恋人は戦場の聖母

嘉多山瑞菜

文字の大きさ
上 下
24 / 130
第3章 恋に落ちて

しおりを挟む
「へぇー、アレックス殿下でも、そんなことができるんすね・・・随分、ご執心っすね」

クロードのあけすけな物言いが、若干不愉快だが、機嫌の良いアレックスは不敬な発言を不問にふすことにした。

猛烈にタブレットで数々の申請を承認しながら、真理とのデートを思い出す。

「警戒心丸出しのミス・ハロルドにグイすぎじゃないっすか?」

「なんだよ、グイすぎって?」

「グイグイ行き過ぎの略っすよ」
「ふん、くだらん」

クロードの当然の小言も今のアレックスにはどこ吹く風だ。

「いや、彼女はこれくらいの方がいい。でないと、他の誰かに攫われる」

「でも、殿下のアプローチ、本気にしてないんすよね」

まぁ、王子に迫られてるなんて思わないっすよね、普通・・・とケラケラ笑いながら言うクロードにムッとした。

「だいたい、殿下は過去の悪業も多いっすし、遊び過ぎっすから。
あんなウブそうな女性じゃ、殿下の言葉が本気なんて理解できないっすよ、駆け引きだって無理っす」

「・・・別に俺が頼んだわけじゃない、みんな向こうから寄ってくるだけだ」

言い返すやんごとなきお方の言葉に、何もかもを見てきた側近はハイハイと軽く返事する。

「急に本気の相手が出来てしまって、貴方が執着したいのは、まぁ分かるんすが、それにしても相手の気持ちを無視するのはやめた方がいいっすよ」

ミス・ハロルドは軽く扱っていい相手じゃないっすから。

付け加えられた言葉に無視してないし、そんなことは分かっていると鼻白んで答えると、アレックスは先日の真理の様子を思い出す。

写真に夢中になったり、困ったり、急に気が強くなってみたり、清楚だったり、凛々しかったり、そして何よりも愛らしかったりーーー
彼女の新しい表情を見るたびに夢中になっていく。

命の恩人とかそういうことじゃない。
本当に一目惚れしたのだ。

あんな華奢でそれなのに戦地で写真を撮る勇気ある女性に。

ひたむきに戦場の過酷な現実を見つめ、伝えようとするその姿に。

アレックスは仕事の手を止めるとクロードに言った。

「俺は駆け引きするつもりはない。とにかく次にあっちへ行くまでに、彼女と会う時間を最優先でたくさん作れよ。彼女に俺の本気を理解してもらわないとな」

仕事を調整しろと命じられて、クロードはヘーイと返事した。

致し方ない、王子が本気ならこちらも頑張らねば。

首席補佐官としての腕の見せ所だ。

そこで、ハタとクロードは気付いた。

「それにしても、殿下、自分ってミス・ハロルドに会える日が来るんすかね?」

なにしろクロードは真理からはつきまとわれた危険な人間で認定されている。

アレックスは苦笑すると、ちゃんと話して会えるようにするから心配するなと返した。

どこまでも恋に楽天的な王子に側近は呆れたような吐息を零したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

もう2度と関わりたくなかった

鳴宮鶉子
恋愛
もう2度と関わりたくなかった

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら
恋愛
遅刻しそうになり急いでいた朝の駅で、杉原亜由美は知らない男性にぶつかってしまった。 「ケガをした!」 ぶつかってしまった男性に亜由美は引き留められ、怖い顔で怒られる。 ──え? 遅刻しそうな時にぶつかるのって運命の人じゃないの!? しかし現実はそんなに甘くない。その時、亜由美を脅そうとする男性から救ってくれたのは……? 大人っぽいけれど、 乙女チックなものに憧れる 杉原亜由美。 無愛想だけれど、 端正な顔立ちで優しい 鷹條千智。 少女漫画に憧れる亜由美の 大人の恋とは…… ※表紙イラストは青城硝子様にご依頼して作成して頂きました。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

処理中です...