126 / 130
最終章 きみを死なせない
10
しおりを挟む
アレックスが盛大に仕組んだパーティは功を奏し、マダム・ウエストは目論見通りの罪状で起訴された。
その知らせに、エステルと兄のトーマス、そしてソーンディック侯爵は王宮に登城し、かつての使用人が起こした王族への暴挙に謝罪をしたが、アレックスは取り合わなかった。
エステルとトーマスはともかく、エステルから報告を受けてなお、マダム・ウエストの凶行を保身から、なんら手立てもとらなかったソーンディック侯爵の罪は大きい。
ソーンディック侯爵も真理が狙われる分には興味が無かったが、まさか王子に銃を向けるとは想像もしていなかったのだろう。
結局、彼の傲慢な偏見が自分の首を絞めたのだ。
アレックスは、謝罪は必要ないし従業員の管理不行き届きを咎めるつもりもない、と伝えた上で、ただソーンディック侯爵とは色々な点で価値観が異なるから、今後話すことはないだろう、と言ったそうだ。
文字通りの王子からの絶縁宣言に侯爵は泡を吹いて慌て、とりなしを求めたが、王子達の側近も周辺の貴族達も取り合わなかったらしい。
いくら歴史ある貴族と言えど、今の社会に沿わないのであれば意味がない、悪しきモラルは不要だ、当然だろう?とアレックスは真理にいたって真面目にそう言ったのだ。
あくまでも国民の価値観に添い公平であろうとするアレックスの姿に真理の心がときめいたのは当たり前だ。
アレックスの毎日は忙しい。
戦争後から、軍人としての責務も王族としての役割も増えたようで、側近達にぶすぶす言いながらも、着実に公務をこなしている。
真理はといえば、アレックスの私邸で過ごしながら、撮影したウクィーナ共和国属国解放への軌跡を発表し続けていた。
相変わらず内外問わず高い評価を受けているそれらに、真理は考えた末やっとタイトルをつけた。
「理由なき続けたことの罪過」と。
戦争は始めるのは簡単だが、終わらせることが、とても難しい。どの国も戦争をするための大義名分があるからだ。
それがどんなにくだらない大義であったとしても、引くことが出来ないのが人間の愚かさだと真理は思っている。
いつだって権力者は、戦争の崇高な目的を探している。サイレン将軍もそうだった。
だが、サッシブ大佐はどうだろう?
真理は彼に対する多国籍軍の取り調べの内容を注視しているが、その大義がまったく無いと思えてならない。
今回の戦争は2回、明確に終わらせるチャンスがあった。
1つ目はサイレン将軍が死亡した時。2つ目はサイレン将軍の死亡後に後釜に傀儡として据えられたイダントが敗戦を覚悟して、停戦合意を国連に申し入れた時。
サッシブ大佐はそのどちらも戦争を止めることをしなかった。戦争を続けたのだ。
止めることすら考えつかなかった・・・ただ、サイレン将軍の遺志を継いで、やり遂げなければならない、戦い続けなければならない、と思ったと話しているらしい。
それを聞くと、いつも思うことだが、この愚かさ、卑劣さに憤りを感じるのだ。
冷静に見れば負けが決まっていたのに、なにをやり遂げるつもりだったのか・・・。
目的のない「やり遂げる」という大義の前に大勢の命が失われた。
戦争は始めてならないものであるが、早期に止めるべきであることも考えるべきだ、と今回の件で強く思う。続ける必要など無いのだ。
その事実を世界中に知ってもらいたい。
アレックスに、今回の戦争の写真を「理由なき続けたことの罪過」というタイトルにしようと思う、と話したところ、彼はしばらく考え込んだ。
そして、とても穏やかな表情でそうか、と一言答えてくれた。真理はこの顔で彼にタイトルの意味が伝わったと安堵したのだった。
軍人として意味のない戦争に駆り出される悔しさはいかばかりかと思うが、それでも彼もサッシブが止めずに続けてしまった無意味さを憤り、同じ想いでいてくれている、と真理は確信している。
なぜなら、彼は自分が愛した男性《ひと》だから。
デイリータイムズの叔父にタイトルを知らせるメールを打ちながら、毎回願うことだが、どうか戦争が二度とおきませんように、そして今回からはもう一つ加わった・・・アレックスが戦場に立つ日が来ませんように、そう祈りを込めながら送信ボタンを押したのだった。
その知らせに、エステルと兄のトーマス、そしてソーンディック侯爵は王宮に登城し、かつての使用人が起こした王族への暴挙に謝罪をしたが、アレックスは取り合わなかった。
エステルとトーマスはともかく、エステルから報告を受けてなお、マダム・ウエストの凶行を保身から、なんら手立てもとらなかったソーンディック侯爵の罪は大きい。
ソーンディック侯爵も真理が狙われる分には興味が無かったが、まさか王子に銃を向けるとは想像もしていなかったのだろう。
結局、彼の傲慢な偏見が自分の首を絞めたのだ。
アレックスは、謝罪は必要ないし従業員の管理不行き届きを咎めるつもりもない、と伝えた上で、ただソーンディック侯爵とは色々な点で価値観が異なるから、今後話すことはないだろう、と言ったそうだ。
文字通りの王子からの絶縁宣言に侯爵は泡を吹いて慌て、とりなしを求めたが、王子達の側近も周辺の貴族達も取り合わなかったらしい。
いくら歴史ある貴族と言えど、今の社会に沿わないのであれば意味がない、悪しきモラルは不要だ、当然だろう?とアレックスは真理にいたって真面目にそう言ったのだ。
あくまでも国民の価値観に添い公平であろうとするアレックスの姿に真理の心がときめいたのは当たり前だ。
アレックスの毎日は忙しい。
戦争後から、軍人としての責務も王族としての役割も増えたようで、側近達にぶすぶす言いながらも、着実に公務をこなしている。
真理はといえば、アレックスの私邸で過ごしながら、撮影したウクィーナ共和国属国解放への軌跡を発表し続けていた。
相変わらず内外問わず高い評価を受けているそれらに、真理は考えた末やっとタイトルをつけた。
「理由なき続けたことの罪過」と。
戦争は始めるのは簡単だが、終わらせることが、とても難しい。どの国も戦争をするための大義名分があるからだ。
それがどんなにくだらない大義であったとしても、引くことが出来ないのが人間の愚かさだと真理は思っている。
いつだって権力者は、戦争の崇高な目的を探している。サイレン将軍もそうだった。
だが、サッシブ大佐はどうだろう?
真理は彼に対する多国籍軍の取り調べの内容を注視しているが、その大義がまったく無いと思えてならない。
今回の戦争は2回、明確に終わらせるチャンスがあった。
1つ目はサイレン将軍が死亡した時。2つ目はサイレン将軍の死亡後に後釜に傀儡として据えられたイダントが敗戦を覚悟して、停戦合意を国連に申し入れた時。
サッシブ大佐はそのどちらも戦争を止めることをしなかった。戦争を続けたのだ。
止めることすら考えつかなかった・・・ただ、サイレン将軍の遺志を継いで、やり遂げなければならない、戦い続けなければならない、と思ったと話しているらしい。
それを聞くと、いつも思うことだが、この愚かさ、卑劣さに憤りを感じるのだ。
冷静に見れば負けが決まっていたのに、なにをやり遂げるつもりだったのか・・・。
目的のない「やり遂げる」という大義の前に大勢の命が失われた。
戦争は始めてならないものであるが、早期に止めるべきであることも考えるべきだ、と今回の件で強く思う。続ける必要など無いのだ。
その事実を世界中に知ってもらいたい。
アレックスに、今回の戦争の写真を「理由なき続けたことの罪過」というタイトルにしようと思う、と話したところ、彼はしばらく考え込んだ。
そして、とても穏やかな表情でそうか、と一言答えてくれた。真理はこの顔で彼にタイトルの意味が伝わったと安堵したのだった。
軍人として意味のない戦争に駆り出される悔しさはいかばかりかと思うが、それでも彼もサッシブが止めずに続けてしまった無意味さを憤り、同じ想いでいてくれている、と真理は確信している。
なぜなら、彼は自分が愛した男性《ひと》だから。
デイリータイムズの叔父にタイトルを知らせるメールを打ちながら、毎回願うことだが、どうか戦争が二度とおきませんように、そして今回からはもう一つ加わった・・・アレックスが戦場に立つ日が来ませんように、そう祈りを込めながら送信ボタンを押したのだった。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
如月 そら
恋愛
遅刻しそうになり急いでいた朝の駅で、杉原亜由美は知らない男性にぶつかってしまった。
「ケガをした!」
ぶつかってしまった男性に亜由美は引き留められ、怖い顔で怒られる。
──え? 遅刻しそうな時にぶつかるのって運命の人じゃないの!?
しかし現実はそんなに甘くない。その時、亜由美を脅そうとする男性から救ってくれたのは……?
大人っぽいけれど、
乙女チックなものに憧れる
杉原亜由美。
無愛想だけれど、
端正な顔立ちで優しい
鷹條千智。
少女漫画に憧れる亜由美の
大人の恋とは……
※表紙イラストは青城硝子様にご依頼して作成して頂きました。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。
御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜
せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。
取締役社長
城之内 仁 (30)
じょうのうち じん
通称 JJ様
容姿端麗、冷静沈着、
JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。
×
城之内グループ子会社
城之内不動産 秘書課勤務
月野 真琴 (27)
つきの まこと
一年前
父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。
同じ日に事故で両親を亡くした真琴。
一年後__
ふたりの運命の歯車が動き出す。
表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる