〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

文字の大きさ
上 下
30 / 101
《第10章》—何もかもが思惑とはずれていく、それも自分が犯した罪のせいか—

1

しおりを挟む
「亮!逢いたかった!!」

 健志は明るい弾んだ声で亮を出迎えた。亮の泊るホテルに一足先に健志は来て亮を待っていたのだ。

 自分を抱きしめようとする健志から、亮はさりげなく身体を交わして健志の抱擁から逃げる。

 もう健志と抱き合う事は冗談でも出来なかった…。健志に触れられた途端にゾワっとするような嫌悪感に襲われた自分に亮は驚いていた。

「突然で悪かったな」

 一応挨拶らしき言葉を口にすると亮はソファに腰掛けながら、健志を眺めた。

 整った怜悧な面立ち。いつも男を誘う切れ長の瞳に情熱的にくちづける薄い唇。男にしては長い睫がその瞳を縁取っている。
フィンランド人の血が4分の1入っているせいか、人目を引く透けるように白い肌。

 相変わらず綺麗だな…初めて会った人間に対して抱く印象のようにただそう思うが、桂と逢う時のように胸が躍る事も愛しさが溢れるような感情も湧いてはこない。

 1年もの間、肌を重ねた相手だと言うのに、なんの感慨も亮の胸に湧いてはこない。余りにも露骨な自分に亮は驚いていた。

 仮にも健志を1度は本当に愛していたと思っていた時期もあったはずなのに、今健志を前にしても健志に対する感情は冷えていくばかり…。

 亮の様子がいつもと違う事に気づいたのか、それまではしゃいだようだった健志の顔から笑顔が消えた。

「何…?どうしたんだ、亮?疲れているのか?」

 気遣うように優しい言葉を掛ける健志の口調に、亮がハッと我に返った。

「あぁ悪い。いや…大丈夫だ…。実は、健志…」

 一呼吸置いて、亮は健志を見つめた。今までに感じた事のない緊張で喉がカラカラに渇いていた。

 たくさんの恋愛遊戯を重ねてきた。別れ話だってお手の物…だった…。
だけど今日だけは違う。亮は生まれて初めて感じる不安に怯えていた。

 健志と上手く別れないと…桂との未来がない。これからする話しの重要さだけは理解できていた。亮は必至で強張りそうになる舌を動かして、やっとその言葉を押し出していた。 

「俺と…別れて欲しい…」

 美しい恋人の面差しがさっと青褪めるのを見つめながら亮は審判が降るのを、固唾を飲んで待っていた。
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

the sun in the moon

BL
あまり人に興味をもたないサラリーマンと、人生を諦めた喫茶店のオーナーの少し、大人な、お話、

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...