恋人は戦場の聖母

嘉多山瑞菜

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第4章 溺れる愛しさ

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いつだってそうだ。

パタンとゲスト用のバスルームの扉が開く音がして、静かな足音とともに、彼女がリビングに現れる。

用意しておいたバスローブに華奢な身体を包み、髪をおろした彼女はひどくあどけない。
湯上りの蒸気した肌は朱く艶めいて、ほのかにあのオレンジの香りをふんわりと漂わせた。

ぶわり、と身体の中が熱くなり、心臓が早鐘のように鳴り響く。

いつだってそうだ、と繰り返し思う。
彼女の姿を見るとこんな風に感情がざわめいてしまう。

保っていた理性は限界で、今日はなんとしても彼女を抱こうと下心を持って決めていた。

焦っていると思われても仕方がない。

そう、俺は焦ってる。

アレックスは自分の気持ちに気づいていた。

この4ヶ月あまりで真理がとても自由だと気づいていた。

束縛もしがらみもなく、なにものもを恐れず、自分の足で立つ女性。
優しくて凛々しくて、そしてなににも縛られず自由に駆け回る芯の強い女性なのだと。

今までの自分の隣に立ちたがる女達とは違う。
王子という名声に目が眩んで、媚びへつらう存在とは。

だから焦る気持ちが募る。
真理にどんなに好きだ、愛してると告げても彼女は困ったように眼を伏せるだけ。

彼女に王子なんて必要ない。

それに自分の本気を理解していないのだ、と感じる。
このままだと、またすぐに彼女は自分の行きたいところへ飛び立ってしまう・・・。

自分に好意をもっているということを確かなものにしたい、、、真理の何もかもを自分に繋ぎ止めたい。

だからドロドロになるまで愛して、一つに溶け合いたいと、アレックスはそんな勝手なことを考えた。

自分の考えが狂ってるのはわかってる。
でも彼女を求める気持ちは止まらないのだ。


シャワーを浴びたい、と恥じらいながら請い願う彼女をなんとか理性を総動員してゲスト用のバスルームへ案内し、自分もプライベート用のバスルームでシャワーを手早く浴びた。

優しく、慎重に、丁寧に、大切に・・・

真理の姿を見てしまうと、それは無理だと欲望が警鐘を鳴らす。
華奢な身体を自分の下に組み敷いて、どこまでも暴いてしまいたい衝動。

欲情でコクリと喉がなる。

「おいで」

真理の手を握りしめ、ゆっくりと寝室へ誘った。



*****



優しく手を引かれて、連れてこられた部屋の大きなベッドを見て、真理はどうしよう、と思う。

繋いだ手から熱と緊張がドクドク漏れてるような気がした。

今日一日、ほとんど繋いでいた掌は、もう王子の手袋になってしまったかのように彼の手の感触を覚えてしまっている。

こうなることはずっと前から分かっていた。

ー速攻、ベッドに連れ込んで、やることやって、はい、サヨナラよー

キャロルに以前に言われた言葉が脳裏を過る。 

彼だったらそうしたっておかしくない。 
女優にモデル、貴族や実業家のご令嬢との華やかな恋愛遍歴がある方だ。

羨まれるほどの立場と名声と見た目があるのだから、何もこんな自分に時間をかけなくなったって良いのに・・・。

少々強引にデートを重ね、自分の気持ちが育つのを待ってくれた王子様。

一夜の遊びでも良い、私も王子様に楽しんで欲しいから・・・、そう思っても不安ばかりで。

ベッドに座らされて、ゆっくりとのしかかられる。

首筋にチュッチュッチュッとキスされて、そのまま彼の唇が胸元に滑る。
ローブの襟元を崩されて、自分が付けた跡に重ねるようにキス。

はぁ、とアレックスの色っぽい吐息が胸元から聞こえてきて、真理は顔をさらに朱に染めた。

 彼が身体を起こしてきて、今度は耳朶を柔らかに食む。
ゆるりと耳朶を舌先でなぞり、耳の穴にぷちゅっと舌を入れるとぐるりとなぞる。

「・・・ふぁっ・・・ぁぁあん」

やけに艶めいた声が出て、羞恥から口を押さえようとすると、アレックスの強い腕で阻まれて、シーツに押さえつけられた。

真上から顔を覗き込まれると、彼の顔はフェロモンたっぷりの男の顔で、真理はどうして良いか分からない。

「・・・声出したくないなら、、、」

そう言うと、彼の琥珀色の瞳が近づいてきて、堪らず眼を閉じると、口づけられる。

もう慣れたはずの深いキスは、それでも真理の思考を蕩けさせるのには充分で、口内を余すところなく彼の舌で擽られ犯されると、飲みきれない唾液が口の端から零れ落ちる。

「・・・んっ・・・ぁんっ」

真理の反応に気を良くしたようにアレックスの手が太腿に滑り落ちてきた時、真理はハッと身を強張らせると

「あっ、あのっ・・・殿下っ!待って!お願い、待ってください!!」

掴まれてない方の手で必死で、逞しい胸を覆うローブを押し返すと、アレックスがパッと顔を上げた。

「・・・嫌・・・か?」

自信なさそうに揺れ動く瞳、傷ついた顔をするから、真理は慌てて

「あのっ・・・違うの、違うんだけど!」

アレックスの眉尻が困ったように下がる。
その顔を見て、真理は意を決して告げた。

「私・・・経験がなくて・・・殿下を楽しませられないと思います」
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