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第9章 同じ空の下
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ガンバレン国との睨み合いが続き、膠着状態が続く中、真理はティナを伴って、近隣の難民キャンプを見て回った。
ティナと話すようになって、さっぱりとした真面目な性格に気があい、2人で良く行動するようになっていた。 気のおけない話もでき、このキャンプでは女性も少ないことから、真理にとっても頼れる存在になっていたのだ。
叔父のロナルドに報告したところ、引き続き、そのまま行動を共にするようにと言われたので、真理に否は無かった。
どこもかしこも、荒んだガンバレン国から逃げてきた女、子供で溢れている。
男は軍に傾倒して兵士としてとどまっているか、無理やり徴兵に取られているとの話を聞き
自国民を犠牲にしてまで、ガンバレン国は何をしたいのだろうかと真理は思う。
国民たちは軍のクーデターに怯え、元の民主主義の政府に戻る事を熱望している。
侵攻されたウクィーナ共和国は多国籍軍の介入が早かったお陰で、難民はわずかのようだった。
ウクィーナ共和国民のための難民キャンプで、ガンバレン国兵士に夫を殺された女性や両親を連れ去られた子供の話を聞くと憤りを覚える。
どちらも被害者だ。
愛する者を失い、平和な日常を失わせた戦禍の罪は重い。
「ミリーはとてもフラットに取材をするんですね」
年上なのに彼女は真面目なのか、なぜか敬語だ。ティナの言葉に首を傾げた。
「敵も味方も関係ない、そこに生きる人の息づかいを大切にしてるように感じます」
その言葉に真理はにこりと笑った。
まさに自分が大事にしてることを言われたからだ。
「とても嬉しい褒め言葉だわ。それが私のスタンスだから。そこに生きる人に最大限、敬意を払い、息づかいを感じて、それを切り取りたいの」
「そうなんですね、勉強になります」
神妙な顔で頷くティナに、真理はアレックスの秘書、テッド・カーティスを思い出した。
どことなく雰囲気が似てる気がした。
彼は大変真面目で、洞察力に優れ、時々真理の本質の部分を鋭く指摘して褒めてくれる。
テッドが自分を褒めるたび、アレックスは少々嫉妬しながらも、その言葉に同意してくれた。
——アレク・・・——
最前線にいる恋人を思い出し、胸が疼くのを感じた。無意識に腕時計を触ってしまう。
さすがに今は彼の場所を知ることは控えていたし、衛星無線で連絡をすることもやめていた。
どこで傍受されるか分からず危険だ。
代わりに約束通り自分のGPSは入れっぱなしにしている。少しでも、これで彼が安心してくれると良いと願いながら。
「さっ、今日はメディア向けの発表があるから、そろそろ帰りましょう」
真理は気持ちを切り替えると、ティナに笑いかけながら、カメラの電源を落とした。
それは夜中に始まった。
「おいっ!起きろ!!」
ランディが真理のテントの入り口をザッと乱暴に開けると叫ぶように声をかけた。
「いよいよ始まるらしい!軍の広報がサテライト・TVのクルーを引き連れて出て行った。軍用車両に乗りたい奴は来いって言ってる」
真理は飛び起きると慌てて荷物とカメラを持ってランディと一緒に走った。彼が隣にテントを張っていたティナにも声を掛けてくれたので、彼女も真理達の後を追ってきた。
尋常ではない動きに気づいたジャーナリスト達は、どんどん用意されていた軍用車に飛び乗る。
何が起こるのか、いわずもがなだ。
いっぱいになってしまえば乗れずに取材のチャンスを逸するか、自分達で後を追うしかない。
真理たちが飛び乗ると、程なく定員になったらしく、10台ほどの軍用車は動き出した。
間に合ったことにホッとしながらランディとコソコソ話す。
「いよいよ開戦ね」
「恐らく」
「どこに行くのかしら」
30分ほど走って、国境にある山頂に連れて来られた。
ガンバレン国が一望できる。その奥、遥か向こうにアレックスがいるシュナイド砂漠があると思うと、また真理の胸はキュッと絞られるような痛みを感じる。
そんな思いを振り払い、周りを見れば慌ただしく動いている。
TVクルーがどんどんカメラを設置していくのを見て、いよいよ始まるのだと思うが、軍のメディアの周到さに真理は違和感を感じた。
今までの戦場でこれほどメディアが優遇されたことはない。
リポーターが前に出て撮影テストをしているのを見て、ハッと気がついた。
「もしかして、開戦を生中継するつもり?!」
真理の言葉にランディが吐き捨てるように答えた。
「多分、な!ご立派なこった!戦争を娯楽にするつもりだ」
戦争の姿を正当化し、自分達優勢にコントロールするのかと、驚いた瞬間、戦闘機の姿が視界に入った。
耳慣れた轟音が何十機も頭上を通り過ぎていく。カメラを構える間もなかった。ランディは撮影用のカメラを回している。
呆然と戦闘機の行く方を見ると、眩いばかりの鮮烈な光が爆音とともに、まだ真っ暗な地上に広がり始める。
空爆だ。
「たったいま開戦しました!多国籍軍の空襲が始まりました!」
興奮して叫びながら実況するリポーターの声を聞きながら、真理はちかちかと花火のように光る空襲の様子をただただ見つめていた。
ティナと話すようになって、さっぱりとした真面目な性格に気があい、2人で良く行動するようになっていた。 気のおけない話もでき、このキャンプでは女性も少ないことから、真理にとっても頼れる存在になっていたのだ。
叔父のロナルドに報告したところ、引き続き、そのまま行動を共にするようにと言われたので、真理に否は無かった。
どこもかしこも、荒んだガンバレン国から逃げてきた女、子供で溢れている。
男は軍に傾倒して兵士としてとどまっているか、無理やり徴兵に取られているとの話を聞き
自国民を犠牲にしてまで、ガンバレン国は何をしたいのだろうかと真理は思う。
国民たちは軍のクーデターに怯え、元の民主主義の政府に戻る事を熱望している。
侵攻されたウクィーナ共和国は多国籍軍の介入が早かったお陰で、難民はわずかのようだった。
ウクィーナ共和国民のための難民キャンプで、ガンバレン国兵士に夫を殺された女性や両親を連れ去られた子供の話を聞くと憤りを覚える。
どちらも被害者だ。
愛する者を失い、平和な日常を失わせた戦禍の罪は重い。
「ミリーはとてもフラットに取材をするんですね」
年上なのに彼女は真面目なのか、なぜか敬語だ。ティナの言葉に首を傾げた。
「敵も味方も関係ない、そこに生きる人の息づかいを大切にしてるように感じます」
その言葉に真理はにこりと笑った。
まさに自分が大事にしてることを言われたからだ。
「とても嬉しい褒め言葉だわ。それが私のスタンスだから。そこに生きる人に最大限、敬意を払い、息づかいを感じて、それを切り取りたいの」
「そうなんですね、勉強になります」
神妙な顔で頷くティナに、真理はアレックスの秘書、テッド・カーティスを思い出した。
どことなく雰囲気が似てる気がした。
彼は大変真面目で、洞察力に優れ、時々真理の本質の部分を鋭く指摘して褒めてくれる。
テッドが自分を褒めるたび、アレックスは少々嫉妬しながらも、その言葉に同意してくれた。
——アレク・・・——
最前線にいる恋人を思い出し、胸が疼くのを感じた。無意識に腕時計を触ってしまう。
さすがに今は彼の場所を知ることは控えていたし、衛星無線で連絡をすることもやめていた。
どこで傍受されるか分からず危険だ。
代わりに約束通り自分のGPSは入れっぱなしにしている。少しでも、これで彼が安心してくれると良いと願いながら。
「さっ、今日はメディア向けの発表があるから、そろそろ帰りましょう」
真理は気持ちを切り替えると、ティナに笑いかけながら、カメラの電源を落とした。
それは夜中に始まった。
「おいっ!起きろ!!」
ランディが真理のテントの入り口をザッと乱暴に開けると叫ぶように声をかけた。
「いよいよ始まるらしい!軍の広報がサテライト・TVのクルーを引き連れて出て行った。軍用車両に乗りたい奴は来いって言ってる」
真理は飛び起きると慌てて荷物とカメラを持ってランディと一緒に走った。彼が隣にテントを張っていたティナにも声を掛けてくれたので、彼女も真理達の後を追ってきた。
尋常ではない動きに気づいたジャーナリスト達は、どんどん用意されていた軍用車に飛び乗る。
何が起こるのか、いわずもがなだ。
いっぱいになってしまえば乗れずに取材のチャンスを逸するか、自分達で後を追うしかない。
真理たちが飛び乗ると、程なく定員になったらしく、10台ほどの軍用車は動き出した。
間に合ったことにホッとしながらランディとコソコソ話す。
「いよいよ開戦ね」
「恐らく」
「どこに行くのかしら」
30分ほど走って、国境にある山頂に連れて来られた。
ガンバレン国が一望できる。その奥、遥か向こうにアレックスがいるシュナイド砂漠があると思うと、また真理の胸はキュッと絞られるような痛みを感じる。
そんな思いを振り払い、周りを見れば慌ただしく動いている。
TVクルーがどんどんカメラを設置していくのを見て、いよいよ始まるのだと思うが、軍のメディアの周到さに真理は違和感を感じた。
今までの戦場でこれほどメディアが優遇されたことはない。
リポーターが前に出て撮影テストをしているのを見て、ハッと気がついた。
「もしかして、開戦を生中継するつもり?!」
真理の言葉にランディが吐き捨てるように答えた。
「多分、な!ご立派なこった!戦争を娯楽にするつもりだ」
戦争の姿を正当化し、自分達優勢にコントロールするのかと、驚いた瞬間、戦闘機の姿が視界に入った。
耳慣れた轟音が何十機も頭上を通り過ぎていく。カメラを構える間もなかった。ランディは撮影用のカメラを回している。
呆然と戦闘機の行く方を見ると、眩いばかりの鮮烈な光が爆音とともに、まだ真っ暗な地上に広がり始める。
空爆だ。
「たったいま開戦しました!多国籍軍の空襲が始まりました!」
興奮して叫びながら実況するリポーターの声を聞きながら、真理はちかちかと花火のように光る空襲の様子をただただ見つめていた。
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