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《第6章》―どうして、お前の胸はこんなに温かいんだ…心地良いんだ…?俺は…この胸が一番…―
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しおりを挟む待つ事がこんなに辛いとは思わなかった…。
亮は桂がいつになったら、帰ってくるんだろうと、寂しい思いを抱えながら、今だ部屋の主が戻らない桂の部屋の玄関を眺めた。
桂の部屋の前で待ちつづける事、かれこれ3時間は経っていた。桂の部屋の、前の道路に車を駐車して、そのまま中で桂の帰りを待ちつづける。亮はそんな自分を思って、一人クスクス笑った。
「すげェ…格好悪ぃ…。俺ってダサダサじゃん」
普段自分がバカにしていた冴えない男の役回りを演じている事に、可笑しさを感じてしまう。
どうしてか、桂が絡むと自分が一番嫌う冴えない男になってしまうのを否めない。
以前の自分だったら、恋人の部屋の前であてど無く待ちつづけるなんて事しなかった…した事なかった…。
それがどうしてだか、桂の部屋の前にいるのだと思うと嬉しくなってしまう。つい2週間前まで知る事さえ許されなかった桂の部屋の前に居られる…。その事が亮を奮い立たせていた。
闇の中から人影が浮き上がり始めて、亮はドクッと心臓が激しく鳴るのを感じた。首を心持傾げながら、ゆったりとした足取りでキビキビ歩く姿…ずっと待ち焦がれていた桂の姿…。
その愛しい人影が驚いたように、ハッと一瞬歩を止めた。次の瞬間パッと自分の車を目指して走り出してくる。
躊躇いもせず、自分に向かって走り寄ってくる桂の姿に胸を温かくしながら、亮はここ2週間感じていた不安が溶け落ちていくのを感じていた。
不思議な感覚が胸に満ちて行くのを感じながら、亮は車を降りる。
慌てたように走り寄ってきた桂が堪らなく愛しかった。
自分を不安そうに見つめるその表情に、桂もまた自分と同じように不安だったんだと言うことが分かって…亮は喜びを感じていた。
今にも泣き出しそうな顔に笑みを浮かべた姿がとても不憫で…辛い思いをさせてしまったという後悔と、やっと逢えたと言う安心感と、逢いたかったという愛しさと…そのどれもが一気に溢れ出て…桂を安心させるような何かを言いたくて…でも言葉が出てこなくて…。
亮はやっと目の前に立った桂を見つめて、手を差し伸べながら、掠れた声で「よう」と呟いた。
「久し振り…」
桂が潤んだ瞳で自分を見つめてそう返す姿に、亮の体が途端に甘い疼きに侵された。
愛しくて…抱きしめたくて…欲しくて…貪りたくて…。
たまらず亮は桂の頬に優しく触れていた。桂の頬の温もりが指先から伝わってきて、やっと亮は自分が桂の側に居るのだと言う事を実感していた。
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