上 下
92 / 95
最終章 ― 片思いはもうたくさん…。マリーゴールドには二度とならない…―

しおりを挟む
 どうして…こんなに胸が苦しんだろう…。

 リナの為にふろふき大根を炊いてやろうと思い、大根の皮を剥きながら桂は苦笑した。

 彼の元を離れてから1ヵ月余り…。いい加減…忘れろよ…。そう想うのだが、ふと気付けば亮の事を考えてしまう自分がいる。

 そして、今大根を見てマリーゴールドの事を思い出していた。

 マリーゴールドのままでいられたら、幸せだったのかもしれない。彼からどんな風な扱いを受けようと、側にさえ居られれば幸せだったのに…。セックス・フレンドでも…。

「もう…やめ、やめ」

 大根を鍋に入れて、火に掛けると桂は呟いた。

 考えたって仕方がない。すべては終わった事なのだから。
最近は亮を思い出して泣く事も無くなっていた。

 こんな風に時間が立てば想いは風化し、傷は癒えるのだろう…。

 リナは何も言わなかった。黙って桂を受けいれ、そして桂のマンションから当座必要な身の回り品を持って来てくれた。

「好きなだけ…ここに居て良いのよ」

 それだけを言って桂をそっとしておいてくれたのだ。それ意外は何も言わなかった。桂のスマートフォンが風呂の湯船から出てきた時でさえ…。

 その時の事を思い出して、桂はフッと笑った。あの時のリナは眼を白黒させながら、濡れそぼって使い物にならなくなった携帯を持って風呂場から出てきた。
そして一言「解約したら。」と言ったのだ。 

 なぜ、すべてが終った後まで、携帯が鳴るのか分からなかった…。なぜ、亮が今更自分と連絡を取ろうとしているのか…。

 あの日…すべてを終わりにした…。

 なぜか驚いたように自分を見つめる亮の視線が、胸に痛くて…たまらず、亮と甘く過ごした…一番愛しい場所を飛び出した。

 亮が自分の為に…と用意してくれたパジャマ…イタリア土産だと言って買ってきてくれたオリーブオイル…大事に…大事にしていた…見るだけで幸せになれたそれらを残して、亮の部屋を後にした…。

 …そして…それっきりになった…。

 亮は追ってこなかった。
一瞬だけ、昨夜のように自分を追って、抱きしめて欲しい…思った自分に、涙を零したあの日の切ない朝…。

 今また、桂を苦しめるようにひっきりなしに鳴るその音が辛くてならなかった。
ディスプレイに写る「山本」の文字。出たい…出て亮の声を聞きたい…。亮と話したい…。その想いと、もう放っておいて欲しい…その想い。

 鳴り響く携帯の着信音、その音が鳴り続けるのが苦しくて、そして…いつかその音が鳴らなくなる日が来るのが怖くて…耐えきれなくて、苛立ちと亮への想いをスマートフォンと一緒に水の中に沈めた…。

 ダイニングテーブルに置き去りにされた、壊れて使い物にならなくなったそれを眺めて、桂は瞳を少しだけ瞬かせた。

 自分と亮を繋いでいた唯一のもの、それが無くなった今…二度と亮に逢うことは無いのだろう…。思って少しだけ胸が軋んだ。

「いい加減にしろよ」

 女々しく亮の事を考える自分を叱咤しながら、桂は、早く…忘れなきゃ…な…と言い聞かせながら、リビングに戻るとテーブルに放ってあった郵便物を開封した。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...