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第10章 狂気の狭間、深まる気持ち
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36日目。
とうとうサッシブ大佐は人質解放をやめ、多国籍軍の交渉が無くなった。
残った人質はキャンプの運営スタッフと真理達ジャーナリスト、そしてウクィーナ共和国の子供達と妊婦のタマリナを含む43人だ。
あくまでも盾にする気なのだろう。
全員、サッシブ達が寝泊まりしている場所の前のテントに移動させられた。
しかも、人質の居場所を撹乱するためか頻繁にテントを変えられる。
1ヶ月を超える篭城に誰もが疲弊していた。
死がヒタヒタと目前まで来ているのを感じ取って怯えて泣き叫んでもおかしくない状況だ。
それでも誰もが気力を振り絞って、ジリジリするような恐怖に支配されるこの場に耐えていた。
難民キャンプでボランティアに従事するスタッフも戦地を取材するジャーナリスト達も、そして真理も思うことはただ一つ。
妊婦と子供達の命は守ろう、だった。
人質として残されたウクィーナ共和国の子供達は理不尽に親から引き離され暴力にさらされている。なんの罪もないこの子達を殺されてはならない。
ピリピリとした緊張感が高まり、行動も制限される。
人質達は食料も尽き、わずかな水を飲むだけで毎日を凌いでいた。
タマリナも子供達もスタッフ達も体力が限界に近づいてきた占拠41日目。
「ミリー、起きて」
そっと自分を呼ぶ声にパッと眼を覚ます。
静かに起き上がると、隣で寝ていたティナが起きている。
真理が顔を起こすと、静かにというように口に人差し指を当てている。
ティナの引き締まった今までとは違う表情に、真理はゴクリと息を呑んだ。
外に見張りの兵がいるから、それを気にしてだろう、ティナは潜めた声で真理に言った。
「GPSを入れてください。そして、何があってもここから動かないように」
ティナの言葉にハッとして真理は腕時計のGPSを入れる。
それを確認してティナは頷くと、いいですね、と言って立ち上がった。
「ティナっ!待って!」
彼女が振り返って、またシッと口を指で抑える。その手には医療用のメスが握られている。
ティナは安心させるようににっこり微笑むと、テントの外に静かに出て行った。
ティナが見張りになにかを話す声、そしてグエッという男の声とドサリと倒れる音がした瞬間、テントの外でピカッと照明のような光が暗闇に眩く煌めいた。
その刹那、テント頭上からたくさんのバラバラ、バラバラっという爆音が待ち構えていたように聞こえてくる。
空中から地上に人が降りているのだろう、激しいたくさんの足音と轟音、そしてロケット砲のような爆音が鳴り響き、なん発も撃ち込まれているのか、激しく地面が揺れる。
照明弾のような光がテントの外でチカチカ眩いている。
何が起きているのか真理ですら分からない。
テントの中で眠っていたスタッフ達も子供達も飛び起き、何事かと悲鳴を上げる。
外に逃げ出しそうな子供がいて、真理はハッと自分を取り戻すと「外に出ちゃダメっ!!交戦してる!!みんな動いちゃダメっ!!」と叫ぶ。
出口まで行きかけた子供を引きずり戻すと、全員で子供を守るように真ん中に集まり、身を寄せ合った。耳を抑え、蹲る。
これだけの轟音が鳴っているのに、サッシブの兵達はこちらに来ない、これはもしや・・・真理の胸が期待で高鳴った瞬間、テントの入り口がザっと開いた。
ヒヤリとして身を竦めたまま、様子を伺うとガツガツとした足取りで銃を構えた数人の兵士が入ってくる。
その姿を見て、真理も恐らくスタッフ達も気が抜けただろう、早くも泣き出す者もいた。
——グレート・ドルトン王国軍の装備服だ。
先頭で入ってきた軍人は、暗いテントの中をぐるっと見渡すと「お待たせしたっすね、もう大丈夫っすよ、良く頑張ったっす」そう声を掛けてくれる。
なんだか間抜けな感じの飄々とした声がけに、一瞬でテントの緊張感が緩んだ。
やっと助かったのだという実感が湧いてきて、誰もが抱き合って静かに咽び泣き始める中、ドルトン軍の兵士達がどんどん毛布や食料、水を運び込む。
程なくテント内に灯りがともった。
最初に声を掛けた軍人が、スタッフの一人と話して全員無事なことを確認すると「あー、こちらGD第1特殊部隊、レンブラント少将。予定通り人質は奪還、周辺300m制圧。全員無事っす」と通信機で話している。
やっと・・・やっと・・・急激な安堵感に子供を抱きしめたまま、ヘナヘナとへたり込んだ瞬間、真理はティナが戻ってきていないことを思い出した。。
「お願い!誰か!ティナをティナを探して!外に行ってしまったの!!」
叫ぶ真理に、通信を終えたレンブラント少将と名乗った男が近寄ってくる。片膝ついて毛布を肩に掛けてくれると、頭をよしよしと撫でられた。
「ミス・ジョーンズ、やっと会えたっすね」
年若い青年に、ニカッとこんな場所であり得ないほど爽やかに笑いかけられて、真理はあっと驚く。
以前に会ったことがあることを思い出したのだ。
「あっ・・・あなたは?!えっ?どうして?あっ、あの待って、待って、ティナが、ティナがいないの・・・」
混乱して頭がうまく動かない、あの時の彼が軍人で、ここになぜいるのか・・・いやいや、軍人ならなんであの時自分に声を掛けたのか・・・。
混乱したような真理を楽しそうに見つめると彼は「ティナは大丈夫っすよ」と答えて、さらに驚くことを言ったのだ。
「そうそう、ミス・ジョーンズのワンコは今、狂犬なみに先駆けでぶち込んで、大暴れしてるっすよ」
とうとうサッシブ大佐は人質解放をやめ、多国籍軍の交渉が無くなった。
残った人質はキャンプの運営スタッフと真理達ジャーナリスト、そしてウクィーナ共和国の子供達と妊婦のタマリナを含む43人だ。
あくまでも盾にする気なのだろう。
全員、サッシブ達が寝泊まりしている場所の前のテントに移動させられた。
しかも、人質の居場所を撹乱するためか頻繁にテントを変えられる。
1ヶ月を超える篭城に誰もが疲弊していた。
死がヒタヒタと目前まで来ているのを感じ取って怯えて泣き叫んでもおかしくない状況だ。
それでも誰もが気力を振り絞って、ジリジリするような恐怖に支配されるこの場に耐えていた。
難民キャンプでボランティアに従事するスタッフも戦地を取材するジャーナリスト達も、そして真理も思うことはただ一つ。
妊婦と子供達の命は守ろう、だった。
人質として残されたウクィーナ共和国の子供達は理不尽に親から引き離され暴力にさらされている。なんの罪もないこの子達を殺されてはならない。
ピリピリとした緊張感が高まり、行動も制限される。
人質達は食料も尽き、わずかな水を飲むだけで毎日を凌いでいた。
タマリナも子供達もスタッフ達も体力が限界に近づいてきた占拠41日目。
「ミリー、起きて」
そっと自分を呼ぶ声にパッと眼を覚ます。
静かに起き上がると、隣で寝ていたティナが起きている。
真理が顔を起こすと、静かにというように口に人差し指を当てている。
ティナの引き締まった今までとは違う表情に、真理はゴクリと息を呑んだ。
外に見張りの兵がいるから、それを気にしてだろう、ティナは潜めた声で真理に言った。
「GPSを入れてください。そして、何があってもここから動かないように」
ティナの言葉にハッとして真理は腕時計のGPSを入れる。
それを確認してティナは頷くと、いいですね、と言って立ち上がった。
「ティナっ!待って!」
彼女が振り返って、またシッと口を指で抑える。その手には医療用のメスが握られている。
ティナは安心させるようににっこり微笑むと、テントの外に静かに出て行った。
ティナが見張りになにかを話す声、そしてグエッという男の声とドサリと倒れる音がした瞬間、テントの外でピカッと照明のような光が暗闇に眩く煌めいた。
その刹那、テント頭上からたくさんのバラバラ、バラバラっという爆音が待ち構えていたように聞こえてくる。
空中から地上に人が降りているのだろう、激しいたくさんの足音と轟音、そしてロケット砲のような爆音が鳴り響き、なん発も撃ち込まれているのか、激しく地面が揺れる。
照明弾のような光がテントの外でチカチカ眩いている。
何が起きているのか真理ですら分からない。
テントの中で眠っていたスタッフ達も子供達も飛び起き、何事かと悲鳴を上げる。
外に逃げ出しそうな子供がいて、真理はハッと自分を取り戻すと「外に出ちゃダメっ!!交戦してる!!みんな動いちゃダメっ!!」と叫ぶ。
出口まで行きかけた子供を引きずり戻すと、全員で子供を守るように真ん中に集まり、身を寄せ合った。耳を抑え、蹲る。
これだけの轟音が鳴っているのに、サッシブの兵達はこちらに来ない、これはもしや・・・真理の胸が期待で高鳴った瞬間、テントの入り口がザっと開いた。
ヒヤリとして身を竦めたまま、様子を伺うとガツガツとした足取りで銃を構えた数人の兵士が入ってくる。
その姿を見て、真理も恐らくスタッフ達も気が抜けただろう、早くも泣き出す者もいた。
——グレート・ドルトン王国軍の装備服だ。
先頭で入ってきた軍人は、暗いテントの中をぐるっと見渡すと「お待たせしたっすね、もう大丈夫っすよ、良く頑張ったっす」そう声を掛けてくれる。
なんだか間抜けな感じの飄々とした声がけに、一瞬でテントの緊張感が緩んだ。
やっと助かったのだという実感が湧いてきて、誰もが抱き合って静かに咽び泣き始める中、ドルトン軍の兵士達がどんどん毛布や食料、水を運び込む。
程なくテント内に灯りがともった。
最初に声を掛けた軍人が、スタッフの一人と話して全員無事なことを確認すると「あー、こちらGD第1特殊部隊、レンブラント少将。予定通り人質は奪還、周辺300m制圧。全員無事っす」と通信機で話している。
やっと・・・やっと・・・急激な安堵感に子供を抱きしめたまま、ヘナヘナとへたり込んだ瞬間、真理はティナが戻ってきていないことを思い出した。。
「お願い!誰か!ティナをティナを探して!外に行ってしまったの!!」
叫ぶ真理に、通信を終えたレンブラント少将と名乗った男が近寄ってくる。片膝ついて毛布を肩に掛けてくれると、頭をよしよしと撫でられた。
「ミス・ジョーンズ、やっと会えたっすね」
年若い青年に、ニカッとこんな場所であり得ないほど爽やかに笑いかけられて、真理はあっと驚く。
以前に会ったことがあることを思い出したのだ。
「あっ・・・あなたは?!えっ?どうして?あっ、あの待って、待って、ティナが、ティナがいないの・・・」
混乱して頭がうまく動かない、あの時の彼が軍人で、ここになぜいるのか・・・いやいや、軍人ならなんであの時自分に声を掛けたのか・・・。
混乱したような真理を楽しそうに見つめると彼は「ティナは大丈夫っすよ」と答えて、さらに驚くことを言ったのだ。
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