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《第7章》―俺は、ただ…恋人らしく過ごしたかっただけだ…。誰にも邪魔されずに…―
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しおりを挟む「リョーに関係はないはずです」
ジュリオは穏やかな笑みを崩さず、あっさりとそう切り返した。明らかに面白がっているのがわかって亮はイライラした。
「関係有る」
きつく睨みながら亮はジュリオに畳み掛ける。ジュリオはヒョイっと肩を竦めると、なにかを考えるように亮を眺めた。
「何が…リョーに問題なんですか?」
少し言葉の使い方が変だな、桂に直すように言ってもらわないと…思って亮は唇を歪めるような笑みを浮かべた。
ジュリオは「郷に入っては郷に従え」が座右の銘だったりする。英訳すると自分の愛するローマが使われている、このことわざがいたってお気に入りだったからだ。
当然、日本にいれば日本語しか話さない。まぁ…エライ事では有るが、こう言う繊細な事を話し合うには少々不便だった。
亮はイタリア語をネイティブ並に喋る事が出来る。だから、今日の話しも出来ればイタリア語でしたかったが、ジュリオは頑として受けつけなかった。
「俺の問題って…訳じゃ…」
もう少し違う言い方しろよ…直接的な言い方をした親友を恨めしく思いながら亮は言葉を濁した。黙ってしまった亮に焦れたようにジュリオが続けた。
「なぜ、私がカツラと一緒にデートしてはいけないのですか?カツラは言いました。私に横浜案内してくれると」
それがどうして、リョーに関係あるのですか?と怒ったようにジュリオは続けた。
それが問題なんだよ!と亮は心の中で喚いた。
そもそもの発端は、亮がジュリオに「桂と出かけるな」と言った…否釘を刺したことだった。
それが、ジュリオにはどうにも承服しかねるらしく…まぁ当然と言えば当然だがその理由をしつこく尋ねてきた。
―桂は俺の恋人だから—
そう言えれば楽なのだが…今の関係を考えるとどうにもその言葉は躊躇われて…。
亮は言葉が見つからず苛立ちをそのまま言葉に乗せてジュリオに言っていた。
「どうでも、なんでも俺に関係が有るんだよ。良いか!桂と絶対に出かけるな…。桂に手を出すなよ!」
怒って顔を赤くしながら怒鳴る亮をジュリオは唖然と見つめていたが、声を荒げた自分に気付いてバツが悪そうな顔をした亮に、ジュリオはクスクス笑い出した。
「リョー。素直じゃないですね。ちゃんと理由を言ってくれない限り…」
言いながら、楽しそうに亮を見つめる。
「私はカツラとデートします。私、とってもカツラが好きです」
可笑しそうな笑みを瞳に浮かべながらも、真面目な表情でそう告げたジュリオに今度は亮が唖然とした。
「ジュリオ…何言って…?!」
驚きで息が止まりそうだった。
桂が好き…?ジュリオが桂に惚れたのか…?
放心したような亮を、ジュリオはまたクスクス笑いながら見ると、止めを刺すように陽気に続けた。
「リョー。何を言っても無駄です。私…あのステキなセンセーが好きです。だからカツラとデートします。カツラと仲良くなったら、カツラに愛を言います。リョーはタケシと恋人です。私もリョーとタケシのようにカツラと恋人になります」
良いですね…。邪魔しないでください。
念を押すとジュリオは亮の反応を窺うようにジッと亮を見つめた。
亮は口の中がカラカラに渇いて…何も言う事が出来なかった。
…健志…また…健志かよ…。
ジュリオの口から思いも寄らず、健志の名前が出た事で亮は打ちのめされた様に立ち尽くした。
確かにジュリオに健志を紹介した事がある。健志と二人で…去年の夏休み…ローマを訪れた際…恋人だ…そう…紹介した…。
でも…でも…
亮は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
何も言う資格なんてない…言える言葉が見つからなかった。
ジュリオは幾分気の毒そうに、根が生えたように身じろぎしない亮を見つめると、亮の肩をポンと労わるように叩きながら、亮の部屋を出ようとした。部屋を出かかって、ドアの所で歩みを止めると振り返る。
「リョー…。人間何事も素直が肝心ですよ。でないと後悔する事になります」
格言めいた言葉を厳粛な表情で告げると、チャオと言いながら出て行った。
「一体…何を…どう…素直になれって言うんだよ…」
亮は呆然としたまま呟いた。誰も彼も…自分が忘れていると思い出せと言うように…健志の存在を口にする。
さっきまで…ジュリオに桂と出かけるな…そう言える事に浮き足立っていた…。
でも…リョーには関係ない…。
先ほどジュリオに言われた言葉が頭の中を駆け巡って木霊する。
健志という恋人がいる俺に何を言う資格がある…そうジュリオはハッキリと言った…。
……健志がいる俺に…桂が誰と恋愛しようと…邪魔する資格はない…。
健志が帰ってくれば俺と桂の関係は終って…桂は他の誰かと恋愛する…本気の…恋愛を…。
ごっこじゃない・・・、遊びじゃない…恋愛を。
もしかしたら、その相手はジュリオかも知れない…。その時には…桂の世界に…俺の…居場所は…ない…?
そこまで考えると、眩暈が襲ってきて、ぐらっと身体が軋むように揺れるのを感じた。
ジュリオに言い返したいのに…何も言うことの出来ない自分に気付いて亮は打ちのめされていた。
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