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《第2章》 ― 気持をもっと通わせたい…遊びの関係にそれを望むのは贅沢なのか…?―

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 どうしてか…乱暴なセックスになってしまう。

 桂を見ると無性に欲しくなって、ついでに自分の衝動を抑える事が出来なくなってしまう。

 それもいつもの自分じゃないと…亮は自覚をしていた。

 今も意識を手放して、グッタリと眠り込んでいる、桂の寝顔を見つめながら、亮はやりすぎたかな…と自己嫌悪に陥っていた。

「俺って…最低…」
思わず口に出して言う。

 こんながっつくようなセックス嫌いな筈だったのに…。
だいたい…セックスって…スポーツの一つだと思っていた。だから楽しむ。でも桂相手じゃ…まったく違う。

桂が抱かれ上手なのがいけないんだ、そう思って亮は顔を顰めた。

 こんなアライグマみたいな顔して、どうしてセックスが上手いんだ?

 こんなはずじゃなかった…何度も思った言葉を、亮は寝入った桂の額に掛かる前髪を掻き上げながら呟いて見る。 

 自分に溺れさせるはずが…自分が桂に溺れている…そんな気がする。

 しかも、最初の時に桂が亮のベッドから抜け出して勝手に自宅に帰ってしまったことがあってから、亮は桂の気配に敏感になっていた。

 自分の腕から勝手に抜け出す桂が許せなくて…それだったら意識を失わせてしまえば、自分の胸の中にずっといるだろうと言う、傍で聞くと狂人じみた理由で、亮はしつこく桂を責め立ててしまう。

 スゥ―と寝息を漏らす桂の唇に亮は指を這わせた。

 抱かれ上手な桂…。一体何人の男が…桂の身体を自由にしてきたんだろう…?そいつらは恋人の特権として、当然のように…この唇も貪ったんだろうか…?

…俺が…知らないこの唇を…。

 初めてセックスした時、亮は桂がとてもセックスに慣れた風だったのを感じて、なぜかショックを受けた事を思い出した。

 亮との奔放なセックスを恥じらいながらも楽しんでいる桂を見て…モヤモヤとした苛立ちを感じていた…。

「お前の唇って…一体誰のモノなんだよ…。」

 亮は桂の体を自分の胸に引き寄せながら、意識のない桂の耳元に囁く。

 少しだけ…寂しい気がした…。キスできない…それが、自分と桂の関係を象徴しているようで、亮は何度も感じた苛立ちを持て余す夜を過ごしていた。
 



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「くそっ…!通関書類チェックした奴はどいつなんだ?これ間違ってやがる。関割やっと取ったのに!」 

 亮は秘書から渡された書類にざっと目を通すと、小さく舌打ちした。

 横浜税関から、通関書類の不備で入港した商品の引渡しをする事は出来ないという連絡が入っていた。おまけに関税まで計算を間違っている。

―なんなんだ、月曜の朝っぱらから!―

 亮は頭の中で、仕事の出来ない部下を呪ってみる。

 今回輸入した商品はイタリアのミラノで生産した、ハンドメイドのゴブレットだ。横浜のホテルからオーダーを受けており、6月の有名な俳優の披露宴の席で使用したいとの依頼を受けた特別な商品だった。

 亮はチラッとカレンダーに目を走らせる。納期は来週…後一週間足らず。代替品は、とてもじゃないが用意する事は間に合わない。

 ましてや、ガラスに切子のような繊細なカッティングを施してある特注品でホテルから是非にと依頼された商品だった。

 1年も前から依頼されており、生産に大変な手間を掛けた一品。

 会社の威信を掛けて…いや、亮自信がミラノに飛んで商品を選定したゴブレットだから、亮のプライドに掛けても絶対に納品したいものだった。

「わかった。自分が通関手続きを全部やり直す。関係書類と資料をすべて担当者に用意させろ」

 亮は厳しい口調で秘書に命じた。ゴブレット1200個がコンテナ5ケースに治まって横浜港で待っているのだ。

 今更、納期に間に合いませんでしたなんて、クライアントのホテルに言う事なんて出来ない。

 亮は通関士の資格も持っている。大事な仕事だから、最後まで自分でやれば良かったと後悔しながら、秘書の持ってきた資料に目を通しはじめた。

 納期まで1週間。

 ハンドメイドの為、輸入がギリギリになってしまっていた事が焦りに拍車を掛ける。検品などの作業も有るため、なんとしても3日後には商品を受け取りたかった。

 慌てふためいた担当者が早口で説明するのを聞きながら、亮はパソコンに向かう。

 これでは、この通関手続きが終るまでは会社と横浜税関に缶詰になりそうな勢いだった。

…一瞬、桂の顔が脳裏に過ぎった。ふっと気持が桂に流されてしまう。

「今週…逢えないか?」

 思って、亮はその考えを否定する。

 書類を提出した夜は、桂と逢える。後は税関からの連絡待ちになるだけだから。

「大丈夫…。水曜は逢える。それに順調に検品が終れば週末も大丈夫だ」

 亮はすばやく予定を計算して、ホッと安堵の息を吐くと、仕事に没頭しはじめていた。
 
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