恋人は戦場の聖母

嘉多山瑞菜

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第12章 育った妄執と覚悟

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その夜は真理の部屋には戻らなかった。
クロードが気を利かせて、ホテルの部屋を取っておいてくれたのだ。

午前中にテッドとティナが迎えに来るから、のんびり過ごすっす、と、やり手の補佐官はさらりと言って自分は仕事に戻っていった。

部屋に入り、護衛達を人払いしたところで、アレックスに背中から抱きしめられる。
耳殻にキスされ、そのまま耳朶をやんわりと食まれる。

アレックスがホテルに向かう時から、少しそわそわしていたのは気づいていた。

「完全に治るまで我慢するって決めてたけど・・・ごめん・・・もう無理だ・・・真理が欲しい」

言って、うなじに唇を滑らせる。
彼の身体の熱さに真理は背中を震わせると、クルッとアレックスの方を向いた。

バツが悪そうな表情の中で、不安に揺れる琥珀色の瞳。
マダム・ウエストの話で、彼の中で心配と真理を危険に遭わせるかもしれないという怯えが葛藤してるのだろう。

アレックスは気づいてないが、不安や恐れ、心配が募ると、真理の身体を欲しがった。
PTSDの影響か。
肌を重ねることで、不安を払拭しようとしてるのかもしれない。

真理はアレックスの頬に手を添えて、微笑んだ。

「嬉しい。私はもう大丈夫。何度言っても触れてくれないから・・・飽きられたのかと思ってた」
 
ちょっと嫌味を混ぜて言うと、彼は驚いたような顔をして。

「まさか!!飽きるなんてありえないだろ?」

王子の返事にクスクス笑うと彼の逞しい胸に頬を擦り付けて言う。

「良かった。私も我慢の限界」

そう言うのと同時に身体がふわりと宙に浮いて、子供をあやすように腰を抱き抱えられてベッドルームに向かう。

とさりと、ベッドに仰向けに降ろされると、アレックスは傍に座り、真理の足首を優しく掴んだ。
履いていた靴を脱がされる。
するりと脚の脛からふくらはぎに手を滑らせると、そのまま覆い被さり抱きしめられた。

「君の香り・・・久しぶりだ・・・」  

お互いの体温を確かめ合うようにひとしきり、抱きしめ合うと、アレックスが身体を起こし両肘を顔を囲うように置くと、熱っぽい眼差しで見下ろす。

頬を擦り合わされ、柔らかく唇を重ね合わせて真理はほうっと安堵の吐息をついた。

どこかで自分も怖かったのかもしれない。彼を感じるとそれらが全て流されていくような気持ちになる。

アレックスは真理を熱っぽい眼差しで見つめたまま静かに口を開いた。  

「君を絶対に守るから。危険な目に合わせたりはしない」

真理は眼を潤ませて、彼の首に腕を回して肩に顔を埋めると「ありがとう」と答えた。
彼の唇がこめかみに触れて、甘い言葉が降り注ぐ。

「好きだ・・・真理、愛してる・・・」

幸せな酩酊感に酔いしれながら、彼に抱きついたまま、また「ありがとう」と返すと、アレックスが苛立ったように舌打ちした。

顔を上げて「どうしたの?」と問えば、アレックスはバツの悪そうな、でも甘やかな表情で答えた。

「なんて薄っぺらい言葉しか言えないのかって、自分に呆れる。
言えば言うほど安っぽくて、俺が真理をを求める気持ちに言葉が追いつかないんだ」

彼がそんな風に思っていたなんて!真理は驚いて瞠目すると、彼は唇を真理のそれに触れさせたまま続けた。

「いっそ、心臓を抉り出して、愛してる気持ちを証明できれば良いのに、って思う。
俺の全てを受け入れてくれる君が愛しくて、
昨日より今日、今日より明日、未来に向かえば向かうほど恋い焦がれてしまうんだ」

終わらない睦言に身体の奥まで侵食されながら、真理はアレックスに全てを委ねる

溢れる愛しさだけが、二人の身体を包み込んで・・・呼吸を分け合いながら、繋がりあうことだけに溺れていった。
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