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第10章 狂気の狭間、深まる気持ち
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恐ろしいほどに静まり返った部屋で、アレックスはウィリアム卿、そして多国籍軍総司令官 グレン・マッケシーや他国の将軍、司令官達と共に、その動画を見ていた。
戦後処理のために、まだ多国籍軍とグレート・ドルトン軍は制圧したガンバレン国の国防省に司令部を置いていた。
敵が捨てたその場所で、彼らはその戯言を聞いたのだ。
無残にひしゃげた夥しいテント、後ろには死体が積み上がっている。
逃走したガンバレン国軍 大佐のサッシブ・ユダ・ハマーリは引き連れた部下と並び叫んでいる。
「我らは降伏などしない。最後の一滴の血が流れるまで戦う。この難民キャンプは占拠した。激しい攻撃にさらされようとも、お前ら多国籍軍が侵入することはできない。ここに盾がある限り、お前達に勝利はない!我が国より出て行け!!!!!」
はははは、と耳障りな高笑いが響いて、そこで動画はプツリと終わった。
盾——難民キャンプにいる自国民もウクィーナ国民も、ボランティアスタッフも、そして取材に入っているジャーナリストも・・・人質に取り、盾とする。
正気の沙汰ではない。サッシブは狂っている。
女性と子供だけの難民キャンプを攻撃した非人道行為に世界中が怒りで震える。
100人近い死亡者が出ているだろうと推測されていた。
しかも自分の国の民が入っているキャンプだ。戦争は既に終わっている。サッシブが何を言おうとも、ガンバレン国は停戦を申し入れ降伏したのだ。
卑劣な、そして狂気としか思えないサッシブの声明に国連の許可のもと、多国籍軍は交渉には応じず、掃討することを決議した。
もちろん、ガンバレン国の民主主義勢力派もそれに同意をする。
これは戦争ではない、テロ行為だと・・・テロには屈しない、サッシブ達を殺害してでも、キャンプを解放する、世界の脅威として決まったのだった。
会議が終わり、ドルトン軍に与えられた執務室に戻ると、全員が青い顔をしたアレックスを気遣うように見つめた。
「よく叫ばなかったっすね」
首都で合流したクロードが青い顔をしたままのアレックスに声を掛けた。
アレックスは無言で目をギュッと閉じ、また開くとタブレットでサッシブの犯行声明の動画を再生した。
戦車の前には、人質達の一部が数十人、地べたに跪かされ、腕を頭の後ろで組まされている。
ショックを与えようと狙ったのだろう、そこには年端もいかない子供達と難民キャンプのボランティアスタッフ達。そしてジャーナリスト・・・真理達の姿があった。
動画を停止し、震える指先で真理の姿をなぞる。
この動画で真理を認めた瞬間、叫びたくなった。彼女からは事前にレオライナーにザルティマイ難民キャンプに取材に行くと連絡があった。
だから、ザルティマイ・キャンプの占拠の一報が入った時、彼女がそこにいることは分かっていたから、どうにか堪えることができたのだ。
そして、なによりも彼女は生きている。
まだ・・・。
「とにかく情報を集めろ、相手は装甲車も数台、兵も少ないはずだ。多国籍軍と一緒に絶対ぶっ潰す」
荒々しい発言に、だがウィリアム卿も頷いた。
「サッシブの交渉にはテッドを入れてもらうようにします、クロードの機動と諜報部隊は多国籍軍の特殊部隊と一緒にザルティマイ・キャンプへ送ります」
二人も想定していたことだったのだろう、頷いた。そして、そのあとウィリアム卿は厳しい顔つきのままアレックスに告げた・・・否、命じた。
「クリスティアン殿下、このザルティマイ難民キャンプ解放作戦は全て私が指揮します。貴方は作戦から外します」
その言葉にバッと顔を上げると、アレックスはウィリアム卿にガッと摑みかかった。
胸元をギリギリと握りしめて、なぜっ!と食いしばった歯の隙間から唸るように問う。
副司令官は怒りもせず、静かに王子の乱暴を受け止めた。
こう言われるのは分かっていた、分かっていたが、それでも納得出来ない。彼女がいるのだ・・・。
荒れた獣のようなアレックスを穏やかに見つめたままウィリアム卿は続けた。
「身内が人質になった場合は、関係者は交渉や指揮に入らないのが軍の規定です。冷静な判断ができないことは殿下もお分かりのはずだ。それに、万が一にもアメリア様が殿下の婚約者である事が相手にバレてはいけません。どうか、我々にお任せください」
クロードも厳しい顔で頷きながら、ウィリアム卿の胸ぐらを掴んだままのアレックスの手を引き剥がす。
同じく合流していたテッドも冷静な面持ちで、だが励ますように、全員の気持ちを代弁した。
「我々に勝機はあります。殿下、人質を・・・アメリア様を救出しましょう」
アレックスはやり切れない気持ちのまま、机をダンっと握り拳で叩く。
自分は祈るしかできないのか・・・。
無力な自分が・・・何も出来ない自分が厭わしい。
守ると言いながら助けに行くことすら許されない・・・そんな自分になんの価値があるのだろうか・・・彼女を失えば自分も生きてはいないのだ。
がっくりと顔を伏せてやっと弱々しく答える。
「分かった・・・みんな頼む・・・」
その言葉に全員頷いたのだった。
戦後処理のために、まだ多国籍軍とグレート・ドルトン軍は制圧したガンバレン国の国防省に司令部を置いていた。
敵が捨てたその場所で、彼らはその戯言を聞いたのだ。
無残にひしゃげた夥しいテント、後ろには死体が積み上がっている。
逃走したガンバレン国軍 大佐のサッシブ・ユダ・ハマーリは引き連れた部下と並び叫んでいる。
「我らは降伏などしない。最後の一滴の血が流れるまで戦う。この難民キャンプは占拠した。激しい攻撃にさらされようとも、お前ら多国籍軍が侵入することはできない。ここに盾がある限り、お前達に勝利はない!我が国より出て行け!!!!!」
はははは、と耳障りな高笑いが響いて、そこで動画はプツリと終わった。
盾——難民キャンプにいる自国民もウクィーナ国民も、ボランティアスタッフも、そして取材に入っているジャーナリストも・・・人質に取り、盾とする。
正気の沙汰ではない。サッシブは狂っている。
女性と子供だけの難民キャンプを攻撃した非人道行為に世界中が怒りで震える。
100人近い死亡者が出ているだろうと推測されていた。
しかも自分の国の民が入っているキャンプだ。戦争は既に終わっている。サッシブが何を言おうとも、ガンバレン国は停戦を申し入れ降伏したのだ。
卑劣な、そして狂気としか思えないサッシブの声明に国連の許可のもと、多国籍軍は交渉には応じず、掃討することを決議した。
もちろん、ガンバレン国の民主主義勢力派もそれに同意をする。
これは戦争ではない、テロ行為だと・・・テロには屈しない、サッシブ達を殺害してでも、キャンプを解放する、世界の脅威として決まったのだった。
会議が終わり、ドルトン軍に与えられた執務室に戻ると、全員が青い顔をしたアレックスを気遣うように見つめた。
「よく叫ばなかったっすね」
首都で合流したクロードが青い顔をしたままのアレックスに声を掛けた。
アレックスは無言で目をギュッと閉じ、また開くとタブレットでサッシブの犯行声明の動画を再生した。
戦車の前には、人質達の一部が数十人、地べたに跪かされ、腕を頭の後ろで組まされている。
ショックを与えようと狙ったのだろう、そこには年端もいかない子供達と難民キャンプのボランティアスタッフ達。そしてジャーナリスト・・・真理達の姿があった。
動画を停止し、震える指先で真理の姿をなぞる。
この動画で真理を認めた瞬間、叫びたくなった。彼女からは事前にレオライナーにザルティマイ難民キャンプに取材に行くと連絡があった。
だから、ザルティマイ・キャンプの占拠の一報が入った時、彼女がそこにいることは分かっていたから、どうにか堪えることができたのだ。
そして、なによりも彼女は生きている。
まだ・・・。
「とにかく情報を集めろ、相手は装甲車も数台、兵も少ないはずだ。多国籍軍と一緒に絶対ぶっ潰す」
荒々しい発言に、だがウィリアム卿も頷いた。
「サッシブの交渉にはテッドを入れてもらうようにします、クロードの機動と諜報部隊は多国籍軍の特殊部隊と一緒にザルティマイ・キャンプへ送ります」
二人も想定していたことだったのだろう、頷いた。そして、そのあとウィリアム卿は厳しい顔つきのままアレックスに告げた・・・否、命じた。
「クリスティアン殿下、このザルティマイ難民キャンプ解放作戦は全て私が指揮します。貴方は作戦から外します」
その言葉にバッと顔を上げると、アレックスはウィリアム卿にガッと摑みかかった。
胸元をギリギリと握りしめて、なぜっ!と食いしばった歯の隙間から唸るように問う。
副司令官は怒りもせず、静かに王子の乱暴を受け止めた。
こう言われるのは分かっていた、分かっていたが、それでも納得出来ない。彼女がいるのだ・・・。
荒れた獣のようなアレックスを穏やかに見つめたままウィリアム卿は続けた。
「身内が人質になった場合は、関係者は交渉や指揮に入らないのが軍の規定です。冷静な判断ができないことは殿下もお分かりのはずだ。それに、万が一にもアメリア様が殿下の婚約者である事が相手にバレてはいけません。どうか、我々にお任せください」
クロードも厳しい顔で頷きながら、ウィリアム卿の胸ぐらを掴んだままのアレックスの手を引き剥がす。
同じく合流していたテッドも冷静な面持ちで、だが励ますように、全員の気持ちを代弁した。
「我々に勝機はあります。殿下、人質を・・・アメリア様を救出しましょう」
アレックスはやり切れない気持ちのまま、机をダンっと握り拳で叩く。
自分は祈るしかできないのか・・・。
無力な自分が・・・何も出来ない自分が厭わしい。
守ると言いながら助けに行くことすら許されない・・・そんな自分になんの価値があるのだろうか・・・彼女を失えば自分も生きてはいないのだ。
がっくりと顔を伏せてやっと弱々しく答える。
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その言葉に全員頷いたのだった。
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