〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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《第9章》―お前を手放さない為に…抱きしめる為に、俺は行くんだ―

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 ジュリオの反応は意外に冷ややかだった。亮の話しを聞き終えて、何かを考えるように空中を睨んだ。
「なんか言えよ。」
 反応を示さないジュリオに焦れて亮は語気鋭くジュリオを促した。
健志と別れる…だから桂に手を出すな。そうジュリオに告げた後だった。亮の言葉にジュリオはフッと微笑むと
「分かりました。」
 と返した。あっさりしたジュリオの答えに亮は拍子抜けしたようなポカンとした表情を浮かべると「ホントに分かったのかよ?」と念を押した。疑いに満ちた顔で自分を見る亮の顔にジュリオは苦笑を浮かべると肩を竦めて見せると答えた。
「SI.分かりました。リョーの気持は。リョーが桂を好きなら…私はカツラを…。」
 言いながら、手元の辞書をぱらぱら捲った。目当ての単語が見つかるとニッコリ笑って
「カツラを諦めます。」
 ジュリオの言葉に亮はホッと胸をなでおろした。これ以上、厄介ごとを抱え込むのは真っ平だったのだ。明らかに安心したような亮の顔つきにジュリオが呆れたように見つめた。
「ホントにカツラを大事にしますか?リョー。」
 ジュリオの言葉に、亮が当たり前だと怒って返した。桂しか大事なものなんてない…。
「でも…カツラ…。リョーが愛している人、タケシだと思っています。カツラの気持…難しくなっています。」
 人間観察に優れたジュリオ。短期間で桂の不安定な気持を見抜いている事に亮は心の中で舌を巻きながら答えた。
「ああ。分かっている。でも…俺は桂が好きだ。健志とはきっぱり別れる。健志と終りにしないと、桂と…始める事が出来ないんだ。」
 真摯な口調の亮にジュリオは驚いたように、心持片眉を上げた。ふぅっと息を吐き出すと、少し責める様に亮を眺めて言った。
「なぜ、こんな…」
 言いながらまた、辞書を捲る。そのジュリオの動作を亮は苛々しながら眺めた。ジュリオの言いたい事など分かっていた。
「おい、いちいち辞書引くなよ。お前の言いたいのは、馬鹿げた事を始めたのかって事だろ。」
「そうです!なぜこんな愚かな事始めたのですか?カツラに対してひどいです。」
 また、辞書を捲ると、ジュリオは責めるように続けた。
「リョー。二股掛けるのはサイテ―です。イタリアでは許しません。こんな事。」
 ジュリオの言葉に、亮は憮然とわかっているさ、と返した。
分かっている…二股かけるより、これは性質が悪い…。桂は健志の存在を知っていて、自分の立場を決めている。二股なら、自分に愛情があると信じる事が出来る。でも、自分達は遊びの関係で、桂は俺の中に桂に対する愛が在るなんて…さらさら信じていない…。それが問題なんだ…。
「ジュリオ…お前の考えは全部正しいさ。俺が悪いのも分かっている。ただ…。」
 言いかけて言いよどんだ言葉を、ジュリオは厳しい眼差しで続きを促した。
「ただ…なんですか?リョー。」 
 亮は渋々自分の過ちを認めて、言葉にした。
「ただ、最初は桂に本気になるなんて思わなかった…。お遊びのつもりで、桂もOKしていたんだ。」
 言ってしまってから後悔する。聞き苦しい言い訳にしか過ぎないのは分かっていた。ジュリオは厳しい一瞥を亮にくれると、また辞書を括った。
「おい…なんだよ?」
 ジュリオの様子に亮は嫌そうな表情を見せた。亮の質問を冷ややかに無視するとジュリオは辞書を忙しなく捲る。ひとしきり、静かな室内にジュリオが事典を捲るパラパラと言う紙の音が響いた。
「おぉ…有りました。」
 目当てのページを見つけると、ジュリオは亮に視線を戻した。
「リョーにピッタリの言葉見つけました。」
 なんだよ?と不機嫌さを顕に亮は顔を顰めた。
「ミイラとりがミイラになった。…ですね。貴方の浅はかな行動が皆を不幸にします。」
 何かを言い返そうと口を開きかけた亮を、指を脅すように突き付けて左右に振るとジュリオは厳しい表情で脅すように亮に告げた。
「いいですか?リョー。もしリョーがホントにタケシと別れたら私はカツラを諦めます。それがカツラのハッピーだからです。でも、これ以上リョーが曖昧でいい加減なコトをカツラにしたら、私がカツラを愛します。」
 小難しい言葉を交えて毅然とそう自分を脅すジュリオに感じる憤りを、亮は何とか押し殺すと、分かった…と答えてから、思わず弱気にポツッと呟いた。
「なんか…ぐちゃぐちゃになってるな…。」
 自分と桂、健志…そしてジュリオ…4人の関係が歪んで狂ってしまっている。ましてや自分が一番立場も分も悪い。
 ゲッソリと疲れたような表情を見せる亮を眺めると、ジュリオはまた辞書を括った。そして何かを見つけて、ニヤッと笑みを浮かべると、意地悪くトドメを刺すように亮に言った。
「リョー。自業自得です。貴方がすべて悪い。」
 
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