したものに縋ろうとする健志に、亮は深い絶望を覚えはじめていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

淫乱エリートは今日も男たちに愛される

おさかな
BL
【全編エロあり】通勤電車でも社内でも取引先でも、いつでもアナル受け入れ準備万端!爽やか系イケメンエリートは男達へのご奉仕も優秀です! +++ 完結済み DLsiteにておまけつき電子版販売中

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

パン屋の僕の勘違い【完】

おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。

処理中です...