上 下
89 / 95
第十五章  ― もう充分…そんな風に苦しんでくれただけで…。もう…終りにしよう…―

しおりを挟む
 優しい甘やかされた、マシュマロのようなふわふわした感覚に包まれて桂は目を覚ました。

 自分をしっかりと包み込む亮の逞しい体躯が、当然の様に有る事の喜びに桂の胸が不意に締めつけられる。

 グッスリと穏やかな寝息をたてている、亮の顔を見上げながら桂はおずおずと亮の額に手を伸ばした。

 サラリとした緩いウェーブの掛かった前髪を、満ち足りた想いで胸を温かくしながら、かきあげてやる。

 いつも彼の隣で目覚める度、キスできない寂しさを埋める為に儀式のように繰り返した行為…。

…これが最後かな…思って不覚にも涙が出そうになって慌てて桂は目尻を拭った。

 亮がんーと唸って、身体を捩る。手が桂の身体を抱き寄せると、ぱちっと目を開いた。慌てたように瞳を揺らすと、自分を見つめる桂の瞳を認めて嬉しそうに笑みを零した。

「おはよう」

 会話のきっかけを探すように、亮は少し照れたように朝の挨拶を口にしながら、はにかんだ笑みを目尻に含ませて桂を見ると、額にキスを落とす。

「うん…おはよう…」

 亮の言葉に答えながら、穏やかな亮に桂の鼓動がトクンと鳴った。亮は惜しそうに桂の身体を離すとゆっくりと起き上がる。

 亮の均整の取れた背中を見つめながら、桂もベッドから身を起こした。

「…ぁ…」

 途端…昨夜の行為の名残…疼くような身体の痛みと亮の…を感じて桂が軽く声を上げた。

 桂の様子に気付いた亮は、ベッドに腰掛けると桂の身体を横から抱き寄せる。こめかみに口付けると労わるように、大丈夫か…と呟いた。

 昨夜の貪欲に亮を求めて身体を激しく絡めあった光景が、思い出されて桂は羞恥に首筋まで真っ赤に染めた。

 桂が赤らんでいるのを楽しそうに亮は見つめると、首の筋肉のこわばりほぐしてやる様に揉んでやる。そして宥めるように甘く囁いた。

「昨夜は…久し振りだったから…。そんなに…赤くなるなよ…。俺の方がまた…欲しくなるだろ…」

 言ってまた瞼にキスを落とした。亮の唇の感触を瞼に感じた後桂は目を開けた。

 亮の優しい視線とぶつかって桂は照れて笑いを零した。亮も笑顔を見せる。二人でひとしきり笑った後亮が、今度こそ本当に立ち上がった。

「今…なにか飲むモノ持ってくる。待ってて…」

 ガウンを羽織って、寝室を出て行く亮の背中を、愛しさを顕にした瞳で見送ると桂はパタッとベッドの背に凭れてふぅっと息を吐いた。昨夜の亮との夜を繰り返し頭の中で再生する。

 甘くて優しいセックス。本当に心も身体も満たされるような行為だった。

 お互いのすべてを差し出して、一つに溶け合わすように身体を重ねた…。

 これで…満足しなきゃいけない…。健志さんに彼を返す前に…こんな風に心を通わせあって抱き合えた…。

 切ない笑みを零して桂は考えつづける…。
「あ…れ…俺…」 

 桂は亮に請われて口にした言葉を思い出して顔を赤らめた。
そう…確かに自分は告げていた…。好き…って…。

「どうしよう…。俺…なんて事…」

 口に出来ない想いを…言ってしまっていた…。
亮は覚えているだろうか…?いや…覚えてなんかいない…はずだ…。桂は諦めたように首を振った。

「所詮…ベッドの中の睦言さ…。覚えてなんかいるはずがない…」

 告げて…そして殺した亮への想いを考えて、桂は眼を閉じると涙を零していた。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...