18 / 130
第2章 絡み合う時間
7
しおりを挟む
どうしよう、どうしよう・・・
真理は手の中のものを戸惑いとともに見つめていた。
新たな問題に直面していたのだ。
しかもこればかりは叔父にも相談できない・・・誰にも話せないのだ。
夢のようなロイヤルファミリーとの勉強会から3日、真理はこの困りごとをどうしたら良いか分からずにいた。
あの日、第二王子は丁重に王宮の庭園で自分をもてなしてくれた。
第二王子が見目麗しい青年であることはもちろん真理も知っている。
王室の中でも珍しい赤髪と琥珀色の瞳を持つプリンス。
180センチを超える長身と、訓練を受けた人特有のしなやかで逞しい体躯を持つ美丈夫だ。
2番目らしい天真爛漫さと奔放さで育ち、王室一番のやんちゃ坊主と国民から愛されている。
王族としては規格外の軍人としての働きに、誰もが第二王子を「グレート・ドルトン王国の軍神」と尊敬の念を持って呼び、陽気で気さくな性格から、ドルトン内で王室の公務に出れば、皆一様に敬愛するやんちゃ王子として感激する人気者。
自分はそんな王子にもてなされ、あまつさえこんな恐れ多いものをお預かり?頂戴??してしまったのだ・・・。
感謝のお茶会もそろそろ終わりだろうと真理が時間を気にし始めた時だった。
クリスティアン殿下とのお茶会はとても心地よく楽しい時間であっという間だ。
彼は噂に違わず、気さくでフレンドリーだ。
そして聞き上手で話し上手。
2人きりのテーブルで緊張する自分に、ロイヤルファミリーのちょっとお茶目なエピソードをおもしろおかしく話してくれたり、勉強会では話しきれなかった報道カメラマンの活動について聞かれたりしたのだ。
どのような信念で被写体と向き合うのかや取材に行く場所はどのようにして決めるのかなどを聞かれて、いつしか真理は夢中で話してしまった。
それを王子は優しい瞳で自分を見つめながらうんうんと楽しそうに聞いてくれるのだ。
その時間が終わるのが惜しい気になってしまったのは仕方がないと思う。
なにしろ雲の上のお方で、それが極上の男性との楽しい時間なのだから舞い上がってしまうものだろう。
王室補佐官が庭園に入ってくるのが真理の視界に入ってきた時、第二王子がおもむろにジャケットのポケットからスマートフォンを取り出して真理の前に置いた。
え、と王子を見ると彼の真剣な瞳とぶつかって。
「ミス・ハロルド、これを持っててもらえないか」
「はっ??どういうことですか?」
言ってる意味が分からず、ポカンと聞き返すと
彼は苦笑して続けた。
「貴女と話しをもっとしたい。これで連絡するから」
言われたことばにクラクラしたのは当然の話で。
補佐官があと数メートルでこちらにやってくるというタイミングで、スマートフォンに手を出さない真理に焦れたのか、王子は真理の手を掴み掌にスマートフォンを握らせた。
そして————
「次に会う時は貴女の本当の名前を教えて欲しい」
そう告げると、スマートフォンを握らせた指先に口付けたのだった。
真理は自分の指を見た。
小さいけど、女性らしくないゴツゴツとして荒れた指先。
それなのにあの王子は御伽噺のように、優雅に自分の指先にキスをした。
あの時の王子の唇の熱を思い出して真理の胸がドキドキと高鳴る。
勉強会からずっとあの王子の自分を見る眼は、写真のファンを超えていたと思う。
自惚れでなければ、だ。
だが、グレート・ドルトンきっての妙齢の王子は噂話もゴシップも浮いた話しもそれこそ数多くあるのも事実。
世間のゴシップに疎い真理でさえ第二王子のいろいろな浮き名は、普通に耳にする。
だからこそ、勘違いはしたくない。
「私の名前なんて・・・」
真理は溜息を吐いた。
勉強会では国王陛下達はみなこちらが出した条件を守って真理の個人的なことは何も尋ねなかった。
デイリー・タイムズとして【ハロルド】の素性を公開しないことは、カメラマンの活動を妨げない、【ハロルド】の命を守るために必要なことだと、強く念押ししていたからだ。
だからあの場では自分は、戦場カメラマンのミス・ハロルドとして扱われた。
だが、自分の簡単なプロフィールは王室府に提出されている。
王室府のセキュリティを考えれば当然のことで、秘匿するとの約束だから、それは真理も了承してした。
カメラマンとしての略歴とグレート・ドルトン王国民であるI.D.番号は伝わっているはずなのだ。
だから、第二王子は自分の名前を知っているはず、それなのに・・・。
「次なんて・・・」
あるはずないって分かってる。
相手は王子だ。
それなのに、どうしてこんなことをするのか、
からかわれているんじゃないか、そう何度も葛藤してしまうのに、どこか期待をしてしまう自分がいた。
母が亡くなってからは、日本を離れ、父と2人で世界中の戦地を巡ってきた。
だから、兵士や場末のおじさんとかとは馴れ合って話ができても、同じ年頃の異性とはほとんど関わりがない生活だったから、こんな風に男性に、しかも世界中から注目を浴びる王子様になんだか映画のように接せられると、どうしたら良いのかわからなくなってしまう。
真理は重苦しいため息を吐いて、テーブルに置いた真新しいスマートフォンを見つめていた。
真理は手の中のものを戸惑いとともに見つめていた。
新たな問題に直面していたのだ。
しかもこればかりは叔父にも相談できない・・・誰にも話せないのだ。
夢のようなロイヤルファミリーとの勉強会から3日、真理はこの困りごとをどうしたら良いか分からずにいた。
あの日、第二王子は丁重に王宮の庭園で自分をもてなしてくれた。
第二王子が見目麗しい青年であることはもちろん真理も知っている。
王室の中でも珍しい赤髪と琥珀色の瞳を持つプリンス。
180センチを超える長身と、訓練を受けた人特有のしなやかで逞しい体躯を持つ美丈夫だ。
2番目らしい天真爛漫さと奔放さで育ち、王室一番のやんちゃ坊主と国民から愛されている。
王族としては規格外の軍人としての働きに、誰もが第二王子を「グレート・ドルトン王国の軍神」と尊敬の念を持って呼び、陽気で気さくな性格から、ドルトン内で王室の公務に出れば、皆一様に敬愛するやんちゃ王子として感激する人気者。
自分はそんな王子にもてなされ、あまつさえこんな恐れ多いものをお預かり?頂戴??してしまったのだ・・・。
感謝のお茶会もそろそろ終わりだろうと真理が時間を気にし始めた時だった。
クリスティアン殿下とのお茶会はとても心地よく楽しい時間であっという間だ。
彼は噂に違わず、気さくでフレンドリーだ。
そして聞き上手で話し上手。
2人きりのテーブルで緊張する自分に、ロイヤルファミリーのちょっとお茶目なエピソードをおもしろおかしく話してくれたり、勉強会では話しきれなかった報道カメラマンの活動について聞かれたりしたのだ。
どのような信念で被写体と向き合うのかや取材に行く場所はどのようにして決めるのかなどを聞かれて、いつしか真理は夢中で話してしまった。
それを王子は優しい瞳で自分を見つめながらうんうんと楽しそうに聞いてくれるのだ。
その時間が終わるのが惜しい気になってしまったのは仕方がないと思う。
なにしろ雲の上のお方で、それが極上の男性との楽しい時間なのだから舞い上がってしまうものだろう。
王室補佐官が庭園に入ってくるのが真理の視界に入ってきた時、第二王子がおもむろにジャケットのポケットからスマートフォンを取り出して真理の前に置いた。
え、と王子を見ると彼の真剣な瞳とぶつかって。
「ミス・ハロルド、これを持っててもらえないか」
「はっ??どういうことですか?」
言ってる意味が分からず、ポカンと聞き返すと
彼は苦笑して続けた。
「貴女と話しをもっとしたい。これで連絡するから」
言われたことばにクラクラしたのは当然の話で。
補佐官があと数メートルでこちらにやってくるというタイミングで、スマートフォンに手を出さない真理に焦れたのか、王子は真理の手を掴み掌にスマートフォンを握らせた。
そして————
「次に会う時は貴女の本当の名前を教えて欲しい」
そう告げると、スマートフォンを握らせた指先に口付けたのだった。
真理は自分の指を見た。
小さいけど、女性らしくないゴツゴツとして荒れた指先。
それなのにあの王子は御伽噺のように、優雅に自分の指先にキスをした。
あの時の王子の唇の熱を思い出して真理の胸がドキドキと高鳴る。
勉強会からずっとあの王子の自分を見る眼は、写真のファンを超えていたと思う。
自惚れでなければ、だ。
だが、グレート・ドルトンきっての妙齢の王子は噂話もゴシップも浮いた話しもそれこそ数多くあるのも事実。
世間のゴシップに疎い真理でさえ第二王子のいろいろな浮き名は、普通に耳にする。
だからこそ、勘違いはしたくない。
「私の名前なんて・・・」
真理は溜息を吐いた。
勉強会では国王陛下達はみなこちらが出した条件を守って真理の個人的なことは何も尋ねなかった。
デイリー・タイムズとして【ハロルド】の素性を公開しないことは、カメラマンの活動を妨げない、【ハロルド】の命を守るために必要なことだと、強く念押ししていたからだ。
だからあの場では自分は、戦場カメラマンのミス・ハロルドとして扱われた。
だが、自分の簡単なプロフィールは王室府に提出されている。
王室府のセキュリティを考えれば当然のことで、秘匿するとの約束だから、それは真理も了承してした。
カメラマンとしての略歴とグレート・ドルトン王国民であるI.D.番号は伝わっているはずなのだ。
だから、第二王子は自分の名前を知っているはず、それなのに・・・。
「次なんて・・・」
あるはずないって分かってる。
相手は王子だ。
それなのに、どうしてこんなことをするのか、
からかわれているんじゃないか、そう何度も葛藤してしまうのに、どこか期待をしてしまう自分がいた。
母が亡くなってからは、日本を離れ、父と2人で世界中の戦地を巡ってきた。
だから、兵士や場末のおじさんとかとは馴れ合って話ができても、同じ年頃の異性とはほとんど関わりがない生活だったから、こんな風に男性に、しかも世界中から注目を浴びる王子様になんだか映画のように接せられると、どうしたら良いのかわからなくなってしまう。
真理は重苦しいため息を吐いて、テーブルに置いた真新しいスマートフォンを見つめていた。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
如月 そら
恋愛
遅刻しそうになり急いでいた朝の駅で、杉原亜由美は知らない男性にぶつかってしまった。
「ケガをした!」
ぶつかってしまった男性に亜由美は引き留められ、怖い顔で怒られる。
──え? 遅刻しそうな時にぶつかるのって運命の人じゃないの!?
しかし現実はそんなに甘くない。その時、亜由美を脅そうとする男性から救ってくれたのは……?
大人っぽいけれど、
乙女チックなものに憧れる
杉原亜由美。
無愛想だけれど、
端正な顔立ちで優しい
鷹條千智。
少女漫画に憧れる亜由美の
大人の恋とは……
※表紙イラストは青城硝子様にご依頼して作成して頂きました。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。
御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜
せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。
取締役社長
城之内 仁 (30)
じょうのうち じん
通称 JJ様
容姿端麗、冷静沈着、
JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。
×
城之内グループ子会社
城之内不動産 秘書課勤務
月野 真琴 (27)
つきの まこと
一年前
父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。
同じ日に事故で両親を亡くした真琴。
一年後__
ふたりの運命の歯車が動き出す。
表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる