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《第8章》―お前の唇が欲しい…なんて遠い距離なんだろう… ―
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ジュリオと知り合って10年…。
ジュリオの事をこんなにも羨ましく、妬ましく思った事はなかった…。
桂が風呂を使う微かな水音に耳をそばだてながら、ジュリオの言葉を思い出す。
亮が執拗にジュリオのスマートフォンに「桂を返せ」と脅したお陰か…はたまたジュリオの亮に対する思いやりからか、ジュリオは食事を楽しんだだけで、いたって紳士的に桂を亮のマンションまで送り届けた。
ジュリオが桂に惚れているのは分かった…。
だからこそ、わざと自分を煽るような事を口にする。
『私、カツラのこと好きです。カツラに好きと言いました』
堂々と愛の言葉を告げるジュリオの姿。
『私はカツラと恋人になるつもりです』
一点の曇りも躊躇いもない、ジュリオの真摯な言葉。誰が聞いても本当に桂の事を大事に思っている事が分かる。
フッと亮は息を吐き出した。
「俺には…何も言う…資格なんて…」
ジュリオに言い返したかった。
桂は俺のモノだ…。桂と俺は付き合っている…と…。
でも…付き合っている事実だけで…それは「遊び」の関係で…桂もそう思っているから…。
ジュリオのように愛を誓う言葉が俺達の間に存在はしないから…。
何もかもが、狂っている俺と桂の関係…今更気付いたって、遅いのに…。
ジュリオが羨ましい…心の底から亮は親友を妬んだ。でも自分が一番いけないのもわかっている。
亮は溜息を大きく吐き出した。今の自分の心境を喩えるなら、蜘蛛の巣に落ちた羽虫さながら…。
自分が安易に始めてしまったゲームに、自分では考えもしなかったルールや感情が育ち…手におえなくなって、そして身動き取れなくなっている。
そして最悪な事に下手をすれば、桂を失いかねない危険すら孕み始めている…。
「どうしたら良いんだ…」
頼りなげに亮は呟く。
「あ…あの…」
おずおずと自分を呼ぶ桂の声に亮はゆっくり振り返った。桂の姿を見るのが怖いような気がしていた。拒絶された部屋の鍵を思い出して一瞬気持が不安で揺れる。
振り返った視線の先に、湯上りで肌を真っ赤に染めた桂の姿があった。
彼が纏っているのは…ショップで自分が桂の為に選んだパジャマ…。
この部屋に桂の持ち物が何も無いのが不満だった。桂は泊りに来る時、着替えなんかをすべて持ってきて…そして持ち帰る。この部屋に自分の物を置く事は絶対になかった。
それも桂のルールなんだ…思って諦めていたが、ジュリオにあんな風に牽制されると我慢がならなかった。
恋人だから…だから、恋人として振舞うし、桂にも振舞って欲しい…。
着替えも、歯ブラシも、タオルも、マグカップも…何もかもゲスト用なんかじゃなく、桂の物として…この部屋に置きたかった。
今までそんな事にすら、気が回らなかった自分に歯噛みしながら夢中で桂の為にパジャマを選んでいた。
桂が自分の選んだ物を身に着けてくれた…。その喜びで亮の表情が綻んだ。
「サイズは大丈夫だったか?」
照れくさそうな微笑を浮かべて桂が頷いた。
「あぁ…あの…ありがとう…」
はにかんで、頬を赤くして礼の言葉を口にする桂が愛しくて堪らなかった。気持を抑える事なんて出来ない…。
「桂…こっちこいよ」
桂を抱きしめたくて、躊躇いがちに近寄ってくる桂の体を抱き寄せた。「あ…どうしたんだ…よ…?」と戸惑うような声をあげる桂に構わず、そのまま桂の体を抱え上げて自分のひざの上に座らせると横抱きに抱きしめる。
途端ふわっと自分の使うボディソープの香りが漂ってきて、亮の鼓動がドクンと跳ねた。
―体だけじゃない—
思ってぎゅっと桂の体を抱きしめると、ゆったりと桂の体のラインを確かめるように擦っていった。
―本当に痩せた—
指先に触れる桂の体の感触に亮はショックを受ける。もともと細い体だったが、今では余分な肉がこそげ落ちてしまったように痩せてしまっている。強く抱きしめてしまえば、体が折れてしまいそうなほど…。
そんな桂の体の変化に気付かずに、自分は欲望の赴くままに桂の体を乱暴に押し開いて、責める様に抱いた。
桂の身体を気遣わず、桂の身体への負担を何も考えないまま…。辛かったはずなのに…桂はそんな自分を黙って受けいれてくれた…。
「ごめん…」
やるせない後悔ばかりが亮の胸を苛む。
「え…?何が…?」
亮の言葉に驚いたように、それまで亮の胸に身を任せていた桂が顔を上げた。自分を心配そうに除き込む桂の瞳に…亮はハッキリと自分の気持を確信していた。
ジュリオの事をこんなにも羨ましく、妬ましく思った事はなかった…。
桂が風呂を使う微かな水音に耳をそばだてながら、ジュリオの言葉を思い出す。
亮が執拗にジュリオのスマートフォンに「桂を返せ」と脅したお陰か…はたまたジュリオの亮に対する思いやりからか、ジュリオは食事を楽しんだだけで、いたって紳士的に桂を亮のマンションまで送り届けた。
ジュリオが桂に惚れているのは分かった…。
だからこそ、わざと自分を煽るような事を口にする。
『私、カツラのこと好きです。カツラに好きと言いました』
堂々と愛の言葉を告げるジュリオの姿。
『私はカツラと恋人になるつもりです』
一点の曇りも躊躇いもない、ジュリオの真摯な言葉。誰が聞いても本当に桂の事を大事に思っている事が分かる。
フッと亮は息を吐き出した。
「俺には…何も言う…資格なんて…」
ジュリオに言い返したかった。
桂は俺のモノだ…。桂と俺は付き合っている…と…。
でも…付き合っている事実だけで…それは「遊び」の関係で…桂もそう思っているから…。
ジュリオのように愛を誓う言葉が俺達の間に存在はしないから…。
何もかもが、狂っている俺と桂の関係…今更気付いたって、遅いのに…。
ジュリオが羨ましい…心の底から亮は親友を妬んだ。でも自分が一番いけないのもわかっている。
亮は溜息を大きく吐き出した。今の自分の心境を喩えるなら、蜘蛛の巣に落ちた羽虫さながら…。
自分が安易に始めてしまったゲームに、自分では考えもしなかったルールや感情が育ち…手におえなくなって、そして身動き取れなくなっている。
そして最悪な事に下手をすれば、桂を失いかねない危険すら孕み始めている…。
「どうしたら良いんだ…」
頼りなげに亮は呟く。
「あ…あの…」
おずおずと自分を呼ぶ桂の声に亮はゆっくり振り返った。桂の姿を見るのが怖いような気がしていた。拒絶された部屋の鍵を思い出して一瞬気持が不安で揺れる。
振り返った視線の先に、湯上りで肌を真っ赤に染めた桂の姿があった。
彼が纏っているのは…ショップで自分が桂の為に選んだパジャマ…。
この部屋に桂の持ち物が何も無いのが不満だった。桂は泊りに来る時、着替えなんかをすべて持ってきて…そして持ち帰る。この部屋に自分の物を置く事は絶対になかった。
それも桂のルールなんだ…思って諦めていたが、ジュリオにあんな風に牽制されると我慢がならなかった。
恋人だから…だから、恋人として振舞うし、桂にも振舞って欲しい…。
着替えも、歯ブラシも、タオルも、マグカップも…何もかもゲスト用なんかじゃなく、桂の物として…この部屋に置きたかった。
今までそんな事にすら、気が回らなかった自分に歯噛みしながら夢中で桂の為にパジャマを選んでいた。
桂が自分の選んだ物を身に着けてくれた…。その喜びで亮の表情が綻んだ。
「サイズは大丈夫だったか?」
照れくさそうな微笑を浮かべて桂が頷いた。
「あぁ…あの…ありがとう…」
はにかんで、頬を赤くして礼の言葉を口にする桂が愛しくて堪らなかった。気持を抑える事なんて出来ない…。
「桂…こっちこいよ」
桂を抱きしめたくて、躊躇いがちに近寄ってくる桂の体を抱き寄せた。「あ…どうしたんだ…よ…?」と戸惑うような声をあげる桂に構わず、そのまま桂の体を抱え上げて自分のひざの上に座らせると横抱きに抱きしめる。
途端ふわっと自分の使うボディソープの香りが漂ってきて、亮の鼓動がドクンと跳ねた。
―体だけじゃない—
思ってぎゅっと桂の体を抱きしめると、ゆったりと桂の体のラインを確かめるように擦っていった。
―本当に痩せた—
指先に触れる桂の体の感触に亮はショックを受ける。もともと細い体だったが、今では余分な肉がこそげ落ちてしまったように痩せてしまっている。強く抱きしめてしまえば、体が折れてしまいそうなほど…。
そんな桂の体の変化に気付かずに、自分は欲望の赴くままに桂の体を乱暴に押し開いて、責める様に抱いた。
桂の身体を気遣わず、桂の身体への負担を何も考えないまま…。辛かったはずなのに…桂はそんな自分を黙って受けいれてくれた…。
「ごめん…」
やるせない後悔ばかりが亮の胸を苛む。
「え…?何が…?」
亮の言葉に驚いたように、それまで亮の胸に身を任せていた桂が顔を上げた。自分を心配そうに除き込む桂の瞳に…亮はハッキリと自分の気持を確信していた。
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