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第6章 束の間の熱
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やけにハッキリと目が覚める。
久しぶりに熟睡して、気分がすっきりしてる。
アレックスは自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。
見慣れない部屋に、窮屈なベッド。
だが、ふわりとオレンジの香りがした瞬間、先ほどまで激しく真理と繋がっていたことを思い出した。
何度も耳元で繰り返し囁いた「愛してる」の言葉。
彼女はその言葉に頷いてくれていたのに・・・。
自分の腕の中に真理がいない、そのことに気づいた途端、また捨てられたのかとゾッと鳥肌が立ち、アレックスはベッドから弾かれたように立ち上がった。
「真理っ!!」
乱暴にドアを開け、次の間に飛び出すと
「目が覚めた?アレク」
真理が音に驚いたように目を丸くして、明るいキッチンに立っていた。
ホッと安堵して、 キッチンに入ると真理を引き寄せて抱きしめる。
「君がいないから・・・」
続きは言えなかった、捨てられたなんて、縁起が悪すぎて二度と口にしたくない。
真理はなんとなく王子の胸の内を察したのか、持っていた皿をシンク脇に置いて、抱きしめ返す。
「ごめんなさい、良く眠っていたからお疲れだと思って。それにもう夜だから夕食をと思ったの」
顔を上げて自分を見上げてくれる優しい瞳にアレックスはキスを落とすと、真理はくすぐったそうに笑った。
「君は身体は平気なのか」
彼女はうなじまで真っ赤になる。
加減できず無茶苦茶に抱いてしまったが、先ほどまでの彼女は、懸命に自分を受け止めてくれていた。
赤いうなじが目に入って、そこに付けた跡にもう一度キスをする。
真理ははぁと微かに熱い吐息を零すと、大丈夫と言って、アレックスの顔を見上げた。
「そろそろ、起こそうと思ってたの。出来上がったから・・・お腹は空いてないの?」
言われて気づく。そういえば成田に着いてから、すぐにリムジンバスに乗ってしまったから、今日は一日なにも食べていなかった。
キッチンの鍋や皿から美味しそうな匂いがして、途端にお腹がグーっとなると彼女が嬉しそうに笑う。
「今、テーブルにセットするから、その間にシャワー浴びてきたら?」
それから彼女は自分の腕の中で、困ったように眼を閉じた。
耳から首元にかけて、さらに真っ赤に染まってる。
「それでね、殿下、できれば何か着ていただきたいの」
言われてはじめて、自分が素っ裸だったことに気づいた。
軍人なせいか、自分的には気にならないが・・・真理をまた襲ってしまいそうにもなるので、とぐっと我慢する。
彼女の額に口付けて
「これはレディの前で失礼した。シャワー浴びて着替えてくるよ」
彼女の作る料理は美味い。
ドルトンの私邸で彼女が過ごしたわずかな数日、真理はいつも自炊していた。
買い物に行き、好きなものを買い、気軽に料理を作り、それを楽しむ。
デートをし始めた頃、趣味が料理だと聞いてから、彼女の料理が食べたくて仕方がなくなっていた。
自分は王宮の料理人が作る贅を凝らした料理、私邸では有名シェフが作る凝った料理を口にするが、あまり美味しいと思って食事をしていなかった。
だから、念願叶って、ヘルストン・パレス・コート・フェスティバルで食べた真理の料理は、とても美味しくて幸せなランチだった。
彼女の人柄のように優しくて、癒すような滋味にあふれていたから。
シャワーを浴びて、スエットに着替えたアレックスは濡れた赤毛のまま、ワクワクしながら食卓に着いた。
目の前にセットしてくれた料理は、どれこれも美味しそうな香りをさせて食欲をそそる。
「ありあわせだけど・・・」
真理がペリエを注いでくれたのを合図に、行儀が悪いが早速フォークを手にした。
性欲、睡眠欲が満たされればあとは食欲だろう、バカなことを思いながら、愛し人が差し出すサラダを受け取る。
見たことのない野菜が入った良く冷えてるサラダ。そこにはゴマの香ばしい香りの甘酸っぱいドレッシングがかかっていて病みつきになりそうだ。
香ばしく焼いたポークソテーにはフルーティなソースがかかっていて、添えてあるフォッカチャと良く合う。
冷たい豆のポタージュは後味がさっぱりしていてお代わりしてしまった。
ガツガツ食べる自分を真理は嬉しそうに見ながら、オーブンからキャセロールを出してきた。
「はい、マカロニチーズ」
「!!!!!わおっ!」
自分が大好きだと言った料理を覚えて作ってくれるなんて!幸せに頬が緩む。
真理もダイニングテーブルのアレックスの前に座った。隣じゃないのが不満だが仕方がない。
ここは距離が近いから我慢出来る、と思い直す。
彼女は食事をしながら、少し考え込むような顔をしたが、思い切ったように口を開いた。
そろそろ、話しをしなくてはいけないはわかってる。
「殿下・・・」
「アレク」
なかなか直らない敬称呼びを注意すると、真理はごめんなさい、と謝った。
なんとなくだが、王室のことを話そうとする時に敬称呼びするな、とアレックスはポークソテーを咀嚼しながら思った。
「・・・アレク、側近と護衛の方はどちらにいらっしゃるの?あと、ここはどうして分かったの?」
その質問に、どこから話そうかとアレックスは、鼻に皺を寄せた。
久しぶりに熟睡して、気分がすっきりしてる。
アレックスは自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。
見慣れない部屋に、窮屈なベッド。
だが、ふわりとオレンジの香りがした瞬間、先ほどまで激しく真理と繋がっていたことを思い出した。
何度も耳元で繰り返し囁いた「愛してる」の言葉。
彼女はその言葉に頷いてくれていたのに・・・。
自分の腕の中に真理がいない、そのことに気づいた途端、また捨てられたのかとゾッと鳥肌が立ち、アレックスはベッドから弾かれたように立ち上がった。
「真理っ!!」
乱暴にドアを開け、次の間に飛び出すと
「目が覚めた?アレク」
真理が音に驚いたように目を丸くして、明るいキッチンに立っていた。
ホッと安堵して、 キッチンに入ると真理を引き寄せて抱きしめる。
「君がいないから・・・」
続きは言えなかった、捨てられたなんて、縁起が悪すぎて二度と口にしたくない。
真理はなんとなく王子の胸の内を察したのか、持っていた皿をシンク脇に置いて、抱きしめ返す。
「ごめんなさい、良く眠っていたからお疲れだと思って。それにもう夜だから夕食をと思ったの」
顔を上げて自分を見上げてくれる優しい瞳にアレックスはキスを落とすと、真理はくすぐったそうに笑った。
「君は身体は平気なのか」
彼女はうなじまで真っ赤になる。
加減できず無茶苦茶に抱いてしまったが、先ほどまでの彼女は、懸命に自分を受け止めてくれていた。
赤いうなじが目に入って、そこに付けた跡にもう一度キスをする。
真理ははぁと微かに熱い吐息を零すと、大丈夫と言って、アレックスの顔を見上げた。
「そろそろ、起こそうと思ってたの。出来上がったから・・・お腹は空いてないの?」
言われて気づく。そういえば成田に着いてから、すぐにリムジンバスに乗ってしまったから、今日は一日なにも食べていなかった。
キッチンの鍋や皿から美味しそうな匂いがして、途端にお腹がグーっとなると彼女が嬉しそうに笑う。
「今、テーブルにセットするから、その間にシャワー浴びてきたら?」
それから彼女は自分の腕の中で、困ったように眼を閉じた。
耳から首元にかけて、さらに真っ赤に染まってる。
「それでね、殿下、できれば何か着ていただきたいの」
言われてはじめて、自分が素っ裸だったことに気づいた。
軍人なせいか、自分的には気にならないが・・・真理をまた襲ってしまいそうにもなるので、とぐっと我慢する。
彼女の額に口付けて
「これはレディの前で失礼した。シャワー浴びて着替えてくるよ」
彼女の作る料理は美味い。
ドルトンの私邸で彼女が過ごしたわずかな数日、真理はいつも自炊していた。
買い物に行き、好きなものを買い、気軽に料理を作り、それを楽しむ。
デートをし始めた頃、趣味が料理だと聞いてから、彼女の料理が食べたくて仕方がなくなっていた。
自分は王宮の料理人が作る贅を凝らした料理、私邸では有名シェフが作る凝った料理を口にするが、あまり美味しいと思って食事をしていなかった。
だから、念願叶って、ヘルストン・パレス・コート・フェスティバルで食べた真理の料理は、とても美味しくて幸せなランチだった。
彼女の人柄のように優しくて、癒すような滋味にあふれていたから。
シャワーを浴びて、スエットに着替えたアレックスは濡れた赤毛のまま、ワクワクしながら食卓に着いた。
目の前にセットしてくれた料理は、どれこれも美味しそうな香りをさせて食欲をそそる。
「ありあわせだけど・・・」
真理がペリエを注いでくれたのを合図に、行儀が悪いが早速フォークを手にした。
性欲、睡眠欲が満たされればあとは食欲だろう、バカなことを思いながら、愛し人が差し出すサラダを受け取る。
見たことのない野菜が入った良く冷えてるサラダ。そこにはゴマの香ばしい香りの甘酸っぱいドレッシングがかかっていて病みつきになりそうだ。
香ばしく焼いたポークソテーにはフルーティなソースがかかっていて、添えてあるフォッカチャと良く合う。
冷たい豆のポタージュは後味がさっぱりしていてお代わりしてしまった。
ガツガツ食べる自分を真理は嬉しそうに見ながら、オーブンからキャセロールを出してきた。
「はい、マカロニチーズ」
「!!!!!わおっ!」
自分が大好きだと言った料理を覚えて作ってくれるなんて!幸せに頬が緩む。
真理もダイニングテーブルのアレックスの前に座った。隣じゃないのが不満だが仕方がない。
ここは距離が近いから我慢出来る、と思い直す。
彼女は食事をしながら、少し考え込むような顔をしたが、思い切ったように口を開いた。
そろそろ、話しをしなくてはいけないはわかってる。
「殿下・・・」
「アレク」
なかなか直らない敬称呼びを注意すると、真理はごめんなさい、と謝った。
なんとなくだが、王室のことを話そうとする時に敬称呼びするな、とアレックスはポークソテーを咀嚼しながら思った。
「・・・アレク、側近と護衛の方はどちらにいらっしゃるの?あと、ここはどうして分かったの?」
その質問に、どこから話そうかとアレックスは、鼻に皺を寄せた。
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