恋人は戦場の聖母

嘉多山瑞菜

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最終章 きみを死なせない

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アレックスが盛大に仕組んだパーティは功を奏し、マダム・ウエストは目論見通りの罪状で起訴された。

その知らせに、エステルと兄のトーマス、そしてソーンディック侯爵は王宮に登城し、かつての使用人が起こした王族への暴挙に謝罪をしたが、アレックスは取り合わなかった。

エステルとトーマスはともかく、エステルから報告を受けてなお、マダム・ウエストの凶行を保身から、なんら手立てもとらなかったソーンディック侯爵の罪は大きい。

ソーンディック侯爵も真理が狙われる分には興味が無かったが、まさか王子に銃を向けるとは想像もしていなかったのだろう。
結局、彼の傲慢な偏見が自分の首を絞めたのだ。

アレックスは、謝罪は必要ないし従業員の管理不行き届きを咎めるつもりもない、と伝えた上で、ただソーンディック侯爵とは色々な点で価値観が異なるから、今後話すことはないだろう、と言ったそうだ。

文字通りの王子からの絶縁宣言に侯爵は泡を吹いて慌て、とりなしを求めたが、王子達の側近も周辺の貴族達も取り合わなかったらしい。

いくら歴史ある貴族と言えど、今の社会に沿わないのであれば意味がない、悪しきモラルは不要だ、当然だろう?とアレックスは真理にいたって真面目にそう言ったのだ。

あくまでも国民の価値観に添い公平であろうとするアレックスの姿に真理の心がときめいたのは当たり前だ。

アレックスの毎日は忙しい。
戦争後から、軍人としての責務も王族としての役割も増えたようで、側近達にぶすぶす言いながらも、着実に公務をこなしている。

真理はといえば、アレックスの私邸で過ごしながら、撮影したウクィーナ共和国属国解放への軌跡を発表し続けていた。

相変わらず内外問わず高い評価を受けているそれらに、真理は考えた末やっとタイトルをつけた。

「理由なき続けたことの罪過」と。

戦争は始めるのは簡単だが、終わらせることが、とても難しい。どの国も戦争をするための大義名分があるからだ。
それがどんなにくだらない大義であったとしても、引くことが出来ないのが人間の愚かさだと真理は思っている。

いつだって権力者は、戦争の崇高な目的を探している。サイレン将軍もそうだった。

だが、サッシブ大佐はどうだろう?
真理は彼に対する多国籍軍の取り調べの内容を注視しているが、その大義がまったく無いと思えてならない。

今回の戦争は2回、明確に終わらせるチャンスがあった。

1つ目はサイレン将軍が死亡した時。2つ目はサイレン将軍の死亡後に後釜に傀儡として据えられたイダントが敗戦を覚悟して、停戦合意を国連に申し入れた時。

サッシブ大佐はそのどちらも戦争を止めることをしなかった。戦争を続けたのだ。
止めることすら考えつかなかった・・・ただ、サイレン将軍の遺志を継いで、やり遂げなければならない、戦い続けなければならない、と思ったと話しているらしい。

それを聞くと、いつも思うことだが、この愚かさ、卑劣さに憤りを感じるのだ。
冷静に見れば負けが決まっていたのに、なにをやり遂げるつもりだったのか・・・。

目的のない「やり遂げる」という大義の前に大勢の命が失われた。
戦争は始めてならないものであるが、早期に止めるべきであることも考えるべきだ、と今回の件で強く思う。続ける必要など無いのだ。

その事実を世界中に知ってもらいたい。

アレックスに、今回の戦争の写真を「理由なき続けたことの罪過」というタイトルにしようと思う、と話したところ、彼はしばらく考え込んだ。

そして、とても穏やかな表情でそうか、と一言答えてくれた。真理はこの顔で彼にタイトルの意味が伝わったと安堵したのだった。

軍人として意味のない戦争に駆り出される悔しさはいかばかりかと思うが、それでも彼もサッシブが止めずに続けてしまった無意味さを憤り、同じ想いでいてくれている、と真理は確信している。

なぜなら、彼は自分が愛した男性《ひと》だから。

デイリータイムズの叔父にタイトルを知らせるメールを打ちながら、毎回願うことだが、どうか戦争が二度とおきませんように、そして今回からはもう一つ加わった・・・アレックスが戦場に立つ日が来ませんように、そう祈りを込めながら送信ボタンを押したのだった。
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