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アレックスはずくずくと痛む脇腹を押さえ込みながら、半ば倒れこむように塹壕へ滑りこんだ。
なんとか保ててる意識を研ぎ澄まして外の気配伺うが、執拗についてきていた足音と自分を追う叫び声はもう聞こえない。
——神よ……感謝します——
その思いだけがアレックスの胸の中をかけめぐる。
もはや、痛みは遠い場所へ去り、自身の吐き出す荒い呼吸音とドクドクと異常なほどの大きさで鳴り響く鼓動だけが真っ暗な塹壕に響く気がした。
遠のきそうな意識を必死でつなぎとめ脇腹を見れば、どす黒い血が防弾ベストさえもしとどに濡らしている。
——これで終わりか……——-死ぬのか……俺は……。
はくはくと苦しい呼吸の中で、フッと笑みが零れる。
——それでもいい、敵に捕まるよりは……ここで死ぬのは……。
消えゆく意識の中でアレックスは祈った。
逃した部下たちが無事であることを。
ぽたぽたと自分の頬を冷たいものが伝う刺激でアレックスはぼんやりと目を開いた。
もう自分は神に召されたのだろうか――。ボンヤリとそんなことを思いながら身体を起こそうとした瞬間、灼熱に焼かれた剣を刺されような鋭い痛みが走る。
「うっ……あーあぁぁ」
身体を襲う激痛に悶えると、頭上からホッとしたような声が聞こえた。
「あー、良かった。意識はある」
予想もしない自分以外の人間の声に、アレックスは恐怖に身を竦ませる。
——-敵に見つかったか……——。
もう身体を動かすこともできない。
手は銃を探ることさえできず、微かに指先がビクついただけだった。
今度こそ終わりか、そう覚悟を決めたアレックスの強張った頬を、今度は温かいものが触れた。
手だ……宥めるように優しく撫でられる。
「大丈夫、味方だから。貴方は王国軍の兵士ね」
真っ暗な塹壕で、霞んだ視界では相手の姿もわからない。
ただ自分の頬を撫でる指先になぜか安堵を覚えて、アレックスは微かに頷いた。
「助けを呼ぶ。衛星無線あるから番号教えて」
言われた言葉に、本当に味方なのか判断する気力ももうなくて、アレックスはありったけの気力を振り絞り、自分を救助してくれるであろう番号を呟く。
その微かに絞り出された番号をどうしたのかは分からない。
慎重な手つきで、地べたに転がったままだった頭を抱き起こされ、なにかの上に乗せられる。
「止血をするから、かなり痛いけど我慢して」
その人はアレックスの防弾ベストを剥ぎ取り、装備服のジャケットをはだけると傷口を確認しているようだった。
「自分でしっかり抑えていたようね。これならいける」
言って灼熱に焼かれたように痛む傷に何か柔らかいものが押し当てられた瞬間
「ぐあっ!!!!!」
全身を切り裂くような鋭い痛みが駆け巡り、アレックスはまた意識を手放していた。
そこからの記憶は断片的で。
口の中に苦いものが押し込まれて、無意識に嫌々と首を振る。
飲めない水が唇を伝う感触。
優しく頭を抱き起こされると柔らかい心地よさに包まれる。
大丈夫、とまた宥めるような言葉の後、ふわりと温かい感触が唇を覆い、冷たい水が口の中に流れ込んでくる。
コクリと苦いものが喉の中を通り過ぎて。
痛みと寒さでガタガタ震える身体を、その人は暖めるように抱き寄せて、動かせない頭を軽くさすってくれる。
ふわりと爽やかなシトラスの香りが鼻腔をくすぐるような気がして。
「大丈夫、ゆっくり眠って。大丈夫だから」
朦朧とするアレックスの耳に最後に聞こえてきたのはなんだったのか……。
塹壕の中、死への恐怖から解放されて、アレックスは波間にたゆたうような穏やかな眠りに落ちていった。
なんとか保ててる意識を研ぎ澄まして外の気配伺うが、執拗についてきていた足音と自分を追う叫び声はもう聞こえない。
——神よ……感謝します——
その思いだけがアレックスの胸の中をかけめぐる。
もはや、痛みは遠い場所へ去り、自身の吐き出す荒い呼吸音とドクドクと異常なほどの大きさで鳴り響く鼓動だけが真っ暗な塹壕に響く気がした。
遠のきそうな意識を必死でつなぎとめ脇腹を見れば、どす黒い血が防弾ベストさえもしとどに濡らしている。
——これで終わりか……——-死ぬのか……俺は……。
はくはくと苦しい呼吸の中で、フッと笑みが零れる。
——それでもいい、敵に捕まるよりは……ここで死ぬのは……。
消えゆく意識の中でアレックスは祈った。
逃した部下たちが無事であることを。
ぽたぽたと自分の頬を冷たいものが伝う刺激でアレックスはぼんやりと目を開いた。
もう自分は神に召されたのだろうか――。ボンヤリとそんなことを思いながら身体を起こそうとした瞬間、灼熱に焼かれた剣を刺されような鋭い痛みが走る。
「うっ……あーあぁぁ」
身体を襲う激痛に悶えると、頭上からホッとしたような声が聞こえた。
「あー、良かった。意識はある」
予想もしない自分以外の人間の声に、アレックスは恐怖に身を竦ませる。
——-敵に見つかったか……——。
もう身体を動かすこともできない。
手は銃を探ることさえできず、微かに指先がビクついただけだった。
今度こそ終わりか、そう覚悟を決めたアレックスの強張った頬を、今度は温かいものが触れた。
手だ……宥めるように優しく撫でられる。
「大丈夫、味方だから。貴方は王国軍の兵士ね」
真っ暗な塹壕で、霞んだ視界では相手の姿もわからない。
ただ自分の頬を撫でる指先になぜか安堵を覚えて、アレックスは微かに頷いた。
「助けを呼ぶ。衛星無線あるから番号教えて」
言われた言葉に、本当に味方なのか判断する気力ももうなくて、アレックスはありったけの気力を振り絞り、自分を救助してくれるであろう番号を呟く。
その微かに絞り出された番号をどうしたのかは分からない。
慎重な手つきで、地べたに転がったままだった頭を抱き起こされ、なにかの上に乗せられる。
「止血をするから、かなり痛いけど我慢して」
その人はアレックスの防弾ベストを剥ぎ取り、装備服のジャケットをはだけると傷口を確認しているようだった。
「自分でしっかり抑えていたようね。これならいける」
言って灼熱に焼かれたように痛む傷に何か柔らかいものが押し当てられた瞬間
「ぐあっ!!!!!」
全身を切り裂くような鋭い痛みが駆け巡り、アレックスはまた意識を手放していた。
そこからの記憶は断片的で。
口の中に苦いものが押し込まれて、無意識に嫌々と首を振る。
飲めない水が唇を伝う感触。
優しく頭を抱き起こされると柔らかい心地よさに包まれる。
大丈夫、とまた宥めるような言葉の後、ふわりと温かい感触が唇を覆い、冷たい水が口の中に流れ込んでくる。
コクリと苦いものが喉の中を通り過ぎて。
痛みと寒さでガタガタ震える身体を、その人は暖めるように抱き寄せて、動かせない頭を軽くさすってくれる。
ふわりと爽やかなシトラスの香りが鼻腔をくすぐるような気がして。
「大丈夫、ゆっくり眠って。大丈夫だから」
朦朧とするアレックスの耳に最後に聞こえてきたのはなんだったのか……。
塹壕の中、死への恐怖から解放されて、アレックスは波間にたゆたうような穏やかな眠りに落ちていった。
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