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《第10章》—何もかもが思惑とはずれていく、それも自分が犯した罪のせいか—
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「亮!逢いたかった!!」
健志は明るい弾んだ声で亮を出迎えた。亮の泊るホテルに一足先に健志は来て亮を待っていたのだ。
自分を抱きしめようとする健志から、亮はさりげなく身体を交わして健志の抱擁から逃げる。
もう健志と抱き合う事は冗談でも出来なかった…。健志に触れられた途端にゾワっとするような嫌悪感に襲われた自分に亮は驚いていた。
「突然で悪かったな」
一応挨拶らしき言葉を口にすると亮はソファに腰掛けながら、健志を眺めた。
整った怜悧な面立ち。いつも男を誘う切れ長の瞳に情熱的にくちづける薄い唇。男にしては長い睫がその瞳を縁取っている。
フィンランド人の血が4分の1入っているせいか、人目を引く透けるように白い肌。
相変わらず綺麗だな…初めて会った人間に対して抱く印象のようにただそう思うが、桂と逢う時のように胸が躍る事も愛しさが溢れるような感情も湧いてはこない。
1年もの間、肌を重ねた相手だと言うのに、なんの感慨も亮の胸に湧いてはこない。余りにも露骨な自分に亮は驚いていた。
仮にも健志を1度は本当に愛していたと思っていた時期もあったはずなのに、今健志を前にしても健志に対する感情は冷えていくばかり…。
亮の様子がいつもと違う事に気づいたのか、それまではしゃいだようだった健志の顔から笑顔が消えた。
「何…?どうしたんだ、亮?疲れているのか?」
気遣うように優しい言葉を掛ける健志の口調に、亮がハッと我に返った。
「あぁ悪い。いや…大丈夫だ…。実は、健志…」
一呼吸置いて、亮は健志を見つめた。今までに感じた事のない緊張で喉がカラカラに渇いていた。
たくさんの恋愛遊戯を重ねてきた。別れ話だってお手の物…だった…。
だけど今日だけは違う。亮は生まれて初めて感じる不安に怯えていた。
健志と上手く別れないと…桂との未来がない。これからする話しの重要さだけは理解できていた。亮は必至で強張りそうになる舌を動かして、やっとその言葉を押し出していた。
「俺と…別れて欲しい…」
美しい恋人の面差しがさっと青褪めるのを見つめながら亮は審判が降るのを、固唾を飲んで待っていた。
健志は明るい弾んだ声で亮を出迎えた。亮の泊るホテルに一足先に健志は来て亮を待っていたのだ。
自分を抱きしめようとする健志から、亮はさりげなく身体を交わして健志の抱擁から逃げる。
もう健志と抱き合う事は冗談でも出来なかった…。健志に触れられた途端にゾワっとするような嫌悪感に襲われた自分に亮は驚いていた。
「突然で悪かったな」
一応挨拶らしき言葉を口にすると亮はソファに腰掛けながら、健志を眺めた。
整った怜悧な面立ち。いつも男を誘う切れ長の瞳に情熱的にくちづける薄い唇。男にしては長い睫がその瞳を縁取っている。
フィンランド人の血が4分の1入っているせいか、人目を引く透けるように白い肌。
相変わらず綺麗だな…初めて会った人間に対して抱く印象のようにただそう思うが、桂と逢う時のように胸が躍る事も愛しさが溢れるような感情も湧いてはこない。
1年もの間、肌を重ねた相手だと言うのに、なんの感慨も亮の胸に湧いてはこない。余りにも露骨な自分に亮は驚いていた。
仮にも健志を1度は本当に愛していたと思っていた時期もあったはずなのに、今健志を前にしても健志に対する感情は冷えていくばかり…。
亮の様子がいつもと違う事に気づいたのか、それまではしゃいだようだった健志の顔から笑顔が消えた。
「何…?どうしたんだ、亮?疲れているのか?」
気遣うように優しい言葉を掛ける健志の口調に、亮がハッと我に返った。
「あぁ悪い。いや…大丈夫だ…。実は、健志…」
一呼吸置いて、亮は健志を見つめた。今までに感じた事のない緊張で喉がカラカラに渇いていた。
たくさんの恋愛遊戯を重ねてきた。別れ話だってお手の物…だった…。
だけど今日だけは違う。亮は生まれて初めて感じる不安に怯えていた。
健志と上手く別れないと…桂との未来がない。これからする話しの重要さだけは理解できていた。亮は必至で強張りそうになる舌を動かして、やっとその言葉を押し出していた。
「俺と…別れて欲しい…」
美しい恋人の面差しがさっと青褪めるのを見つめながら亮は審判が降るのを、固唾を飲んで待っていた。
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