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《第8章》―お前の唇が欲しい…なんて遠い距離なんだろう… ―

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 全てにおいて後手に回ってしまったことに気づく。

 亮は乱暴に車を停めると、洒落たショップへ駆け込んで行った。
店の従業員たちが慌てふためく姿を尻目に、自分が先日セレクトしたメンズ洋品の売場を目指した。

 亮が経営を手がける、イタリア雑貨のショップは横浜の海と夜景を一望する外人墓地の側にある。
いつも観光客や地元のお洒落な女性客で混み合っていた。

 従業員が知らせたのか、店長が慌てて亮を出迎える。しどろもどろと挨拶をするのを、不機嫌に遮ると亮は
「今日はプライベートだから」と告げた。その言葉に、自分が邪魔だと察した店長は、亮の普段と違う態度を心配しながらも亮の側を離れて行った。

『カツラ少し痩せて顔が…いえ顔色悪いです。カツラの身体心配です』

 不意に先程ジュリオに言われた言葉が蘇る。

「くそっ!」

 苛立ちを…自分への苛立ちと自己嫌悪を顕に亮は罵声を吐き出した。

 どうして…ジュリオに言われるまで…気がつかなかったんだろう…。
どうして…何も見えなかったんだ…?

 最近の桂…明らかに食事の量が減っていた。自分と逢って食事をしても、申し訳程度に皿を突つくだけ。
付き合いはじめた頃より…はるかに痩せて…華奢さが目立つようになっていた。

 こんな事に…気付かなかったなんて…!
自分が悪い!悪いけど…。 

 亮は、目当てのものを見つけるとレジに向かった。支払いを済ますと、店のスタッフの挨拶に一瞥くれただけでさっさと車に戻る。
乱暴に車を発進させると、自分のマンションを目指した。

 本当なら、桂とデートのはずだった。その大事な相手は、健康を理由にジュリオに連れ去られてしまっている。

 自分が桂の事に無頓着だった事を思い知らされた…それがとても情けなくて、桂がジュリオに連れ去られてしまった事が…とても不愉快で…亮はどうにもならずに、ジクジクと痛む胸を持て余しながら、桂の姿を思った。

 もう…ハッキリと…先程のジュリオの言葉で気がついてしまった。

 自分が桂とどうしたいのか…どうなりたいのか…。自分に、そんな資格が無いのもわかっている…。

 それでも、桂をジュリオに渡すなんて真っ平だった。

 早く桂を取り返す…亮はチラリと助手席に置いた、先程買った包みを眺めて思う。

 絶対にジュリオに桂を渡したりなんてしない…。

 桂は…俺のものだ…。

 亮は決意を新たにすると、少しだけ気分を明るくして、車を桂と過ごす為のマンションに走らせていた。
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