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第3章 恋に落ちて
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案内されて入ってきた女性を見て、アレックスはぶわっと身体の中から熱が噴き出るような気分になった。
自信家が取り柄の王子でも、今の今まで、来てくれるのか不安だった。
彼女は、今まで自分の周りにいた女性とは全く違う。
だからこそ、あのお茶会で彼女の好きなことを探った。
自分が今まで適当にあしらってきた女性たちにしてきたことは役に立たないと分かっていたからだ。
アレックスは滅多に神に祈らないが、この時ばかりは自分の運の良さに感謝した。
彼女の好きなものの中に、即デートに結び付けられる絶好のモノがあったから。
今日の誘いはアレックスにとっては「自分に慣れてもらうためキャンペーン」の初デートなのだが、彼女は自分とどんなシチュエーションで会うのか、想像できなかったのだろう。
ドレスコードの質問があって、カジュアルで、と答えたおかげか、黒のVネックのシャツに、同じ色のテーパードパンツを合わせたシックな中に爽やかさのある服装で表れた。
ベージュのツイードのノーカラーのジャケットを羽織っていて、その着こなしが彼女の姿勢の良さと相まって、凛とした美しさを醸し出している。
艶やかな黒髪にシンプルなドロップ型の金のピアスが映えていて、どうしても彼女の耳に眼が言ってしまう。
無性に彼女に触れたい。
衝動を抑えるのに必死で。
立ち上がり彼女を出迎える。
満面の笑顔を浮かべているだろうことは自覚済みだ。
「来てくれてありがとう。えーと、ミス・・・」
暗に名前を名乗るよう、その先を濁して彼女を見つめると、目の前の想い人は困ったように瞳を伏せがちにしながら答えた。
「アメリア・真理・ジョーンズです。今日はお誘いありがとうございます。クリスティアン殿下」
「あー、俺のことはミドルネームのアレックスと呼んで欲しい、近しい人はみんなそう呼んでるんだ。ファーストネームはちょっと荷が重くてね」
言うと、また彼女は眉根を寄せて明らかに困った顔をする。
そういう表情も可愛いな・・・とアレックスは見惚れながら続けた。
「貴女のことは・・・同じようにミドルネームで呼んでいいかな、日本名だよね」
言いながら手を差し出すと、頬を赤らめながら真理はアレックスの手に自分のそれを重ねて、膝を落としてお辞儀をする。
「アレックス殿下・・・どうぞお心のままに」
そのよそよそしいというか、庶民からすれば王族に対しての当然な態度に、今度はアレックスの方が困って、彼女の下げた頭を見つめた。
抱きしめてチークキスくらいしたい・・・だが、無理そうだ。
いや、まぁ、仕方がない、そう気を取り直す。
まだ、出会ったばかりなのだから。
焦る必要はないのだ。
「それでは、真理、行こうか。案内するよ」
言ってエスコートのために彼女の腰に手を添えると、真理はビクッと肩を震わせた。
怖がらせない、慎重に・・・真理の香りが近くなったことでドクリと跳ねる鼓動を抑えながら、アレックスは自分に言い聞かせていた。
どんなに逡巡しても、真理の足はその場に来てしまっていた。
王宮での勉強会から10日が経っていた。
近頃はさすがに真理の気持ちも現実に戻っていて、あの王子から下賜されたスマートフォンの存在もやや気にならなくなっていた矢先、トークメッセージが届いたのだ。
---スピルナ・ホワイトの写真を観に行きませか----
真理はこのメッセージを観たときクラっとした。
スピルナ・ホワイトは星空やオーロラなどの自然を撮る有名な天体写真家だ。
たくさんの写真集を出していて、真理も冴え渡る漆黒の中で煌めく流星群の写真をSNSで観て以来、ずっとファンになっている。
だから観たいに決まってるのだ。
しかしスピルナ・ホワイトの写真をどこに観に行くというのか・・・肝心なことは何もなく、行くか行かないかだけの選択しかない。
王子に会ってはいけない・・・
夢を見ちゃいけない・・・
身分不相応だ・・・
パパラッチに撮られたら王子に迷惑がかかる・・・
迷って迷って、でも・・・王子の「貴女と話しがもっとしたい」そう言って柔らかく微笑んでくれた顔を思い出すと胸がどうしようもなく苦しくなる。
「これっきりにしよう」
自分の中の迷う気持ちに言い訳をする。
なぜか自分に関心を持つ王子に、はっきり言おう。
「あなたとお友達になるつもりはない。構わないでほしい」と。
そう決意して、真理は指定された待ち合わせ場所に赴いていた。
そこには迎えの車が到着していて、真理の姿を認めると運転手が恭しくドアを開けてくれる。
王子は現地で待っていると連絡があった。
誰もいない座席に乗り込むと、真理は落ち着かない気持ちのまま、動き出した車窓の風景に眼をやった。
落ち着け、落ち着けと言い聞かせながら。
自信家が取り柄の王子でも、今の今まで、来てくれるのか不安だった。
彼女は、今まで自分の周りにいた女性とは全く違う。
だからこそ、あのお茶会で彼女の好きなことを探った。
自分が今まで適当にあしらってきた女性たちにしてきたことは役に立たないと分かっていたからだ。
アレックスは滅多に神に祈らないが、この時ばかりは自分の運の良さに感謝した。
彼女の好きなものの中に、即デートに結び付けられる絶好のモノがあったから。
今日の誘いはアレックスにとっては「自分に慣れてもらうためキャンペーン」の初デートなのだが、彼女は自分とどんなシチュエーションで会うのか、想像できなかったのだろう。
ドレスコードの質問があって、カジュアルで、と答えたおかげか、黒のVネックのシャツに、同じ色のテーパードパンツを合わせたシックな中に爽やかさのある服装で表れた。
ベージュのツイードのノーカラーのジャケットを羽織っていて、その着こなしが彼女の姿勢の良さと相まって、凛とした美しさを醸し出している。
艶やかな黒髪にシンプルなドロップ型の金のピアスが映えていて、どうしても彼女の耳に眼が言ってしまう。
無性に彼女に触れたい。
衝動を抑えるのに必死で。
立ち上がり彼女を出迎える。
満面の笑顔を浮かべているだろうことは自覚済みだ。
「来てくれてありがとう。えーと、ミス・・・」
暗に名前を名乗るよう、その先を濁して彼女を見つめると、目の前の想い人は困ったように瞳を伏せがちにしながら答えた。
「アメリア・真理・ジョーンズです。今日はお誘いありがとうございます。クリスティアン殿下」
「あー、俺のことはミドルネームのアレックスと呼んで欲しい、近しい人はみんなそう呼んでるんだ。ファーストネームはちょっと荷が重くてね」
言うと、また彼女は眉根を寄せて明らかに困った顔をする。
そういう表情も可愛いな・・・とアレックスは見惚れながら続けた。
「貴女のことは・・・同じようにミドルネームで呼んでいいかな、日本名だよね」
言いながら手を差し出すと、頬を赤らめながら真理はアレックスの手に自分のそれを重ねて、膝を落としてお辞儀をする。
「アレックス殿下・・・どうぞお心のままに」
そのよそよそしいというか、庶民からすれば王族に対しての当然な態度に、今度はアレックスの方が困って、彼女の下げた頭を見つめた。
抱きしめてチークキスくらいしたい・・・だが、無理そうだ。
いや、まぁ、仕方がない、そう気を取り直す。
まだ、出会ったばかりなのだから。
焦る必要はないのだ。
「それでは、真理、行こうか。案内するよ」
言ってエスコートのために彼女の腰に手を添えると、真理はビクッと肩を震わせた。
怖がらせない、慎重に・・・真理の香りが近くなったことでドクリと跳ねる鼓動を抑えながら、アレックスは自分に言い聞かせていた。
どんなに逡巡しても、真理の足はその場に来てしまっていた。
王宮での勉強会から10日が経っていた。
近頃はさすがに真理の気持ちも現実に戻っていて、あの王子から下賜されたスマートフォンの存在もやや気にならなくなっていた矢先、トークメッセージが届いたのだ。
---スピルナ・ホワイトの写真を観に行きませか----
真理はこのメッセージを観たときクラっとした。
スピルナ・ホワイトは星空やオーロラなどの自然を撮る有名な天体写真家だ。
たくさんの写真集を出していて、真理も冴え渡る漆黒の中で煌めく流星群の写真をSNSで観て以来、ずっとファンになっている。
だから観たいに決まってるのだ。
しかしスピルナ・ホワイトの写真をどこに観に行くというのか・・・肝心なことは何もなく、行くか行かないかだけの選択しかない。
王子に会ってはいけない・・・
夢を見ちゃいけない・・・
身分不相応だ・・・
パパラッチに撮られたら王子に迷惑がかかる・・・
迷って迷って、でも・・・王子の「貴女と話しがもっとしたい」そう言って柔らかく微笑んでくれた顔を思い出すと胸がどうしようもなく苦しくなる。
「これっきりにしよう」
自分の中の迷う気持ちに言い訳をする。
なぜか自分に関心を持つ王子に、はっきり言おう。
「あなたとお友達になるつもりはない。構わないでほしい」と。
そう決意して、真理は指定された待ち合わせ場所に赴いていた。
そこには迎えの車が到着していて、真理の姿を認めると運転手が恭しくドアを開けてくれる。
王子は現地で待っていると連絡があった。
誰もいない座席に乗り込むと、真理は落ち着かない気持ちのまま、動き出した車窓の風景に眼をやった。
落ち着け、落ち着けと言い聞かせながら。
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